風に強いという新シェルターの耐風テストのため、ユーコンカワイが向かったのは「鈴鹿の風の通り道」と言われるイブネ・クラシ。そこは鈴鹿の奥座敷とも呼ばれる最深部に広がる台地状の秘境であり、ファストパッカーたちの憧れのテン場でもある。そんな素敵な場所に、あえて台風接近中&ヒルまみれの時期というチャッピーな状況で突入していったファストマゾの男。そのイブネ暮らしの顛末をさっくりと振り返るのである。
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鈴鹿の奥座敷イブネ・クラシ
山を飛び、谷を越え、源流を遡り、峠を越え、その先の破線ルートを越えた奥にその奥座敷はある。
忍者ハットリくんが僕らの街にやって来た時よりも過酷な道のり。
だからこそ秘境であり、いつかは訪れてみたかった憧れの台地なのである。
そこは西からの風が鈴鹿山脈にぶち当たる最前線であり、樹林がないから吹きっさらしのマゾっさらしスポット。
西から台風が迫って来ているにもかかわらず、そこにあえて行かねばならんのが我がお仕事なのである。
しかもこの時期の鈴鹿はヒルパラダイス。
プロマゾの私にとって、思わず興奮して前かがみになってしまうような好条件なのである。
第1章 いざ秘境へ!
さあ、憧れの秘境目指して朝明駐車場を出発だ。
現時点で天気はやたらいいが、平日だし、これから天気が悪化するってわかってて登る物好きは僕だけのようだ。
しかもこれからヒルの巣窟に突入しようというのに「生足」という攻めの姿勢。
最初っから「今日は献血に来たのだ」と割り切ってしまえば、幾分か気は楽である。
とは言え、かつて気づかない間に両ふくらはぎに10匹のヒルが食らいついていた経験がトラウマになっている僕。
ってことで今回は出会い頭のヒルに対応できるよう、常時ポケットには最大級の軍事力を保持した状態で挑む。
対ヒル戦において最も相性のいい「MR.ライター」と「ソルト&ペッパーマン」の最強タッグだ。
それでは張り切って行ってみよう。
今回は本当に久しぶりのソロでのテン泊山行だ。
ってことで久々に己撮り全開でお送りします。
言うまでもないが、己撮りする場合カメラとの間を何往復もすることになり、実際の行程よりも1.5倍は余計な作業に従事する羽目になる。
そういったソロゆえの悲しき裏事情を考慮の上読み進めていただくと、より味わい深いものになります。
この橋だけで別カットも含めると、橋を5往復もしているから一向に先に進まない。
事情を知らない警官が見たら「キミちょっとポケットの中見せてもらっていいかな?注射針とか白い粉とか入ってない?」なんて聞かれてもおかしくない状況である。
それでも果敢に進んでは戻るを繰り返しながら、ウォーミングマゾアップを楽しみつつ山を越えていく。
このいかにもヒルの皆さんが団体で暮らしてらっしゃいそうな、ジメジメとした暗い雨上がりの道のり。
今回の山行は己撮りだけでなく、常に足元のヒルをチェックしながら進むと言う、一向に山歩きに集中できないというウキウキハイキング。
何度も足元を見ては、ドライマックスソックスのロゴマークがヒルに見えて「ビクッ」っとするの繰り返し。
ヒルの時期にドライマックのソックスや、ましてやナイキのソックスなぞは絶対に履いてこない方が賢明である。
やがて根ノ平峠を越え、
ひたすら奥へ奥へと侵入なのである。
先はまだまだ長い。
余計なことをやっている時間はないぞ。
第2章 余計な時間
もう最近すっかり「目的地直行」ということができなくなって来ている僕。
どうしても「ハッ」っと気づいた時には、余計な寄り道をしてしまう性癖になってしまった。
と言うか、余計な寄り道がしたいから少しでも早く動けるファストパッキングを始めたと行っても過言ではない。
「山にいる事自体が目的地」の僕にとって、ここで突然テンカラ釣りを始めてしまう事になんの違和感もないのである。
「これは仕事です。シェルターの耐風テストです。」と家族にかっこよく言って出て来た割には沢で竿を振りまくる男。
しかも今回は前回の欲にまみれた別山谷と違い、「まあ途中でササッと1匹でも釣れればいいや」ってな無欲な気持ちで沢を遡上。
するとその無欲の甲斐あってか、なんと人生初のアマゴがヒット!
思いがけない形で、突然アマゴ童貞を卒業。
なんか酔った勢いでいつのまにかよく分からない行きずりの女と朝を迎えていた的なあっけない童貞喪失だ。
しかしじわじわとこみ上げてくる「俺はもう大人の仲間入りだ」というなんとも言えない興奮が湧き上がる。
しかもである。
そっからまさかのアマゴ入れ食いなのである。
モテキ到来!
