2017年、BBGが今最も気になる新作シェルターとしてテストし続けてきた「M Guide himaraya」。それは高い設計・技術力を誇る日本のガレージブランドの雄「フリーライト」が、代表作Mシリーズをベースに、ヒマラヤでの長期ロングハイクルート(GHT)の厳しい環境下での使用を想定してカスタマイズした最強ツインポールシェルター。強い耐風性・設営スピードの速さ・広い居住性を絶妙なラインで実現した一品を、いざBBG目線で徹底チェックなのである!

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FREELIGHT「M Guide himaraya」

選考基準

今シーズンBBGがロングテストをするシェルターを選定する際、以下のような基準を設けた。

  1. 2017年新作であること
  2. 500g近辺の軽量フロアレスタイプ
  3. 2人でも使用できる居住性の高いもの
  4. 風に強く厳しい環境下でも行けそうなもの
  5. スピーディに設営&撤収ができるもの

 

中でも重要視したのが3の「居住性」と4の「耐候性」。

BBGのスタンスとしては、多くのことを犠牲にするストイックなULアイテムよりも「多少重くなっても快適に、そして安心感を持って過ごせるもの」という部分に着目している。

どんなに軽量でもキッチキチに狭い空間だったり、風が吹き込むような状態じゃどうしても楽しくないからね(僕はドMなんでそれも嫌いじゃないけど…)。

 

そんな中、以前からその耐風性・居住性・セットアップの速さで注目されたいたフリーライトの「M Trail」「M Guide」のMシリーズに、ジャストタイミングで「スカート付きのモデル・himaraya」が登場していたのである!

従来通りの耐候性がありつつ、フロアレスゆえの不安感(風の巻き込み、雨の跳ね返り、虫など)を払拭したこのモデルに、「これは厳しい環境下でも積極的に使えるんじゃないか!」と判断。

そもそもこのhimarayaモデルは、その名の通りヒマラヤのGHT(グレートヒマラヤトレイル)の標高1,000〜6,000mの過酷な条件をスルーハイクするためのシェルターとして考案されたもの。

そのルートを走破する「GHT project」でも実際にこのシェルターが使用されており、その耐候性はすでに実証済みなのである。

 

そんな日本で生まれ、ヒマラヤで鍛えられ、そして再び今日本で発表された「M Guide himaraya」をいざレッツチェック!

なお、今回はM Trailよりもさらにサイズアップして快適な居住空間が得られるM Guideをチョイス。

30Dと20Dとで厚みが選べるスカート部分は、20Dにて発注して検証・テストしています。

 

収納サイズと重量

ではまずは収納状態から見ていこう。

収納サイズは実測で24cm×10.5cm。

ゆとりのないキチキチ目の収納だが、スタッフサック自体の滑りもよくそこまで収納時にストレスは感じない。

僕はさらに「撤収速度を上げたい&ペチャッとさせた平積みパッキングが好き派」なんで、同じような人は3L程度のスタッフサックに変えてもいいだろう(ここは好き好きね)。

で、肝心の重量の方はというと、二人が余裕で寝られる居住性を持ちながら実測「539g」と軽量。

スカートがついてないタイプだと「390g」なので、149gの重量アップ。

この149gをどう捉えるかは、その人のスタンスによるところが大きいだろう。

基本的に風も弱く雨も少ない樹林帯での使用のみの人には必要ない部分だし、逆に「厳しい環境下での安心が149gで得られるんだ!」と考える人にとってはアリな選択。

シェルター内の密閉度が上がることで保温性もアップし、結果として持っていくシュラフなどのランクを下げて全体の軽量化にもつながる。

そのあたりのバランスを「全体感」で考慮して、スカート付きのモデルがベストかどうかを判断するといいだろう。

 

設営スピード&占有面積

そしてこのMシリーズのウリにもなっているのが設営スピードの速さ。

基本的に4スミをペグダウンして、中にトレッキングポールおっ立てるだけ!

