「NATURAL RUN」+「ALL TERRAIN(全地形型)RUNNING」の2大コンセプトを前面に押し出し、ハイパフォーマンスな製品を世に送り続けるイギリスの革新的シューズブランド“inov-8(イノヴェイト)”。そんなランニング野郎どもが作り上げた「グリップ力がすげえんだぜ!」っていうファストハイク用ミッドカットシューズが2017年新作の“ROCLITE 325 GTX”。そんなロック様の妙技、BBGがたっぷりと味ってみせる!
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inov-8「ROCLITE 325 GTX」
Hey BBG ロック様と何するつもり?
2017年、BBGが力を入れて検証してきたファストハイク用シューズ。
その中でも各方面で評価が高かった、アルトラとホカオネオネのシューズの対決をしたのは記憶に新しい。
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この時ある程度結論を出したはずだったんだが、個人的にはホカは土踏まずが当たるしアルトラは人差し指当たるし滑るしで、自分の履く靴がなくなってしまったのだ。
そこで「もっとフィットする靴を!もっと滑らない靴を!」と、シューズ探しの沼に落ちていったのである。
僕が“ロック様”に出会ったのはそんな時だった。
なんとなーく入ったショップで、僕は「あ、イノヴェイトもファストハイク用シューズ出してんだぁ」と、なんとなーく1足の靴を試し履きしてみた。
するとそのシューズが我が足にスペシャルフィッツ!
そのシューズこそ「ロックライト325GTX」こと“ロック様”だったのである。
黒光りする強靭なボディと鋭い眼光。
しかも謳い文句は「GET A GRIP」。
そしてロック様は、ワナワナと震えている僕に対して激しいマイクパフォーマンスで購入を促してきた。
「貴様のキャンディみたいなべとべとの足を“身の程知らず大通り”に引きずり出し、“負け犬通り”を右に曲がって、貴様のサルみたいなケツを“お仕置きホテル”にチェックインさせてやる!」と。
この挑発にズガーンと胸を打たれた僕は、迷う事なくその場でロック様を購入して我がシューズ団体に入団させたのである。
ちなみにここで僕の足型を書いておくと、甲低・幅細め(ワイズE・ギリシャ型)の実測26.5cm。
ロック様のサイズは27.5cmでジャストフィットでした。※自分の足型を知りたい人は以下の記事を読んでね↓
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さあ、それではそんなロック様とがっぷりと対決していこう。
Just bring it!(かかってこい!)
試合前計量
それでは試合前にロック様の計量から始めよう。
実際のロック様はヘビー級だが、このロック様は27.5cmで片足「335g」と実に軽量。
ミッドカットシューズとしてはかなりの軽量級だ。
これがランにも使えるスピーディーな足運びと、山において「蝶のように舞い蜂のように刺す」といったパフォーマンスを実現する鍵となるのである。
フィット感デスマッチ
まずはシューズにおいて、「これがアウトだと何も始まらねえぜ」というフィット感だ。
まず一発目からその履きやすさに驚きだ。
実はロック様にはよくある踵のベロとかは存在しないが、そんなものは無くても全体が非常に柔らかいためスニーカー感覚で履けてしまう。
アルトラやホカの靴に感じたような、ある種の「違和感」みたいなものは感じられない。
正直山で使うには柔らかすぎる気もするが、元々が走れることを想定してるためトレランシューズを履いてる感覚に近い。
そして「ADAPTERWEB」と呼ばれるinov-8独自のシューレースシステムで、スムーズに靴紐を引き込んで足全体を包むようにフィットさせることができる。
ただ付属の紐は一般的な紐では無く、軽量化のため&フィット感重視のためペラい紐になっている。
何事かあった時にもしかしたら切れる可能性があるから、あらかじめ予備の紐は携行して行った方がいいのかもしれない。
そして履いた瞬間感じるの適度な余裕を感じるトゥ(つま先)ボックスのワイド感。
元々がこのロックライト325はより多くの人でも履けるようにというコンセプトで作られたため、トゥーボックスに余裕を持たせ上で、エジプト型の人もギリシャ型の人も履きやすいちょうどいいラインで作られている。
幅広のトゥーボックスと超エジプト型が売りのアルトラのローンピークのインソールと比べると、アルトラほど広くないけど適度な広さをキープしているのがわかる。
これはまさに「アルトラほどの広さは必要ないけどそれなりに幅広なやつ」を求めていた僕にはパーフェクトな感覚だった。
トゥーボックスが広いと登りで疲れにくい上に、窮屈感がないから足も痛くならないのだ。
またトゥーボックスの広さだけでなく、重ねてみるとわかるけど、人差し指が突出したギリシャ型の人でも履きやすい型だということがわかる。
ズバリ、アルトラの靴で下り時に人差し指が当たっていた僕にとって、思わず「コレキタ!」と唸ってしまったこのスタイル!
