各方面で絶賛されるドライレイヤー「ドライナミックメッシュ」の発表以来、今登山系アパレルブランドとして最も勢いのあるミレー。そんな勢いがあるメーカーだからこそ、さらなる革新的で思い切った挑戦ができるというもの。そんなミレーがドライレイヤーの次に挑戦の場に選んだのはレインウェアの世界。フランス語で「台風」という意味をなす「TYPHON(ティフォン)」と名付けられたそのウェアは、果たしてレインウェア界の台風の目となり得るのか?その挑戦、BBGが受けて立つ!
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常識があぶない
かつて「たけしの挑戦状」という革新的すぎるゲームがあった。
そのパッケージに記されたキャッチコピーは「常識があぶない」。
その伝説のゲームはまさにファミコンゲーム界の常識を覆し、絶対にクリアできない理不尽なその内容は当時多くの小学生たちに「挫折」という言葉を強く塗り込んだ。
そして現代。
アウトドア界のビートたけしと言われるか言われないかのミレーが、レインウェア界の常識を覆そうと1式のレインウェアを世に送り出した。
それが「TYPHON(ティフォン)50000 シリーズ」なのである!
そのスペックだけ見ると、まさに驚異的数値。
「ドライエッジティフォン50,000」というミレーオリジナル素材の透湿性の公称値が、なんと「50,000g/㎡/24h」というハイパーさ。
通常レインウェアのゴアテックス素材で「13,500g」、ネオシェルでも「20,000g」、最強と言われるeVentでも「30,000g」。
この数字が本当なら子供の喧嘩の中にラオウを投入するようなものである。もはや反則だ。
50,000gってのはそれほど常識外の凄まじい数値なのである。
さらに!
そんなすげえ透湿性を持ちながら、しなやかな着心地でストレッチも効いちゃうってんだからさらに凄まじい。
ラオウの剛の拳にトキの柔の拳が合体したようなもんだ。もう誰も勝てやしねえ。
これらが本当なら、まさにレインウェア界の「常識があぶない」ってな事態に。
しかし大概が数字通りに事は運ばないってことをBBGは多々経験しているが、ドライエッジティフォン50,000は果たして…。
さあ、ミレーの挑戦は、たけしの挑戦状並みに理不尽で厳しいBBGの目を突破できるのか。
2コンのマイクをオンにして、いざ、ゲームスタートだ!
STAGE.1 防水性
たけしの挑戦状だとスタートと同時に受付のオヤジを殴ると速攻でゲームオーバーになってしまうが、レインウェアも一番肝心の防水性がアウトだと山で即座にゲームオーバーだ。
そんな中でドライエッジティフォン50,000の公称耐水圧は「20,000mm」。
これを先ほどの素材たちと比べてみると、ゴアテックスが45,000mm、eVentが30,000mm、ネオシェルが10,000mm。
こと耐水圧においては20,000mmはさほど大した数値ではないが、正直雨を凌ぐ上では必要十分な数値だ。
では実際に雨の中でプレイしてみよう。
やはり他の10,000〜20,000mmのウェアと同様、わりかし早い段階から水滴が滲むような感じになる。
しかし当然内部への浸水はないので、レインウェアの本分である防水性に関しては全く問題はない。
当たり前だが防水性能はクリアだ。
ただこのように滲んでしまうと、浸水こそないにせよ、生地表面に水の膜ができるから透湿性への影響は若干出てしまうだろう。
STAGE.2 透湿性
さあ、このレインウェアの最もウリである透湿性での挑戦!
もし数字通りのラオウ透湿を体感できれば、まさに完璧なレインウェアとなるだけに期待が高まる。
しかし今BBGの二人は素材の違う4着のレインウェアをひたすら着まくり、こと透湿に関しては相当敏感な身体になってきている。
ミレーがレインウェア界の台風の目なら、我々は透湿レビュー界のニュータイプだ。
さあ、行くぞ、ララァ!
いつもと同じ条件での樹林帯ハイクアップ。
まず先に一つ言っておこう。
当たり前だが、通常ゴアテックスよりは間違いなく透湿性はいい。そりゃ13,500vs50,000なんだから当たり前だ。
しかしである!
