岩と雪の殿堂『剱岳』に伸びる一筋の尾根がある。その名も『早月尾根』。標高差2,200mという日本屈指の男塾尾根は、鍛え上げられた肉体、精神力を持つ者だけが挑戦できる修羅の道。そこに挑んだ漢達の奇跡の物語。もう二度と行きません。(文・アツシオガワ)

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試練と憧れ

「試練と憧れ」

この言葉を耳にしたことはあるだろうか。

数々の猛者(もさ)たちがこの地に集い、戦いを挑み続け血反吐をまき散らした戦地。

それが難峰「剱岳」へと伸びる早月尾根である。

標準コースタイムで往復約16時間

標高差 約2,200m超という北アルプス三大急登にもなっている男塾ルートなのである。

「黒戸と早月(はやちゅき)日帰りしたら大したもんでしゅよ」と長州は言う。

この「はやちゅき」に男塾王泥(ワンデイ)で挑もうとする一人の猛者がいた。

そう、ゴ…アツシオガワである。(己でゴ…と入力する侘しさよ)

最近は釣りばかり笑

鬼ころしSと行った奥穂高以来、まともに山を登っていない体で男塾尾根を無事に生還することができるのか。

一抹の不安を抱えながらも私は登山口のある「馬場島」をめざし車を走らせていた。

富山県に入りどこかで夕飯をとウロウロしているときに僕のスマホが鳴った。

釣り仲間の「おリュウ」だ。

今年から渓流デビューしたのにいきなり尺を釣り上げる空気の読めない後輩おリュウ

「アツシさん、なにしてんすか?」

気の抜けた内容のメールが届いた。

こっちは男塾に備えビンビンになってるって言うのに・・・。

「夜明前 剱岳 早月 男塾 」と臨戦態勢に入っている旨を返信した。

おリュウ「え?まじっすか?俺も行くっす!」

あん?

こいつは早月がどんなルートか知ってるのか?

「思い立って来るとこじゃねーんだぞ!小童(こわっぱ)がっ!!」

と入力し、送信ボタンを押しかけたが、まてよ・・・。

久しぶりのソロで早月は、途中で心折れる可能性75%

途中でめんどくさくなって己撮りしなくなる可能性92%

おリュウが写真撮ってくれる可能性99%

アツシオガワのAIが『おリュウと登った方が間違いなくいい!』とはじき出した。

慌てて「小童がっ!」をバックスペースで削除。

「思い立って来るとこじゃねーんだぞ!でもお前ならやれると信じている」

私はそう焚きつけたメールを返信した。

おリュウ「今から向かいます!」

え?まじ!?

・・・ちょろい。

十(とう)も下の男を転がすなんて実にちょろい。

おリュウは20時に早月尾根に行く決心をし、21時に名古屋を出発するという奇人であった。

直進行軍開演

AM3:50

出発前からボトルのお漏らしにイラッとしながら準備を整える。

このボトルいいんだけど、漏れるんすよね

長丁場になるであろう早月尾根は軽量トレランスタイルで挑む。

今回はビールを持たされることもないから安心だ。

 

AM04:05

ついに我々は、この石碑の前に立った。

ドーン

試練と憧れ

いったいどれほどの試練が待ち構えているというのか。

二人は暗闇の中に鎮座する石碑の前で生唾を飲み込むのであった。

 

改めて紹介しよう。

今日のバディ「おリュウ」だ。

去年のOMMで仲良くなり(グッドルッキングGUYS)、今年に入ってから月に2−3回は一緒に釣りに行くようになった爽やかボーイだ。

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彼は、クライミング、登山、釣り、BIKE、カメラなどなど趣味が多すぎて『何も極めたモノはないがなんでもソコソコこなす』という僕と同じ人種である。

唯一違うところは、彼は爽やかイケメンだというところだ。

なにげに一緒に山に行くのは今回が初めて。

若くエネルギッシュなおリュウに軽肥満は付いていけるのか?