童貞喪失を皮切りに一気にプレイボーイと化した僕は、次々と現れるアマゴ嬢たちが担ぐ御輿に乗ってワッショイワッショイ状態に。
バックミュージックは常にフジファブリック「夜明けのビート」。
浮かれとロマンチックが止まらない!
そんなモテキが来てしまったせいで、ちょっと竿振るだけのつもりががっつりここで時間を食ってしまった。
挙句沢を遡上しすぎて登山道に戻れなくなり、まさかのバリエーション突入。
泣きそうになりながら超痩せ尾根、超急斜面、超藪漕ぎを経て無理やり登山道復帰。
浮かれた先にはマゾがある。
結局一向に先に進まぬまま、僕はすでに満身創痍の状態に陥ったのである。
そして彼はこの時すっかり忘れてしまっていることがある。
彼のモテキは何もアマゴだけに限ったお話ではない。
「あのお方たち」にもしっかりモテていたのである。
この頃彼の靴の中にはすでに彼らが潜伏中なのである。
第3章 ヒルまみれの情事
随分と余計な回り道をしてしまったが、ようやく鉱山跡の広いスペースに到達。
テン場としてはここが風も凌げて沢もあって焚き火もできるから最高なんだが、あくまでも耐風テストなのでイブネを目指すのだ。
ってことでここでお昼休憩です。
こうしてカップラーメンのリフィル作ってる時間ってのが僕はたまらなく好きなのだ。
自然の中で優雅にラーメンができる3分間を待つ幸せよ。
この静かな時間は誰にも邪魔されたくない。
おや?
なんだろう?木の枝でも入り込んだのかな?
い い い
イヤァァァァァァァッッッッッ!!
静寂を切り裂いて再び流れ出すフジファブリックの夜明けのビート!
モテキ第二章スタート!
僕は「ヌオォォォォォッッッッッ!」と叫びながら、すかさずソルト&ペッパーマンを出動させる。
たちまち「ぎゃああっ!」と言う断末魔とともにヒル死滅。
さあ、これで安心してラーメンが….
お お オオオオォォォォォッッッッッ!
インソールを外してみたら、見事にもう1匹がご入店中!
鳴り止まない祭囃子!
ふと反対側の足を見てみると、今まさにご入店を図ろうとする奴も発見!
ボリュームを上げるフジファブリック!
女たちの「ワッショイ!ワッショイ!」が止まらない!
必死で格闘してこの2匹も抹殺。
しかしである。
さらにその靴を脱いでみると、
キャアァァァァァッッッッッッッッッッッッ!!!
たちまちパニック。
モテキを通り越してもはやストーカーレベルの恐怖。
もう塩を振る冷静さも欠いていた僕は強烈なデコピンをお見舞いして、この執拗な女を吹き飛ばした。
で、そんな激しい戦いに没頭しすぎたあまり、我が珠玉のラーメンは伸び伸びに。
こいつは飛んだ昼下がりの情事だった。
モテる男は辛い。
ふやけたラーメンを食いながら、僕は生まれて初めてそうしみじみと思ったのである。
第4章 イブネ・クラシ到達!
昼下がりショックが抜けきらない。
あれ以降、目には見えてなくても「あいつらすでに靴の中にいるんじゃないのか?」という疑念が常に付きまとい、何度も止まっては靴を脱ぐからまたしても進まない。
しかも「帽子の上にもいるんじゃないのか?」「首元から背中に侵入してやいないか?」などの疑心暗鬼のループに入り込み、黒くて細いものが全てヒルに見えると言う「ヒルーズ・ハイ」の状態に突入。
全くトレッキングを楽しむことなく、「とにかく上へ上へ!奴らのいない平和地帯へ!」と高度を急速に上げていく。
ケツをプリプリさせながら必死のハイクアップで杉峠を突破。
ここまで来ればもう大丈夫だ。
名峰御在所岳を横目で見つつ、気持ちのいい緩やかなトレイルを進んでいく。
やがて佐目峠に到達し、目印である名物の「おしり岩」に到達。
まさに尻の割れ目のようにセクシーに誘う岩。
仕事熱心な僕は、もちろんここでもしっかりと「比較テスト」を怠らない。
アイテム名 | おしり岩 | おしりGTX |
素材 | GORE-TEX | NeoShell |
硬度 | 硬い | もち肌 |
湿度 | 乾いてる | 湿ってる |
切れ痔 | × | ◎ |
さあ、しっかりとギアの比較テストも済んだので、さらに先に進んでいく。
するとそこには今にもライオンキングの舞台でも始まるかのような、アフリカの草原チックな広大な世界が展開。
こいつは実に素晴らしい世界だ!
