「川旅」──── 昨今軽量コンパクトな「パックラフト」が注目を浴び、メディア露出も増えてこの世界に憧れを抱くハイカーや登山者が多くなってきた。一方で「なんとなく面白そう」とは思っても、じゃあ具体的にどう楽しんだらいいのか?何を揃えたらいいのか?そもそも自分には難しいんじゃないかと思っている人も多いだろう。そこで長年そこらじゅうの川で遊びまくってきたユーコンカワイが、今回から「魅力編」「準備編」「実践編」の3回に分けて川旅の素敵さをお伝えしちゃうのである。

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所詮ただの遊びだ

今回のシリーズは「基本的に登山やハイクが趣味だけど最近川旅が気になってる。もしくは始めたいんだ!」って人向けに話を進めて行きます。

川下りにはいろんなスタイルあるが、個人的に最も川旅感を味わえる「パックラフト」を中心にその魅力と必要最低限の装備、実際の旅のテクニックを書いて行きますね。

で、まず最初に言っておこう。

川旅は難しいもんでもなんでもなく、基本的にただの「遊び」だ。

無理に専門用語を覚える必要もなければ、肩肘張って身構える必要なんてナッシング。

初期投資も基本的にパックラフト、パドル、ライフジャケットのみで、他は登山のスタイルで十分応用可能。

パックラフト初心者BBGアツシオガワ。登山ヘルメット+上下レインジャケット+トレランシューズで優雅に漂う。

そしてカヌー・カヤック・パックラフトとか色々あるけど、そんなもんはただ川で遊ぶための道具の一つであり、別にビート板1枚で川を下ったって川旅だ。なんなら川下らずに川原でタープ張ってグダグダするのだって立派な川旅だ。

逆を言えばただ川を下るだけでは川旅としては「非常にもったいない」

途中で川に潜ったり、釣りをしたり、誰もいない素敵な川原で昼寝したり、本を読んだり、焚き火をしたり、川のせせらぎを聞きながら満天の星の下で眠ったり…

僕はそれらをひっくるめて「川旅」と呼んでいる。

第1回目となる今回は、パックラフトのうんちくや装備がどうとかより、まずはその辺の川旅の「魅力」から語り倒そうと思っている。

日帰り川旅

まず川旅にもいろんなスタイルがあるが、勝手に大きく分けると「日帰り川旅」「野営川旅」「冒険旅」の三つがある。

ダムや堰の多い日本の川ではなかなかロングツーリングできる川も少ないので、最初は日帰りスタイルで「純粋に川下りを楽しむ」ところから始めることになるだろう。

激流下りを楽しむもよし、穏やかな川でのんびりと流れていくもよし。

例えば僕の場合の王道的な日帰りスタイルがこれである。

基本的に清流であり、適度な瀬と穏やかな区間が交互に現れ、素敵な河原が点在してる川がいい。

そして「これは!」って川原を見つけたらさっさと上陸して、焚き火して飯食って昼寝をかますってのがサイコーに幸せな時間だ。

正直「川下り2+川原グダグダ8」の割合でも、十分に至極の時間を満喫できるのが日帰り川旅の魅力なのである。

この動画のような川は、水深が浅くても漕行可能&川へのエントリーが容易なパックラフトだからこそやれる王道パターンだ。

 

ちなみにこの時は川沿いをバスが走っていたので、好きなところで適当にゴールしてバスに乗ってスタートの車の場所まで戻っている。

川下りにおいて「下った後どうすんの?」ってのが一番多い質問だが、バス・電車・車2台・自転車・ランなど方法はいくらでもある。

詳しくは実践編で書いて行くが、小さくパッキングして背負っていけるパックラフトだからこそいろんな方法が可能になったのだ。

 

まず最初は気楽な感じで、穏やかな川で数100mでもいいから「人のいない川原までの移動手段」としてパックラフトを使ってみるのがいいだろう。

川下りをメインとする必要は全くなく、パックラフトをどう使うかはその人のアイデア次第。

例えばゴール地点からテンカラで釣り上がって、最後はパックラフトで下って戻ってくるといった「テンカラフティング」

(左)早朝から釣りあがって(右)流されて元の場所へ

テンカラだけだと帰りが面倒で退屈だ!っていう理由で無理やり川下りもくっつけた贅沢スタイル。

これなら例え1匹も釣れなかったとしても、「俺は川下りに来たんだ」と言い聞かせて多少自分を慰めることが可能だ。

 

他にも、岩が多くて川下りはできないけど美しい淵がたくさんある場所なんかだと、その淵だけを転々と堪能する「アビス(淵)ホッピング」なんてことも可能だ。(ここと冒頭のアイキャッチ写真は阿寺渓谷で撮影)

