インスタのストーリーに投稿される良型のイワナちゃん達。投稿主は、しゃべーでおなじみ山梨のトップキャンパーSHIM(シム)。私と顔が似てるということでBBGでは公認のブラザーとなっていることでもお馴染み。彼は、今年に入り釣りに取り憑かれ、暇さえあれば地元の川で良型のイワナちゃんを釣りまくっていた。最初こそ「おお、シムちゃんも釣りはじめたんだー。楽しそうだなー」なんて、ブラザーの釣行記録を微笑ましく眺めていたものの、良型のイワナちゃんがインスタのストーリーに連投されるたびに、私は平常心でいられなくなっていた。(文・アツシオガワ)
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プロローグ
気づけばもう9月。
ハードスケジュールで思うように釣りに行けず、フラストレーションが溜まる私の目に飛び込んできたシムの地雷ストーリー。
『尺(30cm)イワナ釣れすぎてしゃっべーーー!!』
『山梨に尺パラダイスが存在した!!しゃっべーー!!』
シャバ僧による、節操のない投稿の数々に私は限界に達していた。
ふんぬー!!!もーガマンならん!!
シムちゃん、山梨行くから尺パラダイス案内して!
もちろんす!CEOの為に山梨の桃源郷へ案内します!しゃべーーー!!!
いつひま?
いつでも大丈夫っす!
じゃあ、9月○○日に行くね!
あ、その日はダメっす。
お、おう…。
そんなこんなで、無理矢理スケジュールを調整し、山梨釣行旅へと出掛けたのであった。
イワナパラダイス
250km先の桃源郷へ向け、夜中に車を走らせた。
道中の眠気は懐メロを大声で歌うに限る。
Spotifyの「My Generation:’90s」に助けられ、無事に山梨へ入国することができた。
AM 06:00
シムちゃんと合流。
うん、さすがBBG公認ブラザー。
本当の兄弟と言っても疑う人は少ないであろう見た目。
ちなみに、シムちゃんとはまるっと一回り違う「未年コンビ」。
だから2人ともメリノウールにはうるさいんだね。
この日は、時折小雨が交じる絶好のコンディション。
森を抜け、いよいよ待ち焦がれた桃源郷へ入渓する。
さあ、見せてもらおうか尺パラダイスの実力とやらを!
AM 06:10
早くもシムちゃんの竿がうなりをあげた!!!
『しゃっべーーーー!!!!』
ゴウゴウと鳴り響く川の音を切り裂き、響き渡るシムの叫び。
おお!!
早くもビッグサイズのお出ましか!?
「さ、竿が折れたっす…。」
「しかもコレ、友達の竿っす…。」
開始10分で意気消沈の鈴木雅之。
シムよ、釣りの命とも言える竿の穂先を折るとは…。
残念だが、今日の君は終わった。
おとなしく私が釣り上げる尺イワナちゃんを指を加えて見ているがいい。
AM 06:25
穂先の修理を諦めたシムちゃん。
なんとかルアーは投げられるようなので、リスタート。
「CEO、ここからが桃源郷の始まりっす」
「前回、あそこの淵(溜まり)から5匹出たっす。」
と、にわかに信じがたいパラダイスエピソードをブチ込んでくる雅之。
友人の竿を折って落ち込んでいるようなので、今日のファーストフィッシュは譲ることにした。
ルアーでもフライでも一投目が一番重要であり、一番釣れる可能性が高い。
緊張のファーストキャスト。
でない・・・。
2投目、3投目、4投目….。
実績あるポイントでノーフィッシュ。
まーまーまー、今年始めたばかりだしな。
まだまだ、キャスティングに荒削りなところがあるから、そこを修正すれば釣れるようになるさ。
ドンマイ!つぎつぎ!
AM 07:00
釣り始めて1時間。
いまだ二人ともノーフィッシュ。
あれ?ここってパラダイスじゃなかったっけ?
80Lザックにも入りきらない「夢と希望」をパンパンに膨らましてやってきた山梨でまさかの洗礼。
AM 07:15
ここでついに、シムちゃんに待望のFish!
サイズこそ小ぶりだが、キレイなイワナちゃんとの出会いに二人は興奮。
よし、ブラザーも一本あげたことだし、ここからは遠慮なく行かせてもらうよ〜!
AM 07:45
再びシムちゃんにHIT!
22-3cmのキレイなイワナちゃん。
「今日はアツシさんに釣ってもらおうと思ってるのにすいやせん、また僕が釣っちゃいました」
いいんだ、いいんだ。
二人で楽しめたらそれでいいんだ。
でも、1つだけいいか?
謝るな、それと”また“って言うな。
AM 07:50
シムちゃんにまたまたHITS!!
「またまた、さーせん」
いいかシム。
惨めになるから決して謝るな。
それと、俺が先に攻めて釣れなかったポイントで釣るな。
釣り歴25年の俺のプライドはズッタズタだぞ。
AM 08:15
ついに俺にもHIT!
しかもデケー!