しかもホカのシューズのように土踏まずが高めの設定になってないから、その部分がずれて痛くなることもない!
アルトラやホカのようなずば抜けた特徴がない代わりに、フィット感におけるバランスはすこぶるいい。
まさにロック様は、扁平ギリシャ野郎にとってのスーパーヒーローだったのである。
実際に今まで数多くロック様とタッグを組んで試合に挑んだが、登りや平行移動時では一度も足が痛くなることはなかった。
ただ一方で、下りに関してはアルトラの時のように指先が当たって痛くなることは無くなったが、小指の付け根付近の出っ張りが痛くなることがあった。
ここはちょうどADAPTERWEBの締め付けが来るところなので、下りの時はこの部分の締め付けを緩めてやるなどの処置が必要になって来る。
とは言え、フィット感に関する不満点はそこくらいなもんで、まあ靴自体が柔らかいってのもあるけど概ね大満足。
AppleのCMを見てもわかるが、どんな仕事にも即座にフィットしてこなしてしまうロック様ならではの妙技なのである。
ホールド感デスマッチ
続いては、ローカットではなくあえてミッドカットを選んでいるので、ロック様のホールド感も気になるところ。
足首のクッションは若干薄めだが、わりかしホールド感はしっかりしている。
むしろ柔らかい分、ミッドカットのくせに余裕で走れてしまうのだ!
赤岳鉱泉から美濃戸までこれで走ったが、足首が痛くなるようなことはなかった。
さすがはラン系がメインのイノヴェイトさん。
踵のホールド感も上々だ。
ただもちろん柔らかい分、このように斜めった場所をトラバースしていくような場面では、足がしっかりと固定されずに少々踏ん張りがきかないこともあった。
後下りの時も若干ホールド感が物足りなく感じることも多少(多少ね)あった。
この辺りはやはり“ランハイク系”に寄った靴なので、あまり積極的に岩稜帯で使用する靴ではないと感じた。
荒くれ者のロック様だが、あまりロックな場所(岩稜帯)でのファイトは苦手のようだ。
推進力デスマッチ
ちょっとしたことだが、靴が持っている移動時の推進力をサポートする機能は全体の疲労感に大きく影響して来る。
特にホカのシューズはそのロッキンチェアのような独特な形状で推進力をサポートするタイプだったが、イノヴェイトはそもそもの考え方が違う。
イノヴェイトはシューズに頼るのではなく、「人間の身体が持っている機能を最大限に利用して走る事」を念頭にしているため、推進力というよりは自然の走り方(歩き方)に近づける工夫がされているのだ。
それが「ナチュラルラン」というコンセプトで、前足部で進む走行を意識させ、かかと着地に比べて地面へのブレーキを少なくして足への負担を極力排除することを第一としている。
いわゆるベアフット(裸足)ランニングに近い感覚だ。
かと言って普段からクッション性の高い靴に慣れた人がいきなりナチュラルランバリバリの扁平シューズに移行すると、逆に怪我の元になってしまう。
そこでイノヴェイトのシューズは、ユーザーを安全にナチュラルランに導くために、つま先からかかとへの高低差、クッション、サポート性を段階的に設定しているのだ。
踵についてる矢のような線(アローシステム)の数を見れば、そのシューズがどの段階かがわかるようになっている。
ロック様は8mmドロップなので2本線(6〜8mmドロップ)。
これが慣れるに従って徐々にアローの数を減らして行き、ゼロドロップのナチュラルランに近づいてほしいというのがイノヴェイトの狙いだ。