慣れればカップラーメンにお湯入れて待ってる間に完成しちゃいます。

動画では4スミ+短辺側2点のペグ止めですが、長辺にも2点ペグ打ちしてやればさらに耐風強度がアップします。

ポールの長さも120cmくらいとあるけど、設置場所の状況によっては130cmくらいまで上げて居住性を上げることもできました。

 

そしてここで注目して欲しいのが、細引きなど一切使わずに設営が可能な点。

これはテン場のスペースが限られた場所でも、占有面積を少なく設営できるということにつながる。

北アルプス五竜山荘のテン場にて。

この時は平日でテントは少なかったが、ハイシーズンともなれば「うわ、こんな狭いとこに張らんといかんのか!」なんてのもよくある話。

そんな時でも、Guideなら最低1.6m×2.6mのスペースがあれば設営ができてしまう。

居住性と耐風性を維持しながら、それはなかなかのアドバンテージだ。

もちろんスペースに余裕があり、より耐風性を上げたい時は、風上側に一発ガイラインをかましてやればいいだろう。

ちなみに設営が楽ってことはイコール撤収も楽々で、ペグ抜いてタープのようにシュルシュルとスタッフサックに入れるだけであっという間でございます。

 

絶妙なM形状が織りなす居住性

それでは立ち上がったところでその形状を見ていこう。

入り口は短辺側一箇所のみ。

そして真横から見た形状が、商品名の由来ともなっている「M」の形状だ。

この形状が設営の速さや耐風面(風の受け流しなど)、そして居住性に影響を与えており、まさに試行錯誤の末に導き出された「渾身のM」なのである。

この形状がどれだけ優れているのかを、他の似たようなシェルターと比較してみよう。

※メーカーによってサバを読んだ図解を作ってるところがあるんで、一から比率に沿って制作して統一のイラストに置き換えています。

まず他の二つとの圧倒的な違いは立ち上がりの角度。

つまりはポールとポールの間隔が広いため内部空間が広く、一人の場合はどかーんとセンターに寝ることができるのだ。

200cmのタイベックシルバーがセンターにすっぽり!

他のツインポールシェルターだとどうしてもポールが邪魔で片方に寄って寝るしかなかったが、200cmのポール幅があることによってどセンターに寝られるという幸せ。

これは数字上の空間スペック以上の恩恵を感じさせてくれる重要な要素だ。

もちろんセンターに寝ないにしても、ポールが邪魔しない分実際の数値よりもかなり広く感じる。

形状的にはファイントラックのツェルト2ロングに近い部分があるが、当然設営の速さは比べ物にならないし、居住性も圧倒的にM Guideの方が優れている。

しかもそれでいて同じスカート付きのツインシスターズ(920g)と比べて、サイズ的に大きな差がなくても400g近く軽いのは大きい。

 

もちろん二人で寝て、中にバックパックや荷物やシューズ入れても問題なしの広さ。

男らしく、ぐちゃぐちゃの写真しかなくてすんません…
人入った時の広さ感はこんな感じ。

あとは雨で仕方なくシェルター内で煮炊きするような時には、立ち上がりの角度がある分、換気用に入り口をオープンにしても雨の吹き込みは最小限で済む。

シェルター内での火器使用は基本アウトです。経験則に則って十分注意して行ってください。

もちろんそれは雨の時に出入りする際も、雨の吹き込みは最小で済ませられるってことも意味している。

難点があるとすると、これはツインポールシェルターの宿命だけど、やはり入り口付近にポールがどーんなので出入りがしにくいってことくらいかな。

千利休の茶室の入り口感覚。わかるかなぁ、わかんねぇだろうなぁ。

中に入っちゃえば広々なんだから出入りの時だけ我慢すれば良い話なんだけどね。

あとこれもどのツインポールシェルターにも言えることだけど、M形状の「谷」の部分の高さが物足りない。

これきっと完全な台形にしちゃうとペグだけでの立ち上げはできなくなるだろうし、風にも弱くなるから、ある意味割り切りポイント。

センターに座るとどうしても頭はついちゃいます。

ポールとポールの間隔が広い分、風対策でガイライン引いて、そっち側から風がガンガン来ると「谷」の高さはもっと低くなる。(かなりの強風時はひしゃげて70cmほどになった)

まあでもシェルター内で何かする時はどっちかサイドに寄ってすれば良いし、寝ることに特化したら全然気になることでもない。

というか一応書いたけど、居住性に関してはこのくらいしか難点を見出せなかったってこと。

それほど、これだけの軽さと設営スピードを誇りながらこの居住性は見事という他ないのである。

 