余裕で尺あるぞコレは!!
しゃべーーーー!!!
25年の釣り人生で最高の大物やー!!
173cm、72kgの超大物、『俺』。
シム「なんか、さーせん…」
謝んじゃねーっ!!!ハヤクトッテ…。
魂の叫び
パラダイスにはほど遠いが、その後もシムちゃんはコンスタントに良型のイワナちゃんを釣り上げる。
おい…
さっきは謝るなと言ったが、やっぱり正式に謝罪をしてくれ。
「わざわざ山梨まで来てもらったのに、自分ばかり釣って申し訳ございません!」と。
AM 08:20
いまだCEOノーフィッシュ…。
山梨の洗礼(アウェー感)がパねえ…。
2人は、川が二股に分かれるポイントに差し掛かっていた。
CEO「シムちゃん、これどっち?」
シム「確か右が本流だったと思います。」
CEO「オッケー。じゃあ、右を釣り上がっていこう。」
僕は、このタイミングでルアーをチェンジし、糸ヨレを直す作業に少し手間取っていた。
時間にして3〜5分くらいだったと思う。
顔をあげると、そこにシムちゃんの姿はなかった。
「あれ?パイセンがまだ釣ってないっていうのに、先に釣り上がって行きやがったな?」
二股を右の沢に入り、シムちゃんに追いつこうと沢を駆け上がるも、一向にシムちゃんの姿が見えない。
おかしい…。
遠くまで見通せる場所まで来たが、シムちゃんの気配が全くない。
あんな短時間でそんな遠くに行くわけがない。
AM 08:40
シムちゃんが忽然(こつぜん)と目の前から姿を消した。
「シムちゃーーーん!!シムちゃーーーん!!」
「おーーーーーーい!!シムちゃーーーーーーん!!」
川の音でかき消され、声が届かない。
こういうとき、どの行動をとるのがベストなのか。
はぐれた地点に戻った方がいいのか。
それとも探し歩いた方がいいのか?
落ち着け。
どう考えてもあの短時間で遠くには行ってないはずだ。
意を決して、分岐地点まで大声を出しながら戻る。
ダメだ、いない。
考えられるのは、左の沢?
でも2人で右の沢に入ることを確認し合ったのに、左の沢へ行くのは考えにくかったが、ダメ元で探し始めた。
「シムちゃーーーん!!シムちゃーーーん!!」
「おーーーーーーい!!シムちゃーーーーーーん!!」
時間にして20分は経過していただろうか?
叫び続けて、声がかれてきた。
これだけ探しても返事がないと言うことは、足を滑らせ、頭を打って気絶でもしてるんじゃないか!?
まずい。
頼むから無事でいてくれ!
「シムちゃーーーん!!シムちゃーーーん!!」
「おーーーーーーい!!シムちゃーーーーーーん!!」
「ア・・さ・」
ん?一瞬何か聞こえた気がする。
どこだ?どこだ?シムちゃんなのか?
「シムちゃーーーん!!シムちゃーーーん!!」
「おーーーーーーい!!シムちゃーーーーーーん!!」
もうしばらく声なんて出なくなったっていい。
ただ、がむしゃらに叫び続けた。
その時であった。
キョトン顔で目の前に突然シムちゃんが現れた。
シム「上まで行ったんすけど、全然釣れなかったす笑」
シム「堰堤があったんで引き返してきたっす」
CEO「・・・・。」
じゃ、ねーーんだよ!!このシャバ僧がぁぁ!!!!
俺がどれだけ心配したか分かってんのか!!
って言いたかったところをグッと抑え、冷静に話しかけた。
急にいなくなったからビックリしたよ。右の沢を釣り上がるって言ったよね?
いやー。途中で合流するかなって思って左に入っちゃいました。なんかモロでけー声で叫んでるのが聞こえたんで、なんだ?と思って戻ってきたっす。
じゃ、ねーーんだよ!!このシャバ僧がぁぁ!!!!
モロでけー声ってテメェ…俺はマジで心配したんだぞ…。
俺はこの言葉が嫌いだけど、今回だけは使わせてもらう。
「この、ゆとり世代がぁっ!!!」
トラウマ
とにかく、無事で良かった。
ホッとしたら腹が減ったので、いったんブレイク。
ここで僕はシムの言葉に耳を疑った。
「ここ、尺パラダイスの沢じゃねーすわ。一本間違えました。さーせん笑」
おにぎりを片手にスマホのGPSマップを見ながらの衝撃発言。
う、ウソだろ…。
どうりで一匹も釣れないわけだ。
「どうします?尺パラに移動します?」
「あったりめーだ!俺は尺パラの沢で釣りがしたくて山梨まで来たんだ!!」
「しゃべーー!!」
「しゃべーはこっちのセリフだ!」
急がないともう昼だ。
時間がない。
とんでもないスピードで沢を移動する2人。
「いってーー!!!しゃっべーー!!」
シムちゃんが移動中に川へ転落したが、私はその姿を能面のような顔でただただシャッターを切るだけだった。
彼に対する心配スイッチは完全に崩壊されていた。
PM 13:30
尺パラ沢に到着したものの、結果は2人ともまさかのノーフィッシュ。
この沢には見切りを付け、実績のある沢へ移動しようとシムが提案してきた。
もう夕方のワンチャンにかけるしかない。
2人は移動を決意。
「サイズは落ちるっすけど、ぜってー釣れるっす!」という。
30分ほど車を走らせ到着したのは、透明度抜群の超キレイな沢。
さすがは『南アルプスの天然水』。
スッケスケである。
「ノーフィッシュじゃ帰らせられないんで、なんとしても釣ってください」
そんなこと言われんでも釣ったるわ!!