正直ものすごい透湿性を期待していただけに、結構な肩透かし感があったことは否めない事実。
今のところBBGが透湿度No.1と認めたゴアテックスC-Knitを上回ると期待していたが、そのレベルには遥かに達していないと感じた。
むしろ数字上半分以下のネオシェルと同等、もしくはそれ以下な体感透湿度。
当然個人差はあるが、何度もテストしているユーコンカワイもアツシオガワもそこは同意見だった。
こないだ赤岳に行った時も、樹林帯ハイクアップ時は即座に内部がムンムンになって早々に脱いでしまったし、
樹林帯を抜けてからは、寒風が吹く→寒いからジャケット着る→少し登ったら蒸れる→暑いから脱ぐ→寒風が吹く→着る…のループを何度か繰り返し、体温調整に苦労した。
これだけ書くと「何?良くないの?」って感じになっちゃうが、あくまでも期待が大きすぎただけであって通常のレインウェアよりは十分透湿性はある。
だからこそ思ったのは、「だったら脇下にベンチレーションジッパーがあったら良かったのに」ってこと。
それがあればもう少し体温調整もスムーズだった。
一応左右のポケットを開ければメッシュになっててベンチレーションとして機能はするけど…
ここガッパリ開けっ放しだと、例えば中に何か入れた状態で前かがみになるような状況になると、ポケットが深くないからこの危なっかしさ。
岩場を登るような局面でこの状態だと、高確率でこのiPhoneは「男塾万歳!」と叫んで奈落の底にグッバイだ。
そうなるとこれはポケットだけどポケットにあらずってな感じで向き合うことになるし、ベンチレーションと割り切っても位置的に熱気を逃すには弱い箇所。
なので多少の重量アップになったとしても、ポケットはポケット、ベンチレーションはベンチレーションとして脇下へ配置されてたらベストだった。
いや、むしろ数字上の透湿性がちゃんと体感的にも感じられてたらベンチレーションすらいらなかったのだけども…。
ついでに言えば、脇下にベンチレーションをつけた場合、ポケットは胸のセンター側に一個あれば十分だし使い勝手もいいっす。
一方で今回同素材の「ティフォン50000ストレッチ トレックパンツ」も導入しているが、なぜかこっちの方はすこぶる調子が良かった。
というかこのパンツ、めちゃめちゃ快適。ほんと超快適。
上半身と下半身の違いってのもあるけど、同じ素材なのになんでこんなにジャケットと差が出るんだろう?
透湿性は明らかにパンツのが上だ。
このパンツはティートンのブレスパンツ同様、かなりオススメの逸品だ。
ちなみにジャケットの方は、寒風吹きさらす稜線上で運動量の少ない縦走ハイクに突入すると、耐風保温シェルとしての安心感はアップする。
透湿性抜群のC-Knitではやや外気を感じて涼しくなってしまう局面でも、このジャケットなら内部の熱がすぐに拡散されず中にこもるから通常のゴアテックスのような安心感を感じられる。
ってことで、低山ハイク中心ってよりかは、アルプスでの使用の多い人には丁度いいスペックとも言えるだろう。
ただどうしても「透湿性50,000g/㎡/24h」っていう数値が、過度に期待しちゃった分物足りなかった…。
おそらく試験上はその数値を叩き出してるはずだから、いずれ体感レベルでもC-Knitを超えるくらいのものに進化させて行ってほしい。
ってことでSTAGE2は、期待を込めてあえて厳しくクリアならず!
STAGE.3 ストレッチ&フィット感
一方このティフォン50000のもう一つのウリである「ストレッチ」に関してはどうだろうか?
これは他のレインウェアに比べて「非常に素晴らしい」と言う他ないレベルだった。
どんなに激しい動きにもしっかり追従して、ストレスがないのだ。
もちろん同素材のトレックパンツの方も、足上げもスムーズでシャカシャカしないので実に快適。
ジャケット、パンツともにレインウェアというよりソフトシェルと言った方が適切な快適度。
こうなってくると、多少透湿性が期待値以下だったとしても、やはり前述した通りアルプスなどの森林限界以上の活動時にとても重宝するのは間違いないだろう。
では全体のフィット感の方はどうか?
今回171cmの僕は、ミレーのサイズチャートに則って「US・M/JP・L」のサイズを購入。
パンツの方はピッタリだったんだが、ジャケットの方は確実に1サイズ、もしくは2サイズ大きかった。
購入を検討されてる人は普段より1サイズか2サイズ下、もしくはちゃんと試着してから購入しよう。
ってことで当然全体にダボついてしまって、しっかりしたフィット感をお伝えできずに大変申し訳ない。
せっかくこれだけストレッチが効くウェアなので、171cmの僕でもJP・Sでもよかったんじゃないかと今では思う。
でもそうなるとジャケットとパンツのサイズ感の差がちょっと大きすぎるんで、その辺は消費者としては戸惑ってしまうところ。
地方者だと近くのショップにミレーのウェアが置いてなかったりするから試着できないし、サイズ感をもう少しわかりやすく(これが難しいだよね)してくれるとありがたいですね。
ただ前評判通りのストレッチ性は十分に感じられたので、クリア!
