2017年4月1日未明。
私のもとに「I got it !」と言うメッセージとともに1枚の写真が送られてきた。
そこに写っていたのは我がBBG社長のアツシオガワ。
ここ一週間ほど行方不明になっていた男だ。
彼は一週間ほど前、とあるITオフィスビルに立て籠もるという事件を起こしていた。
当時彼は「これはポスターの撮影なんです」などと言っていたが、ビル内にいた目撃者は怯えながらこう証言している。
「なんだか目の焦点も合ってなくて“神の時代はそこまで来ている!”とか叫んでましたね。」と。
もちろん即座に通報されてビルは警察によって包囲。
彼のご両親も呼ばれ、拡声器で「あっちゃん!お母さんだよ!なんでそんなことしたの…うっうう….」と情に訴える作戦をとったがそれでも彼はオフィス内から出てこなかった。
僕も社員として事情聴取を受けたが、面倒だったので「最近結構悩んでたみたいなんですよ。なかなか本オープンできねえやって。」と無関係を装った。
やがてビル内にSWATが突入。
その模様は全国に生放送され、日本中が固唾を飲んで状況を見守った。
彼はアックスとパドルを振り回しながらSWATをなぎ倒し、「だからポスターの撮影だったんだって!」などと奇声を発しながらビルを脱出。
やがて奪った車で逃走。
東名高速道路上で展開した彼と警察との激しいカーチェイスもヘリ中継され、その模様は世界中のヘッドラインニュースで流された。
彼の逃走は北陸にまで達し、やがて日本海へ。
すかさず撮影時に持っていたパックラフトを膨らました彼は、そのまま日本海の荒波に向けて漕ぎ出して行った。
以来、彼の姿を見た者はおらず、誰もが日本海の藻屑になったのだと囁き合った。
テレビのワイドショーでは連日のように「なぜこのような事件が起きたのか」という特集が組まれた。
各界の専門家によって、「鬱積する社会の闇が生んだ悪魔」とか「地球温暖化による突然変異」とか「自作自演の売名行為」など、色んな憶測が飛び交った。
数日後には「脱北者の中に似たような男がいた」とか「万里の長城を泣きながら走っていた」とか「モンゴルでサッカーをしていた」などの怪情報も多く寄せられた。
やがてワイドショーもネタが尽きたのか早々と上野動物園にパンダが生まれた話題に移行してしまい、彼の存在は日本から忘れられて行った。
僕もそろそろ新しい職探しでも始めようかと思っていた本日4月1日。
冒頭の写真が送られて来たのである。
僕はこの写真を見て涙した。
彼はやったのだ。
あらゆる逆風に耐え、悲願を達成したのだ。
前人未到の未踏峰「エプリルフル山」の冬季単独無酸素登頂をやってのけたのだ!
彼からの「I got it!」というメッセージの先は、こう文章が続いていた。
あしが動かなければ手で逃げろ。
てがうごかなければゆびで逃げろ。
ゆびがうごかなければ歯で雪をかみながら逃げろ。
はもだめになったら、目で逃げろ。
目でゆけ。
目でゆくんだ。
めでもだめだったら
思え。
ありったけのこころでおもえ。
このおもい、おまえにとどけ。
助けて….
それ以降、彼からの音信は途絶えたままだ。
下山して名を「イエティ」と変えて幸せに暮らしているなどの情報は入ってくるが真相は定かではない。
ただ一つわかっていることがある。
真実はいつだってただ一つ。
それは今日が「4月1日」であるということ。
ただそれだけのことなのである。