皆さんは山で不思議な体験をされたことはありますか?私は何度か不思議(恐怖)体験をしています。
不定期で連載する『山でほんとにあった怖い話』第一話『隣人』。
アナタの隣にいる人は実在する人ですか…?ぎゃーーーーす!!!!(文・アツシオガワ)

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隣人

あれは、よく晴れた7月の北アルプスでの出来事である。

私は、上高地から入山し重太郎新道を通って奥穂高を目指していた。

 

翌日には、ジャンダルムを越え西穂高へと抜ける最難関ルートを計画していたのだ。

雲ひとつない快晴のなか「ザ・夏山」を満喫していた。

 

森林限界を超えると容赦なく照りつける日差しに一瞬で黒焦げにされてしまった。

急登で有名な重太郎新道もなんなく通過し、前穂に立ち寄ってから目的地の「穂高岳山荘」に付いたのは13時頃。

 

平日ということもあり、テン場には1番乗りであった。

 

小屋でテント泊の受付とお約束のビールを購入。

小屋へのアクセスが一番いい特等席にテントを張った。

常念山脈を眺めながらビールを飲み干すと、いつの間にか寝てしまっていた。

 

 

男性2人組が楽しそうに会話をしながらテントを設営している声で目が覚めた。

しばらくテントの中でぼーっと2人組の会話を聞いていると、どうやら大キレットを越えてきたようだ。

 

さぞかしアドレナリンが出て興奮している事だろう。

 

それにしても、すごく近くで設営している気がする。

いや、近くというより隣のスペースに張っているようだ。

 

僕が寝てしまっている間に意外とテン場が埋まってしまったのかもしれない。

 

平日だけどやっぱり人気なのかなー?

そんなことを考えながら、とりあえず挨拶をしようと外に出た。

 

すると案の定、スグ隣のスペースに彼らは幕営していた。

 

棚田状になっている穂高岳山荘のテン場を見渡す。

・・・・

・・・・

だ、誰もいない…。

 

へ・・・?

・・・・

上も下も張りたい放題の中、私のスグ隣のスペースにテントが張られている。

 

なんで…??

・・・・

他人が見たら間違いなく同じパーティーって思う距離感。

 

・・・・

なぜだ。

 

なぜ、わざわざ私のスグ隣に張ったんだ。

いくら小屋へのアクセスが一番良いからって、ま隣に張ることないじゃないか。

 

私は少しイラッとしたが「別のところに張れ」と言うことも出来ないので、若干のモヤモヤを飲み込み、お隣さんへ挨拶することにした。

 

年の頃は変わらないであろうお兄さんが一人だけテントの外に出ていた。

 

オガワ「こんにちは。」

隣人A「こんにちは。」

 

どんな変なヤツかと思っていたが、普通の人で拍子抜けした。

 

やはり大キレットを抜けてきたようで、明日は私と同じくジャンダルムを経て西穂高に向かうらしい。

 

「なんで隣に張ったんですか?」と喉元まで出かかったが、言うのは止めた。

 

テントの中は静まりかえっている。

相方さんは疲れて寝てしまったのだろうか?

また夕飯の時にでも挨拶しよう。

 

特にすることもないので、少し早い夕飯にすることにした。

すると同じタイミングで隣人Aもテントの外に出てきた。

どうやら彼らも夕飯の支度をするようだ。

 

夕方になり、少し風が出てきた。

テントをバタバタと風がいたずらをする。

 

風で会話の内容は聞こえなかったが、相方の隣人Bも目覚めたようだ。

明日の作戦会議をしているようだった。

 

アルファ米を戻している間に小屋へビールを買いに行く事にした。

隣人のテントの脇を「すみませーん」と軽く頭を下げながら通る。

 

なんで私がペコペコせにゃならんのだ。と思いつつも、気遣ってひと声かけた。

 

オガワ「小屋にビール買いに行くんですが、お酒足りてますか?」

隣人A「ぼく酒飲めないんで大丈夫です。」

オガワ「相方さんはビールとか大丈夫ですか?」

 

テントの中にいるであろう隣人Bにも問いかけた。

 

すると隣人Aが不思議そうな顔でこちらを見ながらこう言った。

 

 

「僕…ソロですよ」と。

 

 

・・・へ?

いやいやいや、めっちゃ会話してましたやん!

テントの中から2人の会話聞いてますから!!

 

よく見ると、2人では明らかに狭いであろうモンベルの「ステラリッジ1」が張られている。

 

入口が開いていたので、チラッと中を覗くと確かに誰もいない。。。

 

オガワ「あ、へ?あー。すみません、お二人だと勘違いしてました。アハハハ」

 

怖い怖い怖い怖い

無理無理無理無理

 

二人の会話だと思って聞いていたのは、全て隣人Aの独り言だったのである…!!

 

怖い怖い怖い怖い

無理無理無理無理

 

ビールを買ってテントに戻ろうとすると隣人Aが話しかけてきた。

 

「明日何時頃出発しますか?」と。

 

その質問に含まれる「明日一緒に歩きませんか?」を感じ取った私はとっさにこう答えた。

 

「たた体調がすす優れないので、もももしかしたらジジジジャン行かずにおお下りるかもです。。。ハイ」

 

ビールガバガバ飲んでるヤツがフルスイングのウソをかました瞬間だった。

 

隣人A「ああ、そうですか。僕、薄暗いウチから出発する予定なのでうるさかったらゴメンナサイ」

 

「ま隣に張るからだろ!」をヱビスビールと一緒に飲み込み

 

「気にしないでください」

 

と営業スマイルで華麗にかわし、テントを締め切って食事をした。

 

その後も度々現れる隣人Bとの会話。

 

こ、怖すぎる。。。

 

独り言じゃなくて、彼には見えちゃいけない人が見えてるんじゃないだろうか??

 

その見えちゃいけない人を大キレットで捕まえて意気投合。

明日は一緒にジャン行きまーす!!

 

ってバカやろ!

怖すぎるっつーの!!

 

私はあまりの恐怖にスキットルに入ったウイスキーを一気飲みし、気絶するように眠りについた。

 

 

翌朝。

3時半起床。

まだ夜明け前である。

 

陰陽師Aのテントに聞き耳を立てる。

 

….

無音。

 

わ、本当に暗いウチに出発したんだ。。。

耳栓していたこともあり、陰陽師Aの撤収に一切気がつかなかった。

 

私も身支度を調えテントを撤収するために外に出ると

 

 

 

 

 

 

ぎゃーーーーす!!!!

まだいますやん!!!

 

AM4:30

夜明け前から出発すると豪語していた陰陽師Aは、ドデカいねっぺを数発かましながら、スースーと寝息をたてていた。

 

ぎゃーーーーす!!!!

 

おわり