しかし、現実というモノは残酷である。
魚がいる気配が全くしない。
たまに追いかけてくるのは、ルアーとほぼ同サイズのベイビーばかり。
シムちゃんも「こ、こんなはずじゃないんす…」と、さーせんスマイルを振りまいてくる。
ノーフィッシュが頭をよぎりだしたその時、事件は起きた。
なんでもない岩を登るときに足を滑らし、右肘を岩にハードHIT!
右肘から指先に稲妻が走り抜けた!!
「いっっっっっっっっっっっっ」
あまりの痛さに声が出ない。
やばい、この痛みはシャレにならん。
痛すぎて、気持ち悪くなってきた。
思い出すこの痛み…。
あれは遡ること27年前。
当時小学6年生だった私は、父親と渓流釣りをしていた。
確か鈴鹿の山奥だったと思う。
大人の背丈よりも大きな岩をよじ登ろうとした時に事件は起きた。
足を滑らした小学生のCEOは、2mほどの高さから落下。
運悪く、なだらかなおにぎり型の岩に尾てい骨をダイレクト&ハードHIT!
脊髄に稲妻が走った。
先に岩をよじ登っていた父親が岩の上から「なにしとんや?大丈夫か?」と笑いながら声をかけてくる。
今までに味わったことのない痛みだったが、ケツを打ったという情けなさと想像を絶する痛みから、私は笑っていた。
「いてて、大丈夫、だいじょ…」
「おい!アツシ!大丈夫か!おい!アツシ!!」
な、なんだぁ?親父のモロでけー声がするぞ?
気がつくと、私はモロでけー声をあげる父親の腕の中で、おもくそ頬をビンタされていた。
そう、私はあまりの痛さに笑いながら気絶したのである。
竹中直人もビックリの「笑いながら気絶する人」。
一部始終を見ていた父親の証言によると、私は体操座りのような姿勢で笑いながら痛みをこらえていたらしい。
そして、笑いながら気絶し、そのまま真横にバタン。
すぐ脇を流れる川に顔が半分つかり溺死するところだったというまさか。
いまでも鮮明に覚えている、ケツから脳天へ走り抜けた稲妻と、ビンタされた左頬の痛み。
そう、この痛みはあのときと同じ。
そして、あまりの痛さに今日も笑っている。
やばい、このシャバ僧の前で肘をぶつけただけで気絶したなんてことになったら、一生いじられる。
それどころか、「しゃっべーーー笑 CEOバリクソ気絶してるーーー!くぅーーー!」って大騒ぎしながら、インスタのストーリーに動画を上げるに違いない。
こいつならやりかねん!
それだけは、なにがなんでも回避しなくては!!
CEOとしての威厳が一瞬にして失われてしまう。
あまりの痛さに5分ほどシムちゃんの問いかけに一切反応できなかったが、峠は越えた。
乗り越えた。
27年越しに稲妻級の痛みに打ち勝った。
終焉
私は静かに竿を置いた。
肘の痛みと闘いながらも、夕方のワンチャンに掛け、必死にキャスティンを続けたが、最後まで私の竿に反応はなかった。
今シーズンを最高の形で締めくくるつもりが、山梨まで来て完全無欠のノーフィッシュ。
シム「なんかさーせん…。」
いや、シムちゃんは悪くない。
俺が欲を出したのが悪いんだ。
シムちゃんが足を使って探し出したパラダイス。
アテンドしてもらって、ラクしていい思いをしようとした自分が悪いんだ。
エルボーくらって目が覚めたぜ。
シムちゃん、ありがとよ。
その後は、前からずっと行きたかった「SUNDAY」さんで散財。
シメは、2人がオススメする甲州名物『小作』さんの、絶品「ほうとう」で今回の旅を締めくくった。
今シーズンを締めくくるには少々寂しい幕引きとなってしまったが、ま、そんな時もあるさ。
いや、結局いつものBBGか笑
「アツシさん、もう少し上達したら、また山梨来てください!」
って、てめー!ひと回り上のパイセンに向かって言うじゃねーか!笑
SHIMはやらかした時も、慰めるんじゃなく、笑ってイジってくれるいいヤツです。
来年はマジで釣り合宿しような!
以上、ノーフィッシャーアツシオガワとノーアテンダーSHIMでした!
押忍!