オリジナル生地と縫製

続いては生地と縫製について見ていこう。

生地はフリーライトオリジナル生地「Steck20」。

一般的なシルナイロン製品よりはパリッとしつつも柔軟性がある(=風に強い)というイメージ。

軽い生地でありながら、撥水性や引き裂き強度に優れ、そして伸縮性(縦横斜めのの方向にもよるが)が優れた生地だ。

そしてその生地を生かすの殺すも縫製にかかって来るわけだが、素人の僕から見ても「丁寧でしっかりしている」というさすがな印象。

特に20Dの生地の縫製はとても難しい作業にもかかわらず、職人魂が垣間見られる見事な縫製。

そして圧がかかる部分の補強もしっかりしている。

そして縫製という点で注目したいのが、逆に縫製部分が少ないっていう点。

このMシリーズはたった2枚の生地だけで構成されていて、本来四辺にあるはずの縫製がなくてつるんつるんなのだ。

これが耐風性に大きく貢献している秘密。

全ての面が曲線になってるのと縫製もないことから風の引っかかりもなく、うまく風を「いなして」耐風力を上げているのだ。

北斗の拳でいうならば、まさにトキのような柔の拳(色もどこかトキっぽい)。

剛のラオウ風には柔のトキいなしを。

風と真っ向勝負するのではなく、抵抗力を少なくして上手にいなしているのがMが風に強い理由なのである。

 

耐風力テスト

ってことで、実際に強風が吹き抜ける障害物ゼロの尾根上で耐風テストをしております。

この時の動画が以下のもの。

曲線による引っかかりのなさで、うまく風がいなされていく様子がよくわかると思います。

 

上部のMの「谷」部分からの風の抜けも相まって、ほぼ真正面から横風食らってもうまく受け流している。

こちらは中からの動画。

 

Mの「谷」で風を逃す分、前述した通りその部分の高さは低くはなってしまうけど寝てる分には何も問題なし。

で、この日の夜がまたさらにとてつもない強風になるわけだけど、それでもしっかり持ちこたえました。

 

この猛烈な幕のダンシングにはさすがに恐怖を覚えたけど、「面全体」で真っ向からこの風食らってたらさすがに厳しかったかも。

そしてここでもう一つ生きてきたのがやはりスカートの存在。

もしこの時にスカートのない状態だったら、下から中に巻き込んできた風でシェルターが飛ばされてた可能性大でした。

これぞまさにヒマラヤ仕込みの耐風力!

 

とはいえ、やはりペグの刺さり具合が大きく関係して来るところもあるんで、強風が予想されるところに行く時はテン場のペグの刺さり具合など事前に確認してから行くといいでしょう。

僕に限っていえば、「鈴鹿の風の通り道」って言われるイブネでも、

北アルプスの稜線付近のテン場でも問題なかった。

ただ風に強いと言っても、強風時に風上に入り口を持ってきたり、猛烈な風の時とかはどんなテントもシェルターも飛んでくんで(特にフロアレスは人の重さで支えられない分弱い)、それを踏まえた上で自分の経験と照らし合わせて使用する場所を決めるといいだろう。







雨&結露問題

スカートがあることで、もう一つの恩恵は「雨対策」ってところになってくる。

通常のスカートなしフロアレスシェルターだとどうしても雨や泥の跳ね返りだったりが気になってしまうところだが、当然スカートがあることによってそれらの心配は皆無だった。

そのおかげで二人で使用していても内部の荷物を両端ギリギリにまで置けるので、安心して内部空間を生かすことができた。

ただやはり問題になって来るのが、外的な雨よりも内的な結露

結露はシングルウォールの宿命ではあるが、スカートがあることによって内部の密閉性が高まってよりハードに結露する。

外と中の寒暖差が大きく、特に二人で使用するような時はこのくらいガッツリの状態。

外気4℃、テント内6℃。外は晴れてても中は時折結露の小雨が降るという状況。

ユーコンカワイとアツシオガワの二人の呼気から出る水分が結露と化し、「おっさん汁」となって夜中に顔面に降り注ぐのだ。これはたまらない。

なので当然シュラフカバーだったり、濡れても保温力が落ちない化繊シュラフなどで対応することが求められる。

SOLのエスケーブライトビビィをシュラフカバーとして使用。表面はそこそこ濡れている。

もちろん荷物も多少濡れるんで、防水系のサックに入れておくとかポリ袋にまとめて入れておくと濡れずに済む。

内部で色々と作業してると服にベトっと結露がつくこともあるんで、ここもやはり化繊系のジャケットなどが安心感が高い。

UL装備は軽量な分、何かしらの犠牲だったりそれに対応する装備力や想像力が求められる世界。

スカート付きである以上、ここは最初から完全に「想定内」と認識しておくべき部分。

おいそれと「軽いから」という目線だけで選ぶのではなく、自分の持っている他の装備と経験に基づいて選ぶのがいいだろう。

 

余談だが、フリーライトさんのHPにもこの結露のことが、GHTprojectのテスターの方の意見としてしっかり記載されている。

正直この手の情報をちゃんと明記しないメーカーもあり(だからBBGがいるんだけどね)、そういった意味でもフリーライトさんは非常に信頼に足るメーカーだと思う。

特にUL系のアイテムは事前に割り切るべきポイントや対策すべきポイントを知ってないと、過小評価にも繋がるし時に危険に晒されることにもなりかねない。

 

