川の水はまだ冷たいものの、花が咲き、陽気も良くなってきた今日この頃。ちょっとマイナーで情報が少ないけれど、自然の懐に入り込んで遊ぶのに最適なパックラフト、ココペリ ホーネットライトについてレビューしたいと思います。(文・テズリンY)
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自己紹介
こんにちは。
以前、極寒の神崎川でパックラフトデビューしたyama-san@名古屋あらため、テズリンYと申します。名前の由来は、過去に下った事があるテズリン川(ユーコン川の支流)での感動的な旅の思い出からつけました。
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ドライスーツなしで撃沈し、低体温症との戦いから運よく生還。
パックラフトとの出会い
2017年の春に知人から「おもしろいアウトドアのギアサイト」があると教えてもらったのですが、その中にあったユーコン氏のパックラフト入門の記事にすっかり魅了され、すぐにでも欲しくなってしまいました。
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うわー!、本当に楽しそうだ!、こんな川旅やりてー!!
さらに、ユーコン氏の川旅漂泊の記事を見て、ついに自分の心を抑えられなくなってしまいました。
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どんな乗り物
ところで、「パックラフトってどんなフネ? 」「他のカヌーと何が違うの?」という疑問を持たれた方もいると思うので、簡単にご紹介すると。
もともとは北米などの荒野を旅する際に、大きな川や湖を渡ったり移動ルートとして使うための乗り物として開発された小型のゴムボートだそうです。
ラフトというぐらいですから、空気を入れて膨らませるという事と、荷物を背負って移動する旅に適応するため、既存のダッキーなどに比べて超軽量に作られているという所が大きな特徴となっています。
パックラフトはどんなフィールドに向いているの?
もちろん荒野の大河で使えば良いのでしょうが(笑)、この日本で使うとなるとフネの特徴から見て、一般的な川下りはもちろんのこと。
クリーキング
BBGでもこれまで紹介されている通り、そのたぐい稀なる旋回性能と浅い喫水を生かして、通常のカヤックやダッキーでは攻略不可能な水の少ない源流部を攻める事ができます。
また、軽さを生かして、これまでは敬遠されていた堰堤やポーテージだらけの清流で初降下をキメることも容易かもしれません。
交通機関を使った川旅
ファルトボートに比べて圧倒的に軽量・コンパクトなことから電車やバスを使った旅も容易にできそうです。
ホーネットライトってどんなフネ
では、みなさまお待ちかねのフネの紹介に移ります。
外観
箱からホーネットライトとシートを取り出した状態。他には取扱書とポンプバッグ、リペアキット、ストラップなどが入っています。ちなみに箱のサイズは70×36×19cmで、お持ち帰りも楽々。
取扱書は、同じくモンベル取り扱いのキャストアウェイも一緒に掲載されているものでした。
モンベル 取扱書のページ
https://webshop.montbell.jp/goods/instruction/1843032.pdf
箱の商品シールを確認すると「超軽量インフレータブルボート バックパックに収納して運べるコンパクト性」、本体重量:2.22kg、サイズは全長:216cm×最大幅:94cm、定員:1人、最大積載量:113.4kg、MADE IN CHINAとのこと。
フィールドに持ち出して広げてみます。本体、シート、ストラップ。
左船首にココペリのロゴが入っています。
サクッと空気を入れて、前から見たところです。本体の寸法はメジャー実測でも216×94cmで、きちんと仕様通りでした。
ちなみに船体中央部の高さ(チューブの太さ)は29cm、バウ(船首)部分の高さは39cmで10cmほど立ち上がっています。
フネ前方の左右2箇所に、荷物を固定するためのロープ通し(ナイロン製Dリング)が付いています。
船体の後方はアルパカほどではないが長くなっていて十分なボリュームがあり、後ろにもたれ込んでもNRSのように水が入りそうになることは無さそうです。空気バルブは左後方の一か所だけです。ええ、一気室だけですが何か?。
人の乗り込む部分の寸法は長さ:133cm×幅:38cm(後方)、21cm(前方)。
数値だけ見ると狭く思えますが、乗り込むとスッポリとつつまれた安心感があり172cm、67kgの私が乗った場合、特に狭さは感じませんでした。足元フロアーはペラペラの1枚の布でエア・フロアにはなっていません。
神崎川では衝撃と傷つき防止のため安い銀マットを切ったものを足元に敷いてみましたが、余裕のある人は半身タイプのエアマットを敷いてもいいかもしれません。
私も実はプロモンテの105cmエアマットを買ったばかりだったのですが、いきなり川の水につけて土足で踏みつける度胸がなかったので600円の銀マットを別に買ってしまいました笑
船内右側には「カヌー使用上の注意」がたくさん印刷されていますが、取扱書にも日本語で記載されているのでしっかり読んでおきましょう。
シートは空気を入れた座面のみで背もたれ部分は男らしく?省略されています。
