毎年注目が集まる華々しき「レインジャケット」の世界。一方で「レインパンツ」は単体としてはあまり注目をされない悲しき世界だ。だってカタログにズラッと並んでても、色も見た目もほとんど一緒で見ていてワクワクしないんだもの。
しかしそんなレインパンツ界で、ここ2年ほど「呼吸をする山獅子」が鋭い牙を光らせて猛威を振るっているのをご存知だろうか?今回はそんなティートンブロスの「ブレスパンツ」の魅力に鋭く迫って行こうと思うのである。

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物欲エクスタシー

僕は登山を始めた頃、お金が無かったこともあってコスパ最強のモンベル「ストームクルーザー」上下を使用していた。

デザイン的な部分で色々言われていたが、正直それ以外の完成度は高く、買って10年近く経ってもそれなりに大活躍してくれた。

しかし酷使がたたり、ケツの部分は破れに破れ、その補修後のみっともなさったらもう…。

しかしわかっちゃいても「レインパンツだけを買う」という行為に物欲的ワクワク感を感じられず、なんとなくこの状態でこなし続けて来たのである。

 

しかしやがて僕の登山スタイルも変わって、トレランを始めたりファストパッキング寄りになった時、どうしてもこいつを持って行くのが重いしかさばるしで邪魔になってきた。

しかも使い込んでるから撥水力も落ちていて、透湿的にも着たり脱いだりが多くて不満が募る。

耐水圧的には満足なスペックだったが、その分汗抜けがが不十分。

外からの雨はしっかり凌げても、結局体はビッチョリと濡れてしまっていたのだ。

 

そこで僕は「いい加減レインパンツを再考察しなくてはならない」という状態に陥った。

散々ストームクルーザー(当時は通常のGORE-TEX素材。現在は最新のC-KNIT)を使った上で、その不満点を補いつつその時の自分のスタイルに合ったものを捜索する旅に出たのである。

1年ほど前のことだが、その時僕が出した条件は以下のとおり。

  1. 正直耐水圧なんざ10,000mmあれば十分だ。
  2. その分透湿性があった方が結果的に体は濡れないだろう。
  3. 軽量であることはマストよね。
  4. それなりに強度もあれば理想的。
  5. トレラン時の雨の際でも使用出来そうなものがいいな。
  6. 当然動きやすいことね。
  7. でもって直接肌の上に履いても不快じゃない着心地。
  8. 足がド太いからシュッとして見えるやつがいいなぁ。

 

我ながらとんだワガママさんだと思いながら、レインパンツという地味な世界で「物欲エクスタシー」を感じるにはこのくらいハードルを上げてもいいだろうと判断。

そして長い長いWEBアルプス大縦走の旅が始まったのである。

 

あれは旅を始めて何日目のことだったか。

僕はその旅の途中で1頭のマウンテンライオンに出くわしたのだ。

そのマウンテンライオンは激しく息をブハーッブハーッと吐きながらこう言った。

「貴様の8つの願い、叶えてやろう。もうお前の下半身は今日からサラサラだ!」と。

 

その鋭い眼光を前にした僕は、瞬く間に奥歯をガタガタ言わせながら物欲エクスタシーの頂点に到達。

即座にポチッとして、そのマウンテンライオンにまたがって下山した。

こうして私は長い旅を終え、理想のレインパンツを手中に収めたのである。

息する山獅子観察

それではそれ以来1年間共に過ごしてきたその相棒を細かく見ていこう。

これが息する山獅子こと、Teton Bros.の「ブレスパンツ」であります。

まず第一に注目すべきはこの山獅子の素材。

なんとポーラテック社の「ネオシェル」を使っているのであります。

耐水圧は10,000mmと少なめだが、その耐水圧で4倍以上優れるゴアテックスと比べると透湿性能がずば抜けてすげえっていう素材。

ゴアテックスが松井秀喜だとするならば、ネオシェルはイチローだ。

4倍以上ホームランを打つ松井の安心感も良いが、ホームランは少なくてもしなやかにヒットを量産して涼しい顔でチームに貢献するイチローこそこの時の僕の要望を満たしていた。

これはどっちが良くてどっちが悪いっていうお話ではなく、その人の登山スタイルに応じた素材チョイスが大切だってこと。

ちなみに、同じく透湿性に優れるeVent素材よりもはるかにしなやかで肌触りは良い。

 

とにかく特筆すべきはその圧倒的な透湿性能であり、もともとマウンテンランニングに特化した商品だけに素肌の上に履いても嫌な感じがなく汗抜けも素晴らしい。

雨天時じゃなくても常時履いていられるし、防風パンツとして冬のランニング時にも重宝する。

 

もちろん耐水圧が10,000mmしかないと言ってもその撥水性は必要十分、というか他の素材よりも素晴らしく感じた。

同じ耐水圧10,000mmのパタゴニア「アルパインフーディニジャケット」を上に着て、実際にシャワーを浴びてみたから、これ見たら一目瞭然だろう。

すごいっしょ、ブレスパンツ。

買ったばかりじゃなく、何回か洗濯もして1年経ったものですよこれ。

オフィスビル内にある共同シャワー室で、野郎二人きりでのグラビアシャワー撮影会はちょっとした緊張感があったが、この凄さが伝わってくれたらそれで良いのである。

で、これがシャワー後のアルパインフーディニジャケットの内側で、

ほとんど透湿性のない素材だから汗ビッチョ。結構染みてもきた。

これがブレスパンツの内側だ!