長い一日がはじまった。


AM05:10

ヘッデンを消しても歩けるぐらい、空が明るくなってきた。

出発して約1時間、若干オーバーペース気味なのは否めないが二人ともまだまだ元気である。

逆さにしても「MHW」

おリュウの右乳だけ垂れてるのが気になるが、まだまだ先は長いので特にソレに触れることはせず先を急いだ。

 

AM05:20

早月尾根には200mおきに標高を記した看板がある。

登りは二人とも調子がよく、ハイペースで次々にこの看板が現れるのが楽しかった。

そう登りでは・・・。

 

AM06:10

山々に朝日が当たり始め気温も上がってきた。

天気も上々だ。

おリュウ「アツシさん!みてみて!」

「エイリアンの卵みたいなのがあります〜。きもーい」

一緒に釣りに行っても蜘蛛の巣があると避けて通るという「虫&爬虫類ダメBOY」のおリュウ。

デカい虫がいると「きゃっ!」って言うのやめた方がいいぞ。

気づけばオネエの左乳も垂れ始めていた。

 

AM07:00

「早月小屋」到着。

え!?

3時間で小屋着いちゃったの!?

俺たち早くね??

お互いの健脚ぶりに酔いしれ、調子に乗る二人。

タイムマシンがあったら今すぐこの時に戻っておもくそ二人にビンタしてやりたい。

「早月なめんじゃねえ!」と。

だが、いまの彼らに地獄の下山が待っていることは知るよしもない。

 

小腹が減ったのでここで小休憩。

おやつ食ーべよーっと

そう、これが私のおやつであーる。(実はまだザックに隠しおにぎり二個アリ)

おリュウが「あたいもおにぎり食べたーい」って言うので、「好きなの一個食っていいぞ」って器のデカい先輩をアピールするアツシオガワ。

「えー、いいんですか!嬉しい♥」

って、てめー!

俺が一番楽しみにしてた「枝豆しそひじき」選んでんじゃねー!

昆布にしとけ!昆布に!!

と言いたいのをグッとこらえ、「お、おう。好きなの食えよ」と器のデカい先輩をアピる小さな男であった。

 

AM08:00

標高は2,400mまで登ってきた。

いよいよ剱岳のピークが姿を現し始めた。

このあたりから本格的な岩の剱岳がはじまる。

ここまでスタートして4時間ちょっと。

二人ともまだビンビンである。

核心部を前におリュウがザックをゴソゴソし始めた。

一眼持ってきたんすよ。

と言って、クソ重いフルサイズ一眼を取り出したおリュウ。

今回は車に置いてくって言ってたのに結局諦めきれず持ってきたらしい。

普通、核心部に入ったら邪魔になって危ないからカメラをしまう人が多い中、おリュウは核心部を前に一眼を取り出すという奇人であった。

そんなでけーカメラ入れてたからおにぎり入らなかったんだろ!と言いたいのをグッとこらえ、「いい写真期待してるぜ」と優しく声をかけるアツシオガワ。

優しい先輩を演じるのも大変だ。

AM09:20

ここが「カニのハサミ」と呼ばれる唯一?の核心部である。

鎖がしっかり設けられているので、慎重に通過すればさほど難しい場所ではない。

にしても、この行程にくそ重たい一眼持ってくるってゴイスーだな。

俺なんて最近どこ行くにもiPhoneだもん笑

 

その後もプリケツとおリュウはスピードを落とすことなくグングン登っていく。

今日のアツシオガワは絶好調だ。

さあ、もう少しで頂上だ。

 

AM09:30

とらえた!

平日にも関わらず賑わっている様子の山頂が確認できた。

 

AM09:35

ついに我々は早月尾根の往路を制覇し、剱岳(2,999m)の頂に立った。

登り約5時間半。

写真や動画撮りながら登った割にはなかなかいいペースじゃないか。

鬼ころしにビール歩荷トレーニングさせられた成果が出たのか、特に疲れることなく登れてしまった。

鬼ころしよ、いつもビールを担がせてくれてありがとう。

ってなるかー!怒

 

さて、下山に備えてしばし休憩じゃ。

んー、ナイスビュー。

雲が上がってくる前に到着できてよかった。

おリュウは絶景に感動して鼻血がでそうらしい。

メシ食ったり、ギアログ用の写真撮ったりして1時間以上も頂上を満喫。

雲も上がってきたし下りるっぺか!

懺悔と下山

AM10:30

下山開始

登り5時間半なら下りは4時間かな。

二人は4時間で下ることを目標に早月地獄ダウンヒルへと突入した。

グッバイ剱岳。

いい山だったぜ。

よし、サクッと下って旨い寿司でも食いに行くべ!

 

PM12:40

いままでおとなしくしていた早月尾根がついに下山でその牙を剥く。

 

ぎゃーーす!!