まあ直接チューブにもたれても問題ないですし、2Lのペットボトルとか、手回り品を入れた小型の防水バッグでも置いておけば特に不便は無いと思います。
シートを裏返したところ。口で空気を吹き込むタイプの小型のバルブが付いています。
プラスチックのジョイントでシートをフネに固定します。ストラップの長さは調節可能なので大きな荷物を後ろに乗せる場合はシートを前に出すことも可能です。
エアバルブはボタンを押すクイックバルブではなく、バルブ本体をフネから緩めて外すタイプ。
大型のラフトボートでもメーカーによって両方のタイプのバルブがありますが、空気を素早く抜いたり故障した際の清掃(かみ込んだ異物の除去)や交換が楽なこのタイプの方が信頼性が高く、荒野の旅でも安心です。
それでは再び空気を抜いた状態にして、二つ折りからクルクルと巻いて付属のストラップで固定すると、50×直径20cmになりました。
軽く巻いただけでここまで小さくなりましたから、注意深く行えばもっと小さくできるかもしれません(ペタンコにすれば半分の厚みにはなりそう)。
この大きさなら車の中や押し入れの隅に隠しておいても奥様に見つかりにくいサイズですね。
ただ、この状態で長期間の収納は行わない方が良いと思います。羽毛シュラフと同様に?しっかり乾かしてからゆるく巻いて、チューブの接続箇所などにストレスが掛からないようにして涼しい場所で保管した方が良いと思います。
良い点・重量
外箱には本体重量:2.22kgと書いてありましたが手元の電子秤で計量すると。
- 本体:2036.5g
- シート:147.7g
- ポンプバッグ:125.8g
- リペアキット:50.6g
- ストラップ(2本):64.3g
となりました。最低限の①フネ本体と②シートで2184.2gで外箱の表記以下となっています。
③のポンプバッグを加えると2310g。④リペアキット、⑤ストラップを加えても2424.9gと超軽量に収まりました。軽さは正義、片手で軽々と持てる重量は本当に最高ですね。もう少し細かく付属品を見ていきましょう。
良くある手押しポンプを荒野へ担いでいくわけにはいかないので、コンパクトかつ軽量なポンプバッグが標準装備になっています。写真中央のネジ穴を、エアを入れるフネのバルブに取り付けして使います。
こんなので最後まで空気が入るのか?と心配かもしれませんが取扱書でも一般のポンプは使用禁止で、空気圧は1.5~1.7psi(約0.1気圧)以下となっていますし、最後は直接口で息を吹き込めば十分に硬く膨らみます。
ちなみに、これからの季節。川から上がってフネを炎天下に放置しておくと熱で空気圧が上昇し、フネがパンクや変形する危険性があります。
そういう時は面倒くさがらずに水を掛けたり「少しだけ」でも空気を抜いておくことをオススメします。
船体布の厚さ、ダッキーとの比較
軽さと強度は引き換えになるのは分かっていましたが、これじゃパンクしてヤバいんじゃないか?と思いますよね。実は購入直後に見たときは、私も非常に不安になりました。
リペアキットの船体布を出してみると、奥の黒い船底用の方が手前の紺色のチューブ用に比べれば厚みがあり引き裂き防止用の布補強も入っていることが分かりました、、、やれやれひと安心。それにしてもチューブ用の布は本当に薄くて、厚手のアウターシェル用の生地?というぐらいのしなやかさです。
別に持っているダッキー用の赤色の船体布との比較すると、ホーネットライトの船底用は1/3ぐらいの薄さです。
補強が入っているとはいえ装甲の薄さは歴然。浅瀬への無理な突撃や尖った岩にぶつけたりすることは、極力避けたほうが良さそうです。
実際の現場である、丸い石ころが多い神崎川の水深5cmのザラ瀬では、かなり底を擦っても幸い何の問題もありませんでしたが、いつもそうとは限らないので「足をチューブの上にあげて腰も持ち上げる」など、少しでもダメージを軽くする工夫をしたり、フネも軽いので「さっさと担いでポーテージする」などの自衛策は必要です。
やはり、「すべての防御を犠牲にして軽さを追求」。その分は乗り手の腕でカバーするという「攻めの発想」の乗り物だと考え、気を使って扱う必要がありそうです。
しかし、万が一やっちまった場合のためにリペアキットがちゃんと付属しているのでご安心を。
接着剤は、なんとココペリ社製品の補修専用!接着剤です。用法・用量は取扱説明書に詳しく書いてあります。
たったの50.6gなので遠出の旅には念のために携行しましょう。旅の初日にやっちまったら目も当てられませんからねえ。
要望・あと2箇所にロープ通しが欲しい
フネの後部にもう2箇所、追加でロープ通し(ナイロン製Dリング)が欲しいところです。
なぜかというとフネの周囲につかまるためのロープを回しておきたいからです。これが無いと不意の撃沈時にフネを捕まえられず流してしまい回収が大変になったり、激流でつかまるものが無く溺れそうになる危険があるからです。
「ライジャケ着てればいいじゃん」と思ったあなた。私も経験がありますがホワイトウォーターでは浮力が減少するし波もあるのでそんなに甘くはないですよ。もちろん、ポーテージする際も持つ所があったほうが移動が楽なのは間違いないですし。
参考記事:白雪姫殺人事件〜限界パックチェイスの悲劇〜
ユーコン氏も増水した川で大変な思いをされたようです笑
他のパックラフトとの比較は?
