登山道具界においても素材、製造技術が革新的に進歩している今日、インサレーションの封入やアルミなどの熱反射板を使用した、いわゆる冬季用のスリーピングマットが各メーカーからリリースされています。しかし、ユーザーが選択肢として挙げられるものの中で価格帯や重量、R値などの快適性のバランスがうまく取れているものはそう多くはないと思います。今回は、価格も比較的ローコストで、重量的にも無理せずに温かさを感じることができ、オールシーズンの活用に期待が持てるマット、KLYMITの「Insulated Inertia X-Frame」をご紹介します。

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よろしくお願いします。

初めまして、山に行っても街を歩いても「花より団子」、「団子よりも山道具」になってしまいがちな『こばっち』と申します。

毎月の稼ぎをギアに使い込み、金銭的に自身を追い込むことがマゾの悟りと自負していましたが、BBGのみなさんのマゾリ具合を目の当たりにして悶々とする日々・・・。

そんな折、さらなるマゾラーへの片道切符をいただき、BBGさんのお手伝いをさせていただくこととなった次第でございます。

皆様のマゾリ道の箸休め程度にご覧いただければと思います。

手に汗ほとばしる勢いで頑張りますので、よろしくお願いいたします。

KLYMITとは…

KLYMITとは、アウトドア製品を企画から生産まで一環して行うことのできるアメリカ・ユタ州発のメーカーです。

「インフレータブル・スリーピング・パッド」を代表作にひっさげ、多様な要求を満たすための製品を、最新技術を用いて様々な角度からアプローチして企画、設計し過去になかった発想の商品を得意としています。

その中でも代名詞的な存在なのが、マット自体をシュラフにINして使うために設計されたInertiaシリーズ。

大胆な肉抜きと独自のボディマッピングにより従来モデルよりも大幅な軽量化を果たしており、アメリカでは数々の賞も受賞しています。

そして今回ご紹介する「INSULATED INERTIA X FRAME(インシュレーテッド イナーシャ X フレーム)」は、本来寒冷期で使用するにはかなりのマゾリ具合を必要とする 「INERTIA X FRAME」「オールシーズンマットとして寒冷期でも使えるようにするのってどうよ?」とKLYMIT社に日本のUL界の大御所が呼びかけたことで、様々な工夫が盛り込まれ実現したものなのだとか。

製品情報

マットは肩から足先までをカバー(上) プリント部分(下)

特徴としてまず挙がるのは、KLYMITの代名詞でもある肉抜きデザインのInertia(シュラフにINして使用した時にシュラフのロフトを潰さずに活かすことができるのです。)シリーズであること。

肉抜き部分の盛り上がり具合がおわかりいただけるだろうか。

また、独自のボディマッピングにより、仰向けで寝たときに圧がかかる肩、尻、かかと部分をしっかり保持。

同社のマット3枚を比較。手前から「 INSULATED STATIC V LUXE」「INSULATED INERTIA X FRAME」「 INERTIA X LITE」。 保持する部分の違いに注目。

従来のInertiaシリーズは頭部までカバーされていますが、本モデルは肩までの設定。

これは、ドラフトチューブ(襟巻き)を採用しているシュラフでの使用を想定しているんですね。

上の写真のように頭までカバーしてしまうと、せっかくの襟巻きが潰れてしまうわけですが、

肩までしかない「INSULATED INERTIA X FRAME」はドラフトチューブ(襟巻き)を潰さず、枕との併用もできるなど、シュラフ内の温かい空気をできるだけ外に逃さないよう考えられています。

さらに、マットの内部には中綿(プリマロフトゴールド60g/㎡)を封入し、空気の対流をシャットすることで断熱性を確保しています。

素材は表地に30D、裏地は75Dのポリエステルを使用。

サイズは全て実測で、マット本体282g、付属品のリペアセット、ハンドポンプ込みで321g。

使用サイズは最長部で150cm×45cm、スタッフバッグに収納したサイズは22cm×12cm。

厚みは空気パンパンで3.5cm程度。

使用感

寝心地は個人差がある、というより、まずまずの使用感を得るにはその特徴的なマットの形状にフィットする体型であること、仰向けをキープできることが大前提だと思います。

僕自身は仰向けキープ可能、サイズ感もぴったり(僕はちょっと背伸びして175cm)で、ボディマッピングされたマットの形状とうまく合致、しっかり身体を支えてくれ、確かな温かさを感じることができました。