そういう意味では、いきなりゼロドロップのアルトラのローンピークよりかは入門的にも入りやすい仕様になっている。
実際に歩いたり走ったりをした印象としては、8mmとは言え、やはり慣れてない人にはゼロドロップに近い感覚を覚えるほどフラットな印象。
前足比重で踵でストップをかけないから、それが推進力にも貢献している感じがした。
また歩く上ではよりフラットフッティングを意識できるから、その面でも好影響だ。
さらにアウトソールの前足部分がこの白い点線の部分で柔軟にほんの少し曲がるようになっているのにも注目。
これにより移動時の蹴り出しの推進力をサポートする。
こないだの「ジーザス北岳」の時も美しく曲がっているのが確認できる。
ただこれも一長一短で、やっぱりラン的にはいいんだけど、アルプスの岩稜帯ではもっと硬いほうが便利なのは間違いない。
ここもやはりあくまでもファストハイク用のシューズなので、自分の行く場所やスタイルを考慮して選んだ方がいいだろう。
クッション性デスマッチ
フィット、ホールド、推進力(ドロップ)と3つのデスマッチを戦ってきた中で、やはり「ラン寄り」という特性が見えてきたロック様。
続いては彼のクッション性能を見ていこう。
ロック様のミッドソールには「POWER FLOW」なるテクノロジーが搭載されている。
こいつはこの図のごとく、踵部のクッション性と前足部の反発性を従来品よりも高めたものだ。
なおかつこれにプラスして、中足骨の動きに沿って柔軟に動きつつ足裏への衝撃を和らげる働きを持つ「META-SHANK」というロックプレートが入ってたりしちゃうのだ。(白い四角で囲ったやつ)
このいかにもプロレス技っぽい「POWER FLOW」&「META-SHANK」のWアタックにより、衝撃を吸収する仕組み。
で、これを実際に体感してみた感想は、「確かにこの薄さと軽さの中ではそれなりに優秀な衝撃吸収性」といったところで、べらぼうにクッション性がいいってわけではなかった。
イメージとしてはトレランシューズよりかはマシだが、フカフカ感はないしソールがペラい印象があったことは確か。
やはりここも「ランハイク系」のものってイメージがあり、10時間レベルの長時間ハイクとなると、薄さゆえの疲れというか痛み的なものはどうしても出てきてしまう。
ホカオネオネのフカフカミッドソールが「エアマット」とするならば、ロック様のは「クローズドセルマット」って例えればハイカーにはわかりやすいだろうか?
決してクッション性がないわけじゃないけど、ランに重点が置かれてるため最低限のちょうどいいラインで収められている印象。
ただあまりフカフカなのもいやだって人もいるんでそこは好みの問題ってところもあるでしょう。
グリップ力デスマッチ
ついにきました、メインイベントであるグリップ力デスマッチ。
ここはイノヴェイト自体が「GET A GRIP」ってキャッチコピーを謳ってるほどで、「ALL TERRAIN(全地形型)RUNNING」をコンセプトにして大重視している部分。
フィット感は抜群だっただけに、僕はここに過剰な期待をしてこの戦いに挑んだ。
アウトソールには3種類の硬度の異なるラバーを使い分けた、TRI-Cが使用されている。
グリップ力と耐久性が両立されたものらしいが、では実際使い倒してみた感じはどうか?
まず当然だが、通常の乾いたトレイルを進む上では全く問題はなかった。
では朝露や雨で濡れた岩場ではどうか?