ところで、どういう理由でホーネットライトに決めたの?、という質問が飛んできそうですが。購入前の検討時よりも購入後に分かった事の方が多く、私の個人ブログに「神崎川、寒中パックラフト大会」のことを書いた内容を一部加筆・修正して紹介します。(私が経験した範囲での感想であることをご了承ください)
アルパカ
ひとしきり楽しんだところで小休止、カヤッカー恒例のフネを取り換えての大試乗会。
まずはマーボーTさんの赤い彗星・アルパカをお借りする。これはなかなかいい感じ、パックラフト特有の平らなフネがクルクル回るというイメージではなく、ちゃんと直進性もあり、リーンをかけてもググッと踏ん張る。
スターン部分(フネの後部)の浮力が大きく前後に体重移動してもスターンが過剰に沈み込むことが無い。激瀬ではスターンを波に食われて沈することもあるのでここはよく考えられたデザインであり、アルパカらしさをアピールするポイントでもある。
スターン後端部が水に沈み込んでキールが効いているというか、普通のカヤックに近い操作性で、カヤックやダッキーの経験がある人間ならもっとも違和感なく、楽しく乗れるフネだろう。サイブレイスもありフネとの一体感も高く、腕さえあればロールやスポットプレイも楽しめそうだ。
ただ、スプレースカートが使えるようにコーミングもついており、お値段は聞かなかったがホーネットライトが2艇は買えてしまいそうな金額だろう。川原に置いていても高級艇のオーラがあふれている。
NRS
お次はユーコンカワイ氏の緑のNRSに乗り込んでみる。ゴムボートみたいとか、前が浮き上がるとか、ザクみたいな色だとユーコン氏からは酷評されているが、その性能とやらを見てみよう。確かにフネに乗った瞬間に荷重が後部に集中して前が浮き上がってしまうが、水に沈んでいる部分が後部だけなので、実際のフネの長さが1mもないのと同じ状態になる。そのため1回の軽いスイープで180度以上フネの向きを変えることができ、面白がってクルクルとスイープしていたら目が回りそうになった。それぐらい旋回性能が高いのだ。
前方フロアは広く、シュッとしていないが、そのぶん大きなザックを置いても足元が狭くならないだろう。このフネ本来の使用目的としては、広い前方フロアに60Lぐらいの重いザックをドンと置いて前後のトリムを合わせ(自転車を載せた川下りとかも可能かも)、太めのチューブによる大きめの浮力で雄大な流れを下ってゆくという事だろうか。そしてフネ全体の幅が広いので横方向の安定性が高く、相対的に重心の移動に鈍感で転覆を起こしにくい。
自分がパックラフトでカナダの川を数日掛けて下るのならこのNRS一択だろう。このフネは車で言えばグランドツーリング用なのだ。それでいて、今回のような空荷状態では、その極端な旋回性能を生かし、この狭い神崎川の岩がらみの瀬を素早くすり抜けることができる。また、太いチューブのおかげで足をチューブに乗っけて腰を浮かせるとフネ全体の喫水が均一になり、極端に浅いザラ瀬でも難なくすり抜けることができる。船体布も繊維で補強されていて擦り傷にも強そうだ。
乗り手がこのフネの奥深い特性(設計者の意図)を理解して操作できれば、その一見もっさりとした見た目(失礼!)とは裏腹に、2つの両極端な状況に高レベルで対応できる欲張りな性能を秘めた万能艇なのである。そして耐久性の方も、ユーコンカワイ氏が幾多のバトルでガンガン尻を打っても全く破損しなかったことでも証明されている通り、全く問題が無いうえ、実売価格もパックラフトの中でも安い部類だ。日帰りクリーキングからロングツーリングまでこなすおすすめのフネであり、機会があれば、数日お借りしてじっくり漕いでみたいものだ。
ニルヴァーナ
