皆さんは山で不思議な体験をされたことはありますか?前回大好評だった『ほんこわ』シリーズの第二弾。今回は避難小屋で起きた恐怖体験です。あなたはコレを読んでもまだ一人で避難小屋泊できますか?ぎゃーーーーす!!!!(文・アツシオガワ)

冬季避難小屋

5月の連休明けに訪れた、とある山域での出来事である。

 

100高山制覇を目標にしていた私は、GW明けの平日にソロでマニアックなA山を目指していた。

 

登山口の駐車場に着くと1台の車が停まっていた。

出発の準備をしていたのは60歳前後のおじさんだった。

 

ちょうど出発する時間が同じタイミングだったので、挨拶をして行程を伺うと

僕が目指す場所の手前にあるテン場で一泊するとのこと。

 

僕はその先にある避難小屋で泊まるつもりですと伝えると

「私も余力があったらその小屋までいくよ」

おじさんは笑顔で言った。

 

「お気を付けて」

と挨拶を交わして各々スタートした。

 

雪のない5合目付近までは順調に歩みを進めていた。

しかし、かなりマニアックなA山は、トレースなどほぼなくGPSなしではルーファイが困難であった。

 

雪が腐ってくると足を取られ、時には踏み抜き、体力と時間を必要以上に奪われた。

 

それでも、ほぼ予定通りの15:30、目的の小屋に到着した。

 

夏山シーズン前は「冬季避難小屋」として解放されているこの小屋は、雪に埋もれても出入りが出来るように、出入り口は外に設けられた鉄の階段を上って2階から入るシステムだ。

 

日当たりが悪いのだろうか、2階の出入り口への外階段にはまだ雪がうっすら残っていた。

 

アイゼンを履いたまま階段を上ると、鉄格子の階段にアイゼンの歯が当たって鈍い音を奏でた。

 

出入り口の前でアイゼンを脱ぎ、最近の足跡らしきものがない事から、中には誰もいないのは明白であったが

念のため引き戸の扉をノックして「お邪魔しまーす」と声を出して建物の中に入った。

 

 

私は、避難小屋などに入る際は必ずノックしてから入るようにしている。

それは過去に起きた2つの出来事が影響している。

 

1つ目は、とある避難小屋にノックなしで扉を開けたところ、中にいたおじさんが

「うわぁぁ!!ビックリしたなもう!!急に開けるなよ!」

とブチ切れられた事があるからだ。

 

「あ、すみません。。。」

と一応謝りはしたが、「真っ昼間に避難小屋の扉が開いたぐらいでビビってキレることないだろ」と内心はイラついた笑。

 

2つ目は、残雪期にソロで大天荘(大天井岳)の避難小屋にいた時である。

 

その日は風が強く、小屋の外ではゴーゴーと音を立てていた。

 

【出入り口が雪で埋まっていたり、凍って開かないことがある】

 

そんな事前情報を得ていたので、一応テントも持ってきていたが小屋に入れて何よりだった。

 

こんな風の強い日にテントだったら大変だったなーと、冬季に解放してくれている避難小屋に感謝をした。

 

夜の20時。

小屋には自分一人。

中は真っ暗。

 

窓も何もないので、本当に真っ暗。

 

風のゴーゴーという音が人のしゃべり声にも聞こえるような…

なんだか気持ち悪さを感じていた。

 

なーんか、やだなー

 

早く眠りたかったが喉の渇きと寒さでなかなか寝付けなかった。

 

面倒くさかったが、体を温める為にフリーズドライの野菜スープを作ろうとお湯を沸かす事にした。

 

小屋の中とはいえ、かなり気温が低く、吐く息はまっ白。

熱々のお湯を注ぎ、フーフーしながら口に運んだ次の瞬間、事件は起きた。

 

 

ガラガラガラガラ!!!!!

 

 

ものすごい勢いで突然出入り口が開いたのである!

 

 

ぎゃーーーーす!!!!

 

 

ビックリしすぎてアッツアツのスープを口の中に勢いよく流し込んでしまい、お口の中が大惨事!!

 

あちゃーーーーす!!!!

 

突然の出来事にテンパっていると、3つのヘッデンが小屋の中を照らしてきた!!

 

逆光で相手の顔が全く見えない。

3つのレーザー光線のような光が私を照らしている。

 

怖い怖い怖い

熱い熱い熱い

 

SF映画の見過ぎのせいか、このまま地球外生命体に連れ去られてしまうんだという恐怖に支配された。

 

すると、地球外生命体が発することのない日本語で

「こんな時間にすみません」と男性の声がした。

 

安堵から蚊の鳴くような小さな声で

「び,ビックリしたぁ…」

と思わず声が漏れてしまった。

 

その声が聞こえたのか

「ビックリさせてスミマセン」

と申し訳なさそうに挨拶をしてくれた。

 

話を聞くと、扉が凍って開かなかったので思いっきり力を込めて開けたのだそう。

そしたら勢いよく開いてしまったというのだ。

 

もう一度確認しよう。

 

北アルプスの残雪期。

避難小屋。

夜8時。

 

外は強風。

風の音が人のしゃべり声に聞こえる。

 

小屋の中は真っ暗。

突然ものすごい勢いで扉が開く。

 

誰がどう考えても「ぎゃーーーーす案件」でしょ!