生地内側のサラサラ感も、地肌直は厳しいけど、長袖ベース着てれば快適そのもの。
このステージに関しては、十分レインウェアの常識を覆すだけの勢いを感じました。
STAGE.4 フード周り
続いてはフード周り。
この分野は過去どのレインウェアもステージ突破を許してない世界で、個人的に満足させられるフードには今まで一度も出会っていない。
どのウェアも一長一短で、特に僕は顔がデカイから毎度突っ張っては「くそ…顔デカは雨の山に行くなってことなのかい…」といじけてしまう分野だ。
ではティフォン50000はどうか。
ヘルメット使用も考慮された大きめのデザインで、調整も細かくできて概ね良い感じ。
フロントはドローコード引いてウェア内のストッパーで調整。
バックはベルクロ調整と、同じくドローコードでの調整が可能。
しかしなんでなんだろう?
どのメーカーもこの部分の調整ができないから、やっぱり僕は突っ張ってしまうのですよ。
こうやって顔を上げると庇が目の上にかぶってきて、帽子もずれるは視界は狭まるわで鬱陶しくなってしまうのです。
ああ、誰かこの難解ステージをクリアしてくれるメーカーは現れないもんだろうか…。
まあこの辺りはこの人の顔のデカさの問題なんで、一般の人的には十分なサイズでしょう。
このヒゲ面の尼さんなんて顔ちっちゃいんで、特にストレスもなく穏やかな表情をしております。
ただこの尼さんもそうなんだけど、もう一個あえて言わしてもらうと前襟がちょっと短いんで、こんな感じ↓で顎の下に襟が回り込んで来てちょっと鬱陶しい。
もう少し長く、常時顎の前に襟が来てる方が快適だし、ウェア内の熱排出も多少向上する。
実際逃げ場を失った熱気が首回り(特に背中側)にこもることがあり、あんまり暑いとちょっとのぼせた感じになっちゃいました。
ってことで、このステージはそれこそたけしの挑戦状並みにクリア不可能なステージ。
でも一般的には問題なしってことで一応クリアにしておきます。
とは言え、誰かこのステージ、早く完全クリアしておくれー!
STAGE.5 カラーリング
この辺りはシャレオツで鳴らすおフランスのメーカーだけあって、実にいい感じのカラーが揃っている。
特に今回導入した、ほぼ白っていう「Cloud Dancer」なんてカラーはとても新鮮でいい感じ。
僕の場合バックパックも白なんで、このままお遍路さんに行っても違和感なく溶け込めるだろう。
しかも「Cloud Dancer(雲の踊り子)」ってネーミングも、毎度雲の中ににまみれてしまう僕にはピッタリ。
このまま遭難したら景色に同化してかなり発見確率が低くなりそうだが、正直このカラーはあまり人とも被らないし着ていて気分がいい。
細かいところで言えば、ロゴやジッパー部分が黒じゃなく濃いネイビーってあたりは小憎たらしさすら感じてしまうセンスの良さ。
ジッパー部分の赤白青のおフランスミレーカラーもナイスワンポイント。
さすがにこのステージは完璧に突破して行ったミレーさん。
元々のコンセプトが「街でも違和感なく着れる」ってもんだから、その辺はちゃんと抑えてきてますね。
お見事です。
STAGE6. その他細かい仕様
さあ、続いては最終ステージ「その他細かい仕様」という曖昧かつ地味なステージだ。
まず「ジッパー系」に目をやってみよう。
フロントジッパーはダブルジッパーになっていて、下からも解放が可能。
ビレイ時やお小水時、またはベンチレーションとして重宝するダブルジッパー。
正直個人的には着脱が若干スムスーズじゃなくなるんで特にいらない仕様だが、必要な人にとってはありがたいだろう。
ただこの部分の裁断のせいなのか、どうしても一番下が膨らんでしまって鬱陶しい。
なんだか「山ガールにコーフンしてもっこりしてる人」的な様相を呈してしまい、あらぬ冤罪に巻き込まれないかと不安になってしまう。
周りから「アルプスのシティーハンター」なんてあだ名を勝手につけられないように注意が必要だ。
続いてはカフ。
ここは普通にベルクロでとめるタイプ。
反対側もゴムになっているが、このゴムがあまり伸縮性がないため、腕時計とか見る際はいちいちベルクロを外さなきゃいけないのがちょっとめんど臭い。
ただその分密閉性は高いから、手首から伝ってくる雨の浸水は最小に留めることはできる。
そして裾のドローコードは、フードと同じショックコードとストッパーの仕様。
これも絞る時はいいんだけど、広げる時がボタン押すだけじゃスムーズにできずにややストレス。