 

静かな森にこだまする叫び声。

叫び声の主は軽肥満アツシオガワ。

ここまで70kgオーバーを支えてきた彼の両太ももがついに悲鳴をあげたのである。

激しく痙攣し悶絶するアツシオガワ。

いててててっいてててててててっいててててて

なかなかおさまらない両足の痙攣。

のたうち回るゴ…。

あいつをキメるしかねぇ!

頼むぜマグオン!

ちゅーちゅー

嘘みたいな話だが、マグオンを摂取した直後に痙攣がおさまった。

この手のモノって効果を実感するの難しいんだけど、即効性があって驚いた。

 

しかし、またしばらくすると今度は左足だけが痙り始めた。

ぎゃーーす!!

ま、ま、マグオンさえ飲めば・・・。

嘘みたいな話だが、もう一本マグオンを飲んだら直後に左足の痙攣もおさまったのだ。

なんだこれ、すげーぞ!

こんなに効果を実感できるなんて!!

事前に飲んでおけば痙り防止にもなるんじゃないかと思う。

 

痙攣はマグオンのおかげでおさまったものの、朝からのハイペースに私は疲れていた。

これは天国に召される瞬間を捉えた貴重な写真である

おリュウが狙っている女の子の話を楽しそうに話していたが、私には一切入ってこなかった。

心の底からどうでもいいと思えた。

私からは一切の余裕が消え、生きることで精一杯であった。

そろそろ限界も近い・・・。

 

PM13:00

ぎゃーーーす!!!!

うるせえ。

またヤツだ。

どうせ足でも痙ったんだろう。

いや、今度はお股をおっぴろげて倒れているではないか。

転んでも撮影が終わるまで立ち上がることを許されない過酷な現場

なんと、バックパックから飛び出したペットボトルの上に乗ってしまい、豪快に転倒するというウルトラCを決めたのであった。

特別な訓練を受けたアツシオガワなのでこの程度で済んでいるが、普通なら右足複雑骨折は免れないほどの大転倒。

皆さんもペットボトルの上に乗るときは十分な訓練を受けてからにしてください。

 

いよいよ運からも見放され始めたアツシオガワ。

ガッデム!!!

ちくしょー!やってらんないぜ!!

こんなときはMGONキメてハイになるしかねぇ!

キメるアツシオガワ

すっかりマグオン中毒となってしまった私。

マグオンから立ち直る日は来るのだろうか。(立ち直る必要はない)

 

PM14:15

ついに残り1,000mまで下りてきた。

長かった・・・。

さすがのおリュウも疲労の色を隠せなくなってきていた。

垂れ乳はしまったようだ

 

PM14:30

長かった・・・。

と・に・か・く 長かった。

このまま終わらないんじゃないかと思ってしまうほど長かった・・・。

 

だがついに我々は「剱岳」の試練に打ち勝ち、早月尾根を踏破したのだ!

モリオもよくがんばった!

結局、目標に掲げた4時間ピッタリで下山!

休憩を入れてトータル10時間半。

道中アクシデントもあったが、最後まで気持ちを切らさず歩き続けた自分を褒めてあげたい!笑

おリュウもお疲れ様!

エピローグ

剱岳で一番メジャーな別山尾根コースにある「カニのたてばい・よこばい」のようなテクニカルなポイントはほぼなく、ただただ一気に駆け上る早月尾根はまさに男塾直進行軍にふさわしいルートであった。

個人的には意外と上りやすいルートに感じた。

というのも、アップダウンが少なく、平坦なトラバースもほぼないため、標高差こそ2,200m強とゴイスーだが、累積標高で考えると登り返しがあまりないので、山から山へ縦走するコースの方がキツいんじゃないかなーと思えた。

アツシを探せ

登りは登り、下りは下り。

ハッキリしていて好き。

登りで下らされるのとかほんとイヤ笑

決して気軽にオススメできるコースではないが、ある程度の経験と体力があれば難しいルートではないと思う。

しっかりと装備&体調を整えた上で挑戦してみて欲しい男塾コースである。

天気がよければ絶景の立山連峰を見ながら歩くことができる早月尾根は最高ですよ。

また行きたいかと問われれば、迷うことなく「NO」ですけど笑

おリュウ、付き合ってくれてありがとう!

以上、アツシオガワでした!

押忍!