失禁しててもおかしくなかったYo!

 

ビックリしすぎて心臓は痛いわ、火傷で口の中はヒリヒリするわで最悪だった。

 

 

3人は燕岳から縦走してきたそうで、大天井岳最後の登りで雪の付き方がイヤらしく、思いのほか時間が掛かってしまったそうだ。

「農鳥小屋じゃなくてよかったすね」

と、オガワの必殺アルプスジョークで場を和ませた大天井の夜だった。

 

あー、マジで心臓止まるかと思った。

 

こういった出来事の経験から、必ず避難小屋などに入るときはノックして声を掛けてから入るようにしている。

是非皆さんにもそうしていただきたい。

これ以上、私のような犠牲者が増えないためにも。。。笑

 

 

話しを戻そう。

 

 

ノックして扉を開け、中に入るも案の定、誰もいない。

1階に下りると広々としたキレイな板の間が広がっていた。

 

PM18時

快晴、無風のこの日。

 

夕日に染まる周りの山々がとてもキレイだった。

とても静かな夜を迎えられそうで、星空観察が楽しみだった。

 

さすがにもう誰も来ないだろうと思った私は、広々とした板の間に荷物をバーンと広げ、贅沢に使わせてもらう事にした。

担ぎ上げた500mlの黒ラベルと質素な夕飯でひとり晩酌タイムをはじめたころ、、、

 

「カン、カン、カン、カン…」

 

と外の階段を誰かが上ってきた。

 

あ!

朝のおじさん来たんだ!

 

やっべ、荷物派手に広げちゃったよ。

 

晩酌タイムを一旦中止し、慌てて広げた荷物をかき集めた。

 

おじさんに挨拶をしようと2階の出入り口を眺めていた。

 

しかし、しばらく経ってもなかなか入ってこない…。

 

あれ?おかしいなぁ?

アイゼン外すの手間取ってるのかなぁ?

夕日でも見てるのかな??

 

もう数分待ってみたが、いっこうに入ってこない。

あれ?

気になったので、外に見に行く事にした。

 

出入り口付近にいたらビックリさせてしまうので、「あけまーす」と聞こえるように声を掛けてから開けた。

 

外に出てみると誰もいない。

へ?

あれ?トイレにでも行ったのかな?

 

階段を見ると、そこには僕の足跡だけしか残っていない。。。

 

へ?へ?へ?

いやいやいやいや

 

いやいやいやいや…

き、聞き間違いなんてレベルじゃないっすよ。

か、か、完全に下から上まで階段を上がってきた足音をハッキリ聞いたんすよ…。

 

。。。。

。。。。

。。。。

。。。

。。

う、うそだろ。

うそだろ….。

 

気がつくと全身に鳥肌が立っていた。

 

ぎゃーーーーす!!!!

 

怖い怖い怖い

 

無理無理無理

 

 

慌てて小屋の中に戻るオガワ。

鳥肌が収まらない。

 

怖い怖い怖い

 

無理無理無理

 

え?え?え?

ももももしかして、小屋の中に入って来ちゃったりしてる感じ?

 

うそうそうそうそ

やだやだやだやだ

きもいきもいきもい

 

いったん恐怖スイッチが入ってしまった私は、晩酌タイムを強制終了。

 

半分以上残っていた500の黒ラベルを一気に飲み干した。

 

しかし、恐怖でぜんぜん酔えない。

このままでは寝られない。

 

素面(しらふ)では、この小屋で朝を迎えるのは到底無理だった。

迷ってる暇はなかった。

 

スキットルに入ったジャック・ダニエル(アルコール度数40%)をストレートでイッキ飲みした。

 

山の上でウイスキーのイッキ飲みは、気絶するには十分だった。。。

 

バタン…

グピー

 

気がつくと朝になっていた。

 

勝った。

俺はヤツに勝ったんだ。

 

わざとらしく音を立てて恐怖で支配しようとした陰キャ野郎に俺は勝ったんだ!!

ったく、趣味の悪いやつだぜ!

ウイスキーの度数ナメんな!

 

しかし飲み過ぎたせいか頭が痛い。。。

頭も痛いが、なぜか体中が痛い。。。

 

あまりの恐怖体験のせいで、体が硬直してしまったせいなのだろうか。。。イテテ

 

バキバキの体を無理矢理起こすと、そこには買ったばかりのNEMOのエアマットがパンクしペチャンコになっていた。

 

 

ぎゃーーーーす!!!!

 

 

おわり