アークテリクスの定番トレッキングショートパンツ「パリセードショート」。2016年に3度目のアップデートを果たし、いよいよその快適さは山ショーツの完成形へと到達した。そんなアップデート後から1年間、ユーコンカワイが実際に使ってみた感想…それはまさかの「記憶にございません」。実はそれこそが、このショーツの最大の特徴なのである!
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何も感じさせないという贅沢
映画や舞台には欠かせない「名脇役」。
自分は一切目立たなくてもその存在が主人公を引き立たせ、物語に深みを与える。
確かな実力を内に秘めながらもことさらにそれを主張しない。
「あれ?この人名前なんだっけ?よく観るけど…」
「ああ、この人この映画にも出てたんだ。全然気づかんかった。」
その言葉は、名脇役にとっては最高の賛辞だ。
決して主張しすぎて主人公を食ってはいけない。
「そこにいることを気づかせない。でもそこにいないと物語は成り立たない。」
これこそが名脇役に必要な要素。
「何も感じさせない」と言う名演技は、まさに名脇役にしかできないことなのである。
パリセードショートの名演技
「トレランじゃない時のトレッキング用ショートパンツやハーフパンツなんて正直なんでもいい」…と今まではそう思っていた。
足上げさえある程度スムーズなら、デザインや好みで選べば問題ないと。
ウェアとしても華々しいハードシェルやダウンジャケットの世界に比べ、正直そんなにワクワクする世界でもない。
言ってみれば「脇役」の存在だ。
主役はもちろん、トレッキングをする僕自身。
脇役は目立たず主張せず、ただただ僕の快適な登山を引き立ててくれさえすればいいのだ。
しかし今まで僕が使用してきた脇役たちは、演技はそこそこ上手いんだが、どうも細かく自分を主張してきた。
それは大きく邪魔してくるって言うわけじゃないか、「なんとなく気になる」ってレベル。
- なんか足がちょっと突っ張る気が…
- ケツへの食い込みがちょい気になる…
- ちょっとスタイルがダボっとしてるなぁ…
- 濡れた後の乾きがちょっとだけ遅い気が…
- どうも股の「シュッシュッ」って擦れ音が気になる…
- 風で裾がヒラヒラするのがちょっと気になる…
- 伸縮性もちょっと弱すぎるorオーバースペックな気が…
- 何がってわけじゃなくなんとなく違和感が…
これらの「ちょっと」の積み重ねが主人公を演技に集中させない要因となり、物語(登山)全体をモヤっとしたしたものにしてしまう。
そんな中、去年3度目のアップデートを果たしたアークテリクスのショートパンツ「パリセードショート」と出会った。
以降、僕の物語の中から「下半身の違和感」が消え、主人公の演技はスムーズになり物語(登山)だけに全力集中することができた。
パリセードショートは、まさに「快適なのが当たり前すぎて、ちょっとの違和感も与えない。」という最高の名演技を演じ続けてくれた。
その結果、僕は1年間こいつを使用して来た上の感想が「記憶にございません」という結果に。
そう、それは脇役に対する最大級の褒め言葉。
パリセードショートは、「使い手に何も感じさせない」という最高の贅沢を提供してくれたのである。
まさにショートパンツ界の國村隼(くにむらじゅん)なのである。
パリセードショートとは
そんな王道名脇役の國村隼も年々進化している。
元々評価が高かった第一期國村隼に、よりブラッシュアップさせた第二期國村隼。
そこにユーザーの意見を組み入れ、第一期と二期のいいとこ取りをし、さらに立体裁断の強化、シルエット改造を経て、渾身のブラッシュアップしたのが現行第三期の國村隼なのである。
こうして彼(パリセードショート)は、この3回目のアップデートでもはや改善の余地の見当たらない名俳優となったのである。
それはトレッキングはもちろんのこと、ボルダリングや街着ととして使用しても超絶に快適っていう、出る作品を選ばない名バイプレーヤーっぷり。
とにかくどんな場面でも使い勝手が良すぎなのだ。
それではその「何も感じさせない」という名演技の秘密に迫ってみよう。
素材
國村隼を構成する素材は、アークテリクス独自開発のストレッチナイロン素材「TerraTex」。
これがまたナイロン素材でありながら裏表とも起毛してて、サラサラで全く肌にまとわりつく感じがない。
売れない俳優ほど主役にまとわりついてベタベタした演技をして自分をアピールしてくるものだが、國村隼の演技はサラッサラなのだ。
起毛してるからって毛玉も全然発生せず、着心地はコットン生地のような気持ちよさ。
それだけじゃない。
この生地は撥水性も抜群で、少々の雨なら気持ちいいくらいに弾いてくれる。
國村隼レベルともなれば、やはりこのような「濡れ場シーン」も堂々たる演技。
お相手がどんなに扱いにくい女優だろうと、彼の巧みな演技で女優たちは実力以上の妖艶な表情を見せるのだ。
実はこの恩恵は雨の時だけに限らず、汚い話をすると、オシッコの飛沫も綺麗に弾いてくれるから僕のような残尿感たっぷりの中年にはありがたい。