1月某日、奥多摩山域でタープ泊。

実際に冬季の奥多摩山域で使用してみましたが、-15℃くらいの範囲では概ね快適な睡眠ができました。

肩までのサイズにより、ドラフトチューブがしっかり機能し温かい空気を閉じ込め、マット内部のプリマロフトからはジワジワと温かさが伝わってきます。

もちろん、シュラフは襟巻きのついた冬季用のものを使うことが大前提ですが、保温性は中綿封入ということもあり一般的な3シーズン用マットより高いと思います。

しかし、肉抜きデザインであることと、身体と接する面が少ないので、厳冬期での単体使用では過度な期待はしないほうがいいでしょう。

寝袋とのサイズ比較。肉抜き箇所からのヒエヒエは感じます。

また、横向きで使用すると、身体の側面全体でマットに荷重を掛けてしまいます。

「INSULATED INERTIA X FRAME」は仰向け状態での荷重が想定されているので、結果的にロフトポケットのロフトを潰してしまい、本来の効果が得られないばかりか、ロフトポケットから直に冷気を感じてしまうことになるので注意が必要です。

写真の場合、脇腹、太もも辺りから冷気を感じてしまう。

マット自体は3〜4回の吹き込みで適度に膨らますことができるため、歩き疲れた後に息を吹き込むあの苦労(ハアハアゼエゼエ)は劇的になくなります。

また、寝ながらでもハンドポンプを使用して加圧できたり、逆にエアーを少しずつ排気することもできるので、すぐに自分好みのクッション圧にできるのがGood。

パンパンにエアーを入れた状態でシュラフにInし 、横になりつつ身体を位置調整しながら、少し身体が沈むくらい排気するといい感じになりMAX!

奥のバルブが吹き込み口。ひねって、逆流を防止できるやつ。 手前はポンプからの送気やワンプッシュでの排気ができる。

収納においても、二つの排気口(送気口からも抜けます)があることで、エアーを早く抜くことができ時短できます。(もともと、あまり空気は入りませんが。)

プリマロフトの圧縮性も相成ってペラペラになり、クローズドセルマットと一緒に巻き込んで収納することもできちゃいます。

こんな感じに、はみ出ないよう重ね合わせて巻くだけ。
ザックの容量を確保するだけでなく、マットへの不用意なダメージからも保護できるかもしれません。

 

僕はほとんどの場合、クローズドセルマットに「INSULATED INERTIA X FRAME」をブースターとして併用しています。トータルでもマット本体で約400g。重量増を抑えつつ快適な睡眠を手に入れることができました。

マットのレイヤリングとでも言いましょうか。

 

他のフルレングス冬季用マットは450~600g程度でがさばる物が多い中で「INSULATED INERTIA X FRAME」は、携帯性でのアドバンテージが大きいのではないでしょうか。

冬は特に荷物が多くなってしまうので、軽くがさばらないに越したことはありません。

そして、ダウン封入のマットの場合、エアーを注入した際の湿気った呼気により、せっかくのダウンのロフトを潰してしまう可能性もありますが、プリマロフトならばそのリスクを大きく軽減することができます。

氷点下により、呼気の水分が内部で凍結…なんてリスクにも付属のハンドポンプを使用することで対応可能です。

今回は冬季の使用レビューですが、無雪期シーズンであれば単体使用でもその効果は実感できると思います。

 