この時は釣りと泳ぎと川原飯がメインだったが、このような美しい淵はそこに浮かんでいるだけで幸せになれる。

例えばこれは和歌山の小川っていう川だが、浮遊感がすごすぎて空飛んでるような気分になるほど透明だ。

もちろんこんなとこには車でも徒歩でも行くことができず、川からのアクセスでのみ辿り着ける桃源郷。

こうなってくるともう川下ってる場合じゃないんで、潜って遊んだり岩からダイブしたりして大爆笑するのが正しい過ごし方となってくる。

あとはオーソドックスに激流に突入し、純粋にアクテビティとして川下りを楽しむのももちろん楽しい。

単純にアドレナリンを大放出させながら、ビッグな瀬を抜けた時の爽快感はたまらないものがある。

このようにみんなでワイワイ楽しむのも、一人でのんびり味わい尽くすも自由。

もちろん技術力や判断能力が身についてこれば楽しみの幅はどんどん広がるが、前述した通り少しの距離漕いで川原で昼寝するだけでも最高の時間を過ごせるのが日帰り川旅のいい所だ。

野営川旅

そんな日帰り川旅も楽しいが、個人的に断然お勧めするのが1泊2日程度の「野営川旅」だ。

実際にその川の懐に抱かれて、満天の星の下で川のせせらぎを聞きながら焚き火を見つめて酒を飲む。

はっきり言って、個人的にこれ以上の快楽はこの世に存在しないとさえ思っている。

 

例えば僕の野営川旅の王道スタイルはこんな感じだ。

ご丁寧にギターまで積み込んで、夜は周りに誰もいないから歌いまくりの飲みまくり。

夜が更ければアホみたいに焚き火をボケーッと眺めながら(全く飽きない)ちびちび酒を飲み、最後は好きな本でも読みながらタープの下でいつの間にか眠りに着くっていう極楽さ。

自分の意識と身体と周りの世界との狭間がフワッと曖昧になる時間帯が来る。それは究極の癒しの時間の始まりだ。

翌朝目が覚めれば再び焚き火を熾し、川の上にたゆたう川霧を眺めながらゆっくりとコーヒーをすする。

そして川の上ではほとんど漕がずに、横になったりして空と鳥を眺めながら流れて行く…嗚呼..シアワセ。

聞こえるのは川の音とトンビのピーヒョロロのみ。漕がなくても進むからだらけてる気がしないという不思議。

これは一回やってしまうとはっきり言って病みつきになる。

 

個人的には単独行で行くのが自分全開で居られるからおすすめだが、もちろん気の合う仲間たちと行っても猛烈に楽しすぎる夜になる。

山と違って荷物の重量をたいして気にしなくていいから豪華な飯も作れる。

しかも川にビール入れておけばいつだってキンッキンに冷えた状態だ。

場所によっては早い時間から川に罠を仕掛けておけば手長エビも獲れたりして、それをその場でカリッと揚げて塩かけて食えばツマミにも困らない。

 

前述したとおり日本だとロングツーリングできる川が決して多いわけではないが、別に距離の短い川でだって十分野営川旅可能だ。

むしろその分素潜りや釣りとかの遊びに多くの時間が割けるし、移動距離が短い分回送作業も楽だったりする。

 

で、ハイカーが海外のロングトレイルを目指すように、この野営川旅にどっぷりハマってしまったらぜひカナダやアラスカあたりの川旅にトライしてほしい。

筆者が20代の頃10日ほどかけて下ったユーコン川。周囲100キロに人の住む街はなくクマのが多い。

知ってる人も多いだろうけど、川旅の世界ではカナダの「ユーコン川」ってのが一つの憧れの川だ。

人によっては「そんな大それた冒険できないよ」なんて言うだろうが、正直ここは川下り経験ゼロの初心者でも全然行ける川。

むしろ若ければ若いほど、未熟なら未熟なほど行って来て欲しい。

僕が行った当時はお金も経験もなく、シュラフはオークションで買った3000円くらいの酷いもので、ダウンジャケットすら持ってなかったから夜はジャージ重ね着というハイパーさ。

装備もジーパンと現地のホームセンターで買った長靴で、今思えばよく行ったもんだと思うけど、この時の旅を越える感動は今だに味わえていない。

タンパク源は現地調達。グレイリングがアホほど釣れる。偶然出くわした現地民のフィッシュキャンプでは大量のイクラを貰った。

ちなみにあまりに楽しすぎて帰国後しばらくは社会復帰できないから注意されたし。

自分や自然に対して「必要のないもの」がはっきり見えちゃうようになるから、しばらく社会順応に苦労しますよ…ふっふっふ…。

こちらはアラスカのコユクック川。この広大な川原を独り占め。全てにおいてスケールがでかい。
乾燥してるから流木がよく燃えて焚き火天国。テントはすごく離れた場所に張って匂いの出るものは入れない。クマ対策だ。