なんせ僕が嫁から嫌われる理由ベスト3である「全身が玉ねぎ臭い」「女心がわかってない」「トイレでの撒き散らしがひどい」のうちの一つ、おしっこ撒き散らし問題をサラリとかわしてくれるのだ。
放尿後にパリセードショートをパンパンッって叩けば、もう綺麗なもの。
地味、というか汚い話だが、個人的にはかなり嬉しい脇役プレイである。
しかもその「速乾性」は素晴らしく、さっきまで濡れ場シーンを演じてたと思えば、すぐにドライなシーンに切り替わることが可能。
トレランパンツのような気軽さで暑い日に沢に入ってびしょ濡れになっても、あっという間に乾くのです。
その上で軽量でありつつ生地は「強靭」で、岩場をガシガシ攻めたり、地べたに擦り付けてもへっちゃらな耐久性もある。
もちろん適度なストレッチも効いてるから、足さばきもスムーズ。
暑い日でもショーツ内に空気がこもらないし、素足で履いてもサラサラで不快感ゼロ。
「軽い」「サラサラ」「撥水」「タフ」「ストレッチ」。
それだけの機能を全く主張することなく演じきり、その恩恵すら主役の使用者には感じさせない。
見事な名演技である。
シルエット
第三期國村隼で強化された最大のポイントが、立体裁断によるその動きやすいシルエット。
立体パターンとマチ付クロッチによって人間工学に基づいた動きやすさを実現して、急こう配の角度や変わりやすい地形にも対応します。ってのがメーカーの売り文句だ。
平面にすると当然シワシワだけど、立体になってはじめてベストな形が成形される。
実際に履くと各可動域はノンストレスで、足上げもスムーズなのです。
そして丈の長さ的にもちょうどいいバランスで、太すぎないし細すぎない。
ダボっとした感じもなく、邪魔になりそうな余分な生地は極力排除されてるので、動きやすさとカッコいいシルエットが両立されているのだ。
まさに余計な演技をせず、無駄のない「間」と目力で演技する國村隼そのものの名演技。
さすがは最高の素材を最高の形状で提供するアークテリクスが、3回目のアップデートでこだわり抜いた部分だけのことはあるのである。
その他の特徴
素材とシルエット部分だけでも十分満足な演技だが、國村隼レベルの名優ともなれば痒いところにも手が届いてしまう。
ポケットは当然バックパックを背負ってハイクアップ中も邪魔にならない位置に配置。
第二期で排除されていたヒップポケットと裏地メッシュが復活し、ベンチレーションとしても機能。
腿部分にはスリムな形状のカーゴポケットが付いており、地図などを入れておくのに便利。
マチ付きなので結構物が入るし、何も入れてなければ膨らみもなくスリム。
ウエストバンドは個人的にバックルタイプよりも簡単で便利な引っ掛けるタイプのもの。
ウェビングベルトもしっかりしていて、中でヨレることもない。
僕みたいに腹が出てる人間は、薄い軟弱なウェビングベルトだとベルト内部で回転しまくって最後は紐みたいになっちゃうからとてもありがたいのだ。
そしてウェストバンドの裏地には、触り心地もいい透湿性起毛ポリエステルが採用されている。
これがまた肌触りはいいし、汗も吸湿した上で逃がしてくれるから実に心地がいい。
何かと不快になりがちなヒップベルトの下回りも、暑い時期でも快適に過ごせるのです。
ここまでの実力を秘めながら、主役を食わずに引き立て役に徹するプロ根性。
決して「どうだ!俺の演技(機能)はすごいだろう!」と言わず、静かに、そして黙々と観るものを物語の世界だけに集中させるいぶし銀の演技。
もう何も彼に注文すべき改善点は見つからないのである。
まさに山ショートパンツの完成形なのであります。
Arc’teryx(アークテリクス)「Palisade Short(パリセードショーツ)」
ちなみにパリセードには「大杉漣」もあります。
隼派(ショートパンツ)じゃなく漣派(ロングパンツ)って人はこちらをどうぞ。
Arc’teryx(アークテリクス)「Palisade Pant(パリセードパンツ)」
とにかく國村隼も大杉漣も、1本持ってればトレッキングからリラックス着まで超絶快適に過ごせること間違いなし。
個人的にも街着としてもトラベルウェアとしても、ガンガンに使い倒してすでに元は取っている感じ。
1年間、ハードに使い続けてるけど目立った損傷もなければ、洗濯しまくってても撥水力も大きくは落ちていない。
これから始まる夏山やキャンプシーズンに向けて、個人的にはこいつがいないと非常に困ってしまう。
國村隼がいなければ、僕は沢山ある夏の出演作品に集中できやしない。
パリセードショーツは、まさに僕の遊びのボクデミー助演男優賞なのである。
ショートパンツ選びに迷ってるそこのあなた。
もしくはショートパンツなんて何でもいいって思ってるそこのあなた。
まずは一回彼と共演してみましょう。
きっと1年後には、僕同様「記憶にございません」っていう賛辞を送っているはずです。
浮気をして「下半身のことは記憶にございません」って言うのはNGだが、山ではどんどん下半身の記憶を失って遊びに集中しましょう!
それではみなさん、良い夏山を!
ユーコンカワイでした。