しかもあたり一面を美しき苔が覆っていて、まさに天上の楽園。
これが憧れ続けた「イブネ」の世界。
そしてなんだか色々あったけど、ようやくイブネの標識に到達だ。
ほんとアフリカにいるみたいで、写真から漂う世界ウルルン滞在記感が素晴らしい。
この周辺がテン場予定地だが、どうせならセットで「クラシ」の方にも足を延ばしてみる。
すると早速広がるこの広大なる大地と苔の海。
もはや広大な日本庭園を独占しているような、なんとも贅沢なこの空間。
ただクラシの頂上だけは、眺望ゼロのガッカリ度No.1の山頂だったけど。
ただしイブネ・クラシ間は、ヒルにも負けずはるばる奥地まで来る甲斐のあった素晴らしい絶景である。
僕は大満足でイブネに戻って行った。
随分色々回り道をしてきたが、やっと本来の目的であるシェルター耐風テストである。
第5章 強風のイブネ暮らし
やっとお仕事の時間だ。
今回テストで持ってきたのは、フリーライトさんの2017年新作「M guide himaraya」である。
今回のテスト含め詳しいレビューはもうちょっと使用してから改めて書くけど、とにかく耐風性能の高い仕様ってんでまさにこのイブネは最高の耐風テストポイント。
日中はまだ風が穏やかだったが、夜には風速10〜15mほどの美味しい風が吹く予定である。
ちなみにこんな素敵な場所に張っております。
障害物ゼロのこの場所で風は右から左に向けて吹きまくるんで、もし幕が飛んで行ったら崖下に飛んで行って回収は不可能。
まさにデッドオアアライブな男の現場テストである。
で、夜になるまでは「ぺらぺらのゼロシューズで本当にトレイルを走れるのか」というテストのため、方々を走り回ったりして、(※これもいずれレビューします。)
あとはのんびりとその時を待つ。
思えばこの時が一番優雅で幸せだった。
のんきに本読んでるこの男は、この日の夜眠れぬ一夜が待っているとは1mmも思っていない。
やがて世界は今にも「シーンパーイないさー」と叫びたくなるようなライオンキング的夕景に染まり、
長かった1日が終わる。
いや、
長い1日が始まるのである。
こっからが恐怖との戦いだった。
いくら「鈴鹿の風の通り道」と言えど、まさに「風が通り過ぎ」な状況が展開してしまったのである。
もはやTMレボリューションのPV現場でシェルターを張っているような気分。
もういつ次の瞬間にシェルターだけぶっ飛んで行って、外に放り出されないかと不安で不安でたまらない。
耳栓をしても爆音も不安も消える事はなく、まるで眠りに着く事ができない。
もはや耐風テストの枠を超えて台風テストになってしまっている。
こんなに吹かなくても良かったのに…。
とりあえず「有事」に備え、いつでも動けるように全ての荷物をパッキングして寝る。
最悪シェルターがぶっ飛んで行っても、自分の身だけは千の風にするまいとの必死の作戦。
こうして僕は1秒先の不安に恐れおののきながら、ほぼ一睡もできないという長い長い夜に溶けて行った。
なんて過酷なお仕事なのだろうか。
最終章 脱出
乗り切った。
そのシェルターは見事にあの嵐の中を一晩乗り切ったのである。
と言いつつも、この時点でもTMレボリューションはさらなる強風と強烈なWHITE BREATH(濃霧)で世界を白で支配していた。
シェルターはその謳い文句通りしっかり踏ん張って倒壊しなかったが、もはや我が精神の方が倒壊してしまった。
本来はのんびりと朝8時頃に出立する予定だったが、状況は悪化の一途だし寝れないしで早朝4時半には撤収作業。
久しぶりのソロだったが、「俺の腕はまだまだ落ちてないんだな」という悪天候男っぷりに思わず酔いしれてしまう。
そしてそこからは季節外れの「ホワイトアウト」を存分に楽しみながら脱出。
道が不明瞭な広大な台地をさまよう恐ろしさよ。
そして今にもラストサムライたちが大挙して騎馬で突入してきそうな雰囲気の森を抜け、
杉峠を越え、
一切の寄り道をする事なく、
一心不乱に大脱出。
もちろん途中でヒルと戯れることも忘れず、靴を這って来る奴らをデコピンではねのけながらの行軍。
そしてボロボロになりつつゴール。
昨日あれだけ動き回り、その上不眠のまま一気に駆け下りてきたこのヘロヘロ感。
結局シェルターの耐風テストというより、結果的に中年の心身限界テストとなってしまった。
とりあえず最終調査結果としては「そろそろ年齢的にキツイっす」ってことね。
しかしもちろんまだまだ歩みは止めない。
だって私は真性のマゾなのだから。
ってことでよく分からないイブネ・クラシの耐風テストの模様をお送りしました。
余談ですがここからすぐの「釈迦の隠れ湯」っていう温泉行ったらお馴染みの定休日でお湯は隠れたままでした。
結局帰路と反対方向の随分遠くの温泉までさらなる移動は続いたのであります。
それではみなさん。
風の強い時のイブネでテント張るのはやめましょう。
そして梅雨時期の鈴鹿はやっぱりヒルまみれなんで、血の気の多い人以外は慎重にね。
テストしたアイテムたちはまた追ってレビュー書きます!
それではまたお会いしましょう。
ユーコンカワイでした。
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