さて、普段ファストパッキングや、レースを意識した装備を使っていて、キルトや半シュラだから背面にシュラフのロフトがないよー!って方。

安心してください。使えますよ。

もしバフバフのダウンジャケットなどを持って行き、軽量化されたスリーピングバッグと併用するよ!って場合。

このダウンジャケットの背面に「INSULATED INERTIA X FRAME」を差し込みます。

イメージは、ドラゴンボールのセル。

そうするとあら不思議、バフバフのロフトが見事、ポケットに。

半シュラを使ったであろう時のイメージ図。背面のロフトはしっかり確保されている。

これ「冬の宴会は酒が回るまで寒いから、バフバフのジャケット持ってくよー!でもデロンデロンですぐ眠りに落ちるからその分シュラフは軽くしてくよー」って方にはすごい有効かと思います。

実践している塾生も見たことないので注目の的 間違いなし。







デメリット

  • マットの支持点が広くないため、ユーザーの体型がある程度限られてしまう。
  • 寝相が悪いと効果激減。
  • 皆が期待するであろう、厳冬期での単体使用は厳しいかと。
  • シュラフがロフトの低いもの、半シュラ、キルトなどの場合は工夫が必要である。
  • 息を吹き込む場合、呼気によりマット内部、バルブの凍結の可能性は否めないか?
  • 寝袋内で使うことを前提としているなら、パンクの可能性は低くなるので、もっと素材を薄くしてさらなる軽量化が図れるのでは?(要望)

とまあ、使う環境を考えればそれほどbadポイントは見当たりませんでした。

ただ、ユーザーの体型に関しては、合わないと全く意味がないので、可能であれば実店舗でのお試しをおすすめします。

オススメ

  • なるべく現状維持の装備でさらなる温かさを確保したい。
  • KLYMITのマット、今まで使ってたけど、冬も使いたい。
  • 荷物が多く、がさばる冬にこそ軽量化を促進したい。

など、その軽さと応用力の高さから、ストイックなUL派の人、目新しいギアには目がないヨ!って人はもちろん、今までの愛用ギアもきちんと使いたいって人にもおすすめです。

何より、いろいろな組み合わせの可能性を秘めているスリーピングマットだと思いますので、山行ごとにいろいろな方法を試してBestな組み合わせを作り出すのも楽しめちゃいます!

まとめ

工夫次第でオールシーズン使えるエアーマット「INSULATED INERTIA X FRAME」のレビューはいかがだったでしょうか。

(奥さんに内緒で無理して買ってしまい、ちょっと申し訳なくなってしまうような値段設定の)冬季用シュラフのバフバフロフトを活かすには一考の価値ありではないでしょうか。

睡眠時の暖かさを感じても、懐の寒さと奥サマの冷たい態度が改善されることはありませんけどね…。

全くマットが写っていない。

スリーピングマットはウェアやザックと違い人目にもつかない地味な存在なのに価格設定も割とお高めなので、あまり買い替えを考えずに購入する人がほとんどだと思います。

ですが、雪山を始めたり、装備の軽量化に壁を感じたりすると、結局シュラフ同様に考え直さなくてはならなくなります。

今回の「INSULATED INERTIA X FRAME」は、「初めてマットを買う!」っていうような人よりも、雪山を始めるだとか、いくつかのマットを実際に試してみて、買い替えや追加購入を考えているようなユーザーにこそおすすめできるアイテムだと思います。

あくまでも、無駄を削ぎ落とすことで軽量化を図っていることを理解していれば、先述した機能やコスト面から見ても、概ね満足することができるスリーピングマットなのではないでしょうか。

アイテム名 INSULATED INERTIA X FRAME INERTIA X FRAME INERTIA X LITE
画像
重量 279g 258g 173g
サイズ 145 x 45 x 38 cm 180 x 45 x 3.8 cm 107 cm x 46 cm x 4 cm
パックサイズ 12.7x22.8cm 12.7 cm x 22.8 cm 4 cm x 15 cm
付属品 ポンプ、スタッフサック、修理キット ポンプ、スタッフサック、修理キット ポンプ、スタッフサック、修理キット
カラー レッド イエロー、Recon、カモ オレンジ、Recon
価格 14,500円+税 13,000円+税〜 11,500円+税
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以上、新入塾生 こばっちでした。

ご清聴ありがとうございました。

押忍!