これが結構滑るんです…。
特に前足部分がよく滑るため、例えばこのような濡れて斜めった岩を「エイヤッ」と全体重かけて登ると高確率で滑ってスネを強打します。
もちろんめちゃめちゃ滑るってわけじゃないけど、安心して身を任せられない程度には気を使ってしまう。
一応簡単な動画も。
なので、もうこのような岩から岩へジャンプするような渡渉場面に出くわすと、ジャンプした瞬間にツルッといってボッシュートする自分が想像できてドキドキなのです。
ってことで濡れた木もやっぱり滑り気味。
試しにグリップ力最高のホカのビブラムメガグリップと比べた時も、ホカは大丈夫でもロック様はつるんつるん滑ってくれた。
また、砂礫のザレ場も何度かズルッと滑ったりした(特に下り)。
あと、こういう湿り気のある粘土質な土が付着した岩とかも。
ことグリップ力に関しては過度に期待しちゃってた分、正直ちょっと物足りなさを感じたのは事実。
もちろん酷すぎるってわけじゃないんだけど、小さな滑りが積み重なると、どうしてもだんだん意識しちゃって安心した足運びができなくなってしまう。
自然と歩幅も短くなってペースは落ちるし、無意識に余計な力が入っちゃうから全体疲労にも影響が出る。
ランニングの際には逆にグリップ良すぎると怪我にも影響してしまうってのもあるけど、ことハイクという観点で言えばもう少しグリップ力が欲しかった。
やはりアルトラのローンピーク同様乾いたトレイルハイク向きであって、そういう状況が少ない日本のアルプスには若干不向きなのかなあと感じてしまった。
この問題…ロック様を持ってしても、やっぱり今回も解決できなかったか…。
完璧なグリップ力を求めるBBGの旅路はまだまだ終わりそうにない…。
防水&透湿デスマッチ
それでは最後に、軽く一応防水性と透湿性も。
土砂降りだったり、渡渉だったりと結構がっつりと水に浸かる場面があったが、GORE-TEXなんで当然浸水はなかった。
ただ生地が薄いためか、水のひんやり感を感じて、一瞬「あれ?浸水した?」って思っちゃうことはままある。
なのでむしろそれを逆利用して、沢を見つけてはちょっと足をつけて冷やしたりしてました。
透湿性はまあ普通。GOREなんで当然蒸れる時は蒸れます。
ただこれも生地が薄めな分、通常のシューズよりは透湿性はあるように感じました。
まとめ 〜そんなあなたにベストバイ〜
ってことで、がっぷり四つでロック様の妙技を味わい尽くしたところで総評です。
まずその軽さとフィット感、ガッチリしすぎないけど適度なホールド感は、ファストハイクにはもってこいの仕様。
ただグリップ力や衝撃吸収性のことを考えると、積極的にアルプスの岩稜帯やザレ場などで使用するのはちょっと心もとない。
もちろん実際にこいつでテン泊装備担いでアルプス縦走もしてるんで使えないわけではないけど、ベストシチュエーションで言えばやはり「乾いたザレ場の少ないトレイルでのファストハイク」ってところがしっくりくる感じだ。
ってことで以下の人にはベストバイだ!
- 軽量でミッドカットのファストハイクシューズが欲しい!
- 割とガンガン走れる系のやつがいい!
- 比較的低山系のハイクがメインフィールドだ!
- あまり足先キツキツのシューズはいやだ!
- ガチャガチャしたデザインは嫌いだ!
- 黒光りするロック様が大好き!
- お仕置きホテルにチェックインしたい!
inov-8(イノヴェイト)「ROCLITE 325 GTX(ロックライト 325 GTX)」
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価格 | ¥18,000+税 |
カラー | BLACK/GREY |
アッパー | 合成繊維/人工皮革/合成樹脂 |
アウトソール | ゴム底 |
サイズ | Men’s 25.0~30.0cm Women’s 22.0~25.5cm |
原産国 | 中国 |
展開月 | 2017/8~ |
ドロップ | 8mm |
今回はグリップ力を大いに期待してただけにその部分に関しては少々辛口になってしまったが、個人的にはトータルでこのロック様を気に入っている。
使用する場所を選べば、こんなにスペシャルなフィット感を得られるシューズがないだけにかなり貴重な戦力となりそうだ。
何よりもゆったりめのトゥーボックスと走れるほどの柔軟性は、結構病みつきになる快適さ。
痛みからの解放は、ハイクシューズにおいて最高のスペックと言えるだろう。
しかも本編では触れなかったが、アルトラやホカのシューズに比べて5,000円以上もお安いってのも魅力の一つ。
今やハリウッドでも活躍する大スターになっても、ロック様はお高く止まらないところがいいのである。
さあ、あなたはこのロック様と何するつもり?
それはSiriに聞いても尻に聞いても答えてくれないぞ。
己の足で確かめるがいい!
それではまた会いましょう。
ドウェインカワイでした。