ちなみに天候が安定しててスカートが邪魔って時は、アナログでできる結露対策として「スカートめくり」という奥義がある。

長辺側ペグダウンポイント3点を、細引きかなんかで縛ってスカート巻き上げーの、

枝かなんかで立ち上げーの、

換気できーのってな感じ。

枝がない時は大きめの石でもいいし、ペットボトルとかでも何かかませそうなものを使うといいだろう。

ってことで、ユーザーの装備や工夫による「結露対策」ってのが、このスカート付きシェルターを使う上でのポイントになってきます!

 

逆に冬季はこのスカート部分に雪を乗せて密閉性を高めれば、内部の気温を上げることができる。

参考資料:同じスカート付きのMSRツインブラザーズ使用時

冬はどうせ何やっても結露はできるし凍ってしまうから、むしろスカート付きの方がありがたい。

もちろん換気は十分にね!

 

その他細かな仕様

それでは最後に、細かい部分の仕様もご紹介。

ベンチレーションは前後上部に2箇所。

立ち上げはグニグニと曲がるゴム素材のワイヤーが芯となってるんで、スタッフサックに仕舞うときも気にせず押し込める。

ペグを打つホールはこんな感じで折り込んである。

上部側がすぼまってることによって、ペグへの引っ掛かりがよく外れにくい。

スカートの四隅はラウンド状になっており、ループもあるけど石でも置いておけばいい。

入り口ジッパー下部はこんな感じで、スカートはマジックテープで固定する仕様。

なお、現在はこの最下部にマイクロフックが取り付けられたりして、日々進化を続けているようです。

で、そのジッパー上部はダブルジッパーになっており、

中からちょっと外を見る時や、換気をアップさせたり、

強度を高めるため、内側のポールから直接木などにガイラインを張るなんてことも可能。

ちなみに換気口上部にも小さなポイントがあるんで、2mm程度のラインを取り付けて、

両サイドからテンションをかければ、強風時でもMの「谷」部分の低下を軽減することができます。

風が強く、テン場スペースに余裕があるときには、耐風面・居住面ともに有効。

入り口はフルオープン可能で、留め具はないけどこのようにスカート部分に石でもおけばOK。

あとは両サイドの天頂部分にもループがあり、トレッキングポールなしでも直接木にラインを張ってセットアップ可能だったりします。

樹林帯でのハイクが多い人は、この方法を積極的に取り入れた方がさらに居住性がアップするでしょう。

 

まとめ

結露の部分をあらかじめ認識した上であれば、全体的に無駄が排除されつつ強度的にも安心感的にもいろんな場所で「かなり使える」シェルターだと感じた。

特にこれだけ簡単に設営が可能なのに、あれだけの居住性を維持できている点は素晴らしい。

今回は二人での使用も想定してゆったりめのM Guideをチョイスしたが、ソロが多い人はM Trail himarayaで十分快適に過ごせるだろう。

フロアレス初心者にも、経験者で森林限界以上でも積極的に使いたい人にもオススメできる逸品だ。

 

「そんなあんたにベストバイ!」

  • 軽量なフロアレスシェルターを検討している
  • 居住性を重視したい
  • 強風下に強いシェルターが欲しい
  • スカート付きで雨や風に対する安心感が欲しい
  • 冬季にも使用できるシェルターが欲しい
  • 自分の装備的に結露対策がしっかりできる
  • ヒマラヤの風を感じたい

 

FREELIGHT(フリーライト)「M Guide himaraya」

本体サイズ 260cm×160cm×120cm(スカート幅28cm)
重量 539g(20D スカートモデル)
本体生地 Steck20(ライトグレーorダークグレー)
スカート生地 20D/30D PUコートオリジナル生地(カラー及び生地選択可)
構造 ツインポールシェルター(フロアーなし)
内容物 シェルター本体 / 収納袋 6g(ポール、ペグ、ライン等は含まれません)

 

ヒマラヤの厳しい状況を耐え抜いてきた、強く軽く広くスピーディーなM himarayaシリーズ。

スカートのおかげで内部への風の吹き込みも少なく暖かいので、これからの秋の低山泊には非常に重宝するでしょう。

また冬季の雪上キャンプも楽しいでしょうね。

今度使う時は、できれば暑苦しい吐息を吐きまくる結露製造機アツシオガワとではなく、可愛いガールと使用したいもんです。

 

それではまたお会いいたしましょう。

ドMガイド、ユーコンカワイでした。