いきなりこのようなビッグな川旅に挑戦してもいいし、日本の美しい川をじっくり遊び尽くすのもいい。

登山と違って「山頂を落とす」とかの明確な目標はないけど、精神的な充実度や達成感は十分それに匹敵する。







冒険旅

一番おすすめなのは上記の野営川旅だけど、その応用版というか脱線版的な遊び心溢れるものが「冒険旅」です。

そもそもパックラフトは、アラスカでハイク中に湖を渡ってショートカットしたり、大きな川の渡渉用に作られた道具。

出典:TheAlaskaLife.com

ただ日本ではそういった使用用途に足る場所がないため、川下り専門の道具になっているところがあります。

そこをあえて「無理やりアラスカ的な使い方してロマンを感じてやろう」ってのがこの冒険旅であり、僕はこれを勝手に「パックトランピング」と呼んでいる。

それは登山・トレラン・源流釣りに積極的にパックラフトも導入して未知なる川(or沢)を下ってやろうというもの。

 

例えば一例として以前僕が一泊二日で、北アルプスの湯俣川目指した時はこんな感じです。

まず無駄にパックラフトという重荷を背負って日本三大急登のブナ立て尾根を登り、

小屋泊なのに25キロを越える無駄な荷物。ほぼ修行の世界。でもロマンがあるの。

稜線に出たら荷物をデポしてトレランで烏帽子岳をピストンし、

別に行く必要はない烏帽子岳を無駄に走って往復することでロマンが上乗せされます。

戻ってから野口五郎岳から真砂岳まで縦走をかまし、

出会った人に「あんたなんでそんなもの担いでるんだ?」って驚かれるのもロマンの一つ。

かなりきつい竹村新道を下ってそのまま湯俣川へ侵入し、

この頃にはもう川を漕ぐ気力も体力もない。しかしそれもまた一つのロマン。

一発川べりの温泉に入った後で、

いちいち縦走しなくても来れる場所にあえて大迂回かまして辿り着く事でロマン倍増。

その川を無理やりパックラフトで下る。

増水につき実際に下れたのは200mくらい…。でも下ったという事実がロマンなの。

で、この後は散々テンカラで釣りをして高瀬ダムにフィニッシュ。

いろんな事を自問自答してしまうが妙な達成感はあり。That’sロマン。

このようにパックトランピングとは「ロマンの名のもとにならどこまでも無駄と徒労を楽しめる」という人向けで、実際にはかなりハードな遊びだ。

男という生き物は「パックラフト担いでの裏銀座縦走史上初」とか、「湯俣川を下ったのは史上初」とかのどうでもいいロマンにどこまで酔って突き進めるかが勝負。

一般的ではないですが、ある意味でパックラフトの正しい使い方?とも言えます。

 

他にも北アの薬師沢を下って秘境の雲ノ平を目指した戦いや、

薬師沢。当たり前だがほとんどまともに漕げんかった。成功が約束されてないのもロマンの魅力。
北アの最深部雲ノ平でパックソファに寝そべりたい。その一心だけでここまで担いで参りました。

西の黒部と言われる大杉谷を探検したこともあった。

川は超絶的綺麗さ!でも途中で蜂に刺されて死ぬかと思った。
この日は渇水で短い距離だったが満足度は非常に高い。パックラフトやっててよかった。

今回紹介したパックトランピングは、はまらなかった時はただの修行になりかねないが、不意に最高の淵や下れる区間に出くわした時の感動は凄まじいものがある。

もうすっかり冒険という言葉がなくなってしまった今のこの日本において、この感覚が味わえるパックトランピングは最高の大人の遊びなのだ。

しかもこのような源流部での探検的川旅の良いところは、夏でも鮎釣り師さんたちを気にせずに堂々と遊べるのがたまらない。

ただもちろんそれ相応の技術や、入念な事前調査は必要なんでいきなりはやらないでほしい。

というか紹介しておいてなんだが、このパックトランピングをやる人がいるかどうかも怪しいところである。

でも僕は今後もロマン求めてやっていきますよ!

 

パックトランピングに興味出ちゃった人はこちらの記事も参考にしてみてくださいな。

「パックトランパーの軌跡」

おまとめ

っという感じの、魅力編「日帰り川旅」「野営川旅」「冒険旅」の3つでした。

川旅の魅力はちゃんと伝わったでしょうか?

まあ最後の冒険編はおまけとして、とりあえず野営か日帰りのどちらかのスタイルで一回やってみて欲しい。

冒頭にも書いたけど「所詮遊ぶための道具」なんで、あまり難しく考えずにトライして川で遊ぶ楽しさを肌で味わってほしい。

もちろん安全対策だけは万全にね。

 

ということで次回は「じゃあ何をどう揃えたらいいの?今の登山ウェアでどこまで流用できるの?」ってところをお伝えできればと思います。

とにかく先ずは川旅を体験してほしいから、できるだけ予算をかけない形で説明できればと思ってます。

質問とかあれば積極的に答えて行くんで、何かあればコメント入れてくださいね。

 

それではまた次回!!

パックラフトの始め方② 準備編へ 〜つづく〜