3艇目はアンドライOさんの、ココペリのニルヴァーナ。この黄色いフネは私のホーネットライトと同じメーカーで、同じ船型のため漕いだ感じもほぼ近く、NRSほどの回転性は無く、アルパカほどキールが効いている感じもない。また、基本的には幅広の平底なので平面的な動きだけでリーンを掛けても特に反応はしない。ただ、足先に向かってシュッと細くなった船型は両足の幅にフィットし、フネの中に小型のザックを置いておけば足を踏ん張るのにちょうど良い長さでフネとのフィット感がけっこう高い。適度な旋回性と安定性は、アルパカとNRSのちょうど中間ぐらいの特性で、過激なところが無く気を使わず安心して乗れる。
ホーネットライトとの最大の違いはこの船に装備されたセルフベイラー(自動排水装置)にある。といっても特別なメカがあるわけではない。船底にわざと穴があけてあり自由に水が出入りできるようになっているが、フロアにエアチューブがあり通常はその下までしか水が来ないので乗員が濡れることは無いという仕組み。大きな瀬でドバっと水が入ってきたらフネは浮力で浮き上がろうとするので、船内に入った水はフロアチューブの横から船底に抜けて穴から排水されるのだ。普通の激流用ダッキー(エアー・リンクス、トムキャット等)やラフトボートと同じ仕組みで、フネに水が入ることを恐れず瀬に突っ込んで行くことができる。ツーリングも激流もという人にはお勧めの一艇だ。
ホーネットライト
最後は、自分とコールドフットYさんが乗るココペリ・ホーネットライト。操作性などについてはニルヴァーナとほぼ同じで追記することは少ないが、このフネの一番の特徴は余分なものを全てそぎ落としたミニマムな設計思想だろう。セルフベイラーもフロアチューブもなく船底はペラペラの船体布一枚だけ。お尻の下にエアピローのようなクッションを置くが防御はたったそれだけだ。
空気を入れるのも1気室構造で、他の艇についている口で空気を吹き込むためのバルブもついていない。空気を入れたフネを水に浮かべたときに内部の空気が冷えて、フネがフニャフニャになったときに空気の補充がやりにくいか?と思ったが、大きなバルブに直接息を吹き込めば全く問題なくフネをパンパンに膨らませることが可能だった。
同じくモンベル社取り扱いのキャストアウェイの情報も載せておきます
瀬の中に突入するとどうなるか
では実際に神崎川での、ホーネットライトの戦闘力を連続写真で見てみよう。
不便さと防御が少ない分は、乗り手の腕と知恵でカバーするという「大人の道具」として割り切れば、これほど頼もしい旅の相棒はいないだろう。
安くて軽いだけではなく、操作性のバランスが良く転覆もしにくい。シンプルなのでどれにするか迷ったり、とりあえずの入門→乗り倒して最強の旅の相棒にするには良いフネかも。
マーボーTさん(赤いアルパカ)は無念の沈脱を喫し、水抜き中。アンドライOさん(黄色いニルヴァーナ)も同じ場所で撃沈したがセルフベイラー付きのため水抜き不要の手間いらず。
この瀬でのハプニングの一部始終をとらえた記録動画
インスタグラムで紹介された動画はコチラ
とまあ、こんなことが買ってから分かりました(笑)。別のフィールドでの詳しい使用感や自作オプションの装着については、機会があればまたご紹介いたします。
まとめ
あらためてホーネットライトのセールスポイントは?というと、2.2kgという圧倒的な軽さとコンパクトさ、パックラフトの中では最も安い部類の価格という事になります。
この軽さとコンパクトさはファルトボートや普通のダッキーとは全く異次元の機動性をもたらしてくれる事でしょう。
最後に
ただのカヌー好きで多くの川や海を漕いできましたが、このフネを得たことでこれまでは漕げなかった川にも行くことが出来そうです。私のレビュー記事が購入を検討されている方のお役に少しでも立てば幸いです。
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。