ついでにトレックパンツの方も見ていくと、ベルトはこのタイプ。
正直このタイプの柔らかいベルトは、脱ぐたびにねじれちゃったりするから個人的にはあまり好きではない。
しかしこのティフォン50000シリーズのパンツは、なんと用途別に3種類ものパンツが用意されてるから、そのあたりは好みで選ぶとこともできる。
「パンツ」は裾にジッパーがある一般的なオーバーパンツで、「トレックパンツ」はその名の通りトレッキングパンツ風のもので、「イージーパンツ」はよりシンプルなジョガーパンツ風のもの。
今回パンツに関してはかなり高評価だったんで、後は細かい部分のブラッシュアップを計ればより最強に近づくだろう。
前側のポケットはなんだか生地がごわついてしまうから、正直いらないかもです。
ケツのポケットだけ残しといてくれれば十分す。
あとは収納に関してだけど、パンツはそのケツポケットがパッカブル仕様になってて収納可能で(下)、ジャケットはフード内にくるくる入れてショックコード引っ掛けてこんな感じに(上)。
地味だけど意外とこういう仕様の軽量レインウェアはないんで便利です。
せっかくなので今更ですがこのまま計量してみましょう。
ジャケットの方が302g(メーカー公称304g)で。
トレックパンツの方が213g(メーカー公称280g)。
パンツの方はなぜか随分軽いけど、軽い分には全然オッケーですよ。
ポケットなくしたら200g切るんでは?
という感じのその他細かい仕様ステージでした。
細かい仕様部分ではこれといって革新的なものがない代わりに、次回バージョンアップに向けてまだまだブラッシュアップできる余地があると感じました。
ただ全てにおいて現状のものですごく困るって部分はないんで(モッコリくらい?)、ここもステージクリアでございます。
まとめ
今回に関しては、商品名にもなってる透湿50,000gってのがメインだっただけに、やはりそこが最重要チェック項目だった。
前述したが、実際に試験では50,000gを叩き出してるはずなんで、とにかくそこを体感的にも感じられるようにさらなる挑戦を期待をしたい。
車の燃費でも、いくら15km/1L走るよって言われても実際10km/1L行くか行かないかだと、やはりユーザーはがっかりしてしまう。
逆にそこをクリアすれば、この素晴らしいストレッチ性とデザイン性と相まって、まさに死角ゼロの最強レインウェアとなるだろう。
そうなれば、「常識があぶない」どころか「常識が変わった!」になるはずだ。
今回は期待が大きかったぶん少々辛口になってしまったが、しかし現時点でも十分にレインウェアとして上位に位置するウェアであることは間違いない。
何より今BBGがテストしている4着のウェアの中では、最もお手軽な価格だってのも見逃せない。
そういった総合面で判断すると、コスパ的にも相当優秀なウェアだと断言できるのである。
MILLET(ミレー)「TYPHON 50000 ST JKT(ティフォン 50000 ストレッチ ジャケット)」
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MILLET(ミレー)「TYPHON 50000 ST PANT(ティフォン 50000 ストレッチ パンツ)」
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MILLET(ミレー)「TYPHON 50000 ST TREK PANT(ティフォン 50000 ストレッチ トレック パンツ)」
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MILLET(ミレー)「TYPHON 50000 ST EASY PANT(ティフォン 50000 ストレッチ イージー パンツ)」
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まだまだミレーの挑戦は始まったばかり。
大いに夢のあるこの素材のウェアは、レインウェア界の常識が変わる期待をひしひしと抱かせてくれる。
クリア不可能と言われたたけしの挑戦状だって、攻略本買って相当無理すれば一応クリアはできるのだ。
この世にクリアできない挑戦状なんてないのだ!
今後も大いに期待して注視していきます!
それではまたお会いしましょう。
ユーコンカワイでした。