サラッサラ!不快指数ゼロ!

もはやサラサーティレベルのサラサラさ(知らんけど)。

これなら夜も安心だ!

 

そして素材の次はその立体的なフォルム。

裏返してみると分かりやすいが、動きの激しい膝部分のこの細かい裁断っぷりを是非見て欲しい。

この立体パターンのおかげで絶妙なフォルムをキープし、足上げ時のストレスを軽減している。

さらにこの股下の部分までこの細やかな裁断っぷり!

ちなみにモンベルの旧ストームクルーザーはここまでシンプルな裁断パターン。

これを見れば「足さばきの良さ」「動きやすさ」の違いは一目瞭然である。

しかもその立体裁断も相まって、そのスタイルもシュッとした感じで実にいい感じ。

足の筋肉だけがプロレスラーみたいに異常発達した僕でも、ここまでスラッとして見えてしまうという気分の良さ。

しかもジャパンブランドだけに、あの外国ブランド特有の「日本人の短足なめてんのか?」といった、嫌がらせのような長さもなく日本人に合ったサイジング。

そしてこんなにアホみたいに陽気にはしゃいでも、しっかりその動きに追随してくる。

というかこのモデルの顔がデカすぎて、逆に足がシュッとしてると比率が変で見た目がキモい。

レインパンツをイチローにしたのは良いが、顔が松井サイズのままだからアンバランス感が凄まじい。

 

まあそれはどうしようもないので次はここに注目。

腰部分だけ若干上に上がっているのがお分かりだろうか?

これ個人的にはとっても嬉しかったの。

こうしてしゃがんだ時でも肌の露出や、インしたシャツがめくれ上がるのを防止してくれるのですよ。

僕のような腹デカケツデカ男は、この動作を何度かするとここだけめくれてすぐ地肌になっちゃって、ウェアに吸湿されなかった汗がケツの割れ目にしたってきて不快だったのですよ。

地味にポイント高いです。

 

その他細かい仕様として、ウェスト部分はシンプルにドローコードで絞るタイプ。

特にずり下がってくる感覚はなく必要十分。

社会の窓も存在しないが、お花摘みの時にも苦労したことはない(そりゃ若干脱ぎにくいけど)。

足もドローコードで絞れるから、ラン時にも邪魔にならない。

基本的に腰とここのドローコード以外はシンプルな状態で、ポケットもない。

裾にファスナーもないから靴を脱がないと履けないという難点があるが、そこはメーカー的にもトレラン用途的にも「まあ靴脱いでから履いた方が早いっしょ」といった潔いスタンス。

ただ僕の場合積極的に登山靴履いた場面でも使うんで、できればファスナー付きかファスナー無しか選べると最高だった。

実際山で突発的な雨が降った際、ザックおろして一旦靴脱いで足を地面につけないようにこれ履くのは結構大変な作業で脇腹を激しくツッたことも。

 

ちなみに171cm76kgの顔デカケツデカデブの足ムキムキ本厄男の僕でMサイズ。

何気にこのサイズ表示、こんな裏側にあるにもかかわらずこんなにかっこいい感じで配置されてるところにもティートンブロスのデザインに対する執念を感じてしまう。

Macの内部パーツまでデザインにこだわるスティーブ・ジョブズのような執念だ。

しかも軽量化を図りつつも、ロゴ部分は多少重くなってもプリントじゃなく刺繍になっており、その裏側の肌が当たる部分もちゃーんと「やさしさコーティング」済み。

こういう裏側にこそそのメーカーの心意気が宿るものだ。

まるで普段は冷たそうなやり手キャリアウーマンのお姉さまが、不意に捨て猫を見つけて抱っこして頭なでなでしてる姿を見つけちゃったかのようなこの萌え感。

そういうことされちゃうと僕はすぐに恋に落ちてしまう。

 

そしてこのMサイズで実測178gというスペシャルな軽さ。

やり手キャリアウーマンで、優しくて、なおかつこの尻軽さ。

これでメロメロにならなきゃ嘘である!

 

Teton Bros. 「Breath Pant(ブレスパンツ)」

出典:Teton Bros. ※画像クリックでメーカーサイトへ

ちなみに今シーズン、満を辞してこのブレスパンツと同じネオシェル素材の「ジャケット」が登場しちゃったのだ!

その名も「Breath Jacket(ブレスジャケット)」

出典:Teton Bros. ※画像クリックでメーカーサイトへ

あの名作ツルギジャケットのカッコいいデザインを踏襲しつつ、より軽量に、そしてアクティブな使用に耐えうる透湿性を誇る絶妙なラインのレインジャケット。

パンツが先に出て後からジャケットが出てくるという珍しいパターンだ。

そして、

フッフッフ…

実はブレスパンツがあまりに気に入ってしまったものだから、すでにBBGはこいつを入手してるのであります!

2017年、BBG注目の軽量レインジャケットの一つとして他のジャケットとともにラインナップ。

これから始まる梅雨時期に、ガッツリ雨ん中で着倒してしっかりレビューいたします!

 

さあ、今年は雨の時こそ山獅子と共に爽やかな息を吐こう!

それではみなさん、

サヨナラ!

北ア・笠ヶ岳での僕とブレスパンツ。サヨナラしてても肌はサラサラよ。