「せっかく白馬へ行くんだから、帰る前に山に登りたい」というアツシオガワのひと言から始まった、OMMよりハードなロング縦走。レースの筋肉痛を引きずりながら目指す頂は、北アルプスの最北端”朝日岳”。高山植物の宝庫で大自然が織りなす絶景とハムストリングの痛みが交錯する前編を「BBG絡みで登る山はなぜか毎回男塾」鬼ころしSがお送りします。
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プロローグ ぼくらの5日間戦争
事の発端は7月某日、初参戦のBBGチームにしてはまずまずな結果で終えることができたOMM LITEだった。
それはレース2週間前に遡る。
「鬼ころしお前まだニートだろ?せっかくOMM LITEで白馬へ行くんだから、暇ならそのまま山行くぞ」というCEOの指令により、メインイベントのレースを上回る登山計画”朝日岳・雪倉岳縦走”が半ば強引に決定した。
朝日〜雪倉といえば、1日8時間以上の行動も含む3日間の工程となるロングコース。
しかし我々はOMM2日間での完全燃焼により、まさかの「全く足が残っていない状態」というバッドなコンディションでこの縦走をスタートする事になってしまった。
私に至っては「筋肉痛」「虫さされ」「藪こぎ傷」のトリプルパンチ、おまけに2人とも睡眠不足というマゾ祭り。
とにかくレースから間髪入れずに山に登ろうだなんて、若いうちならまだしも三十路女とアラフォー男には酷なことだとは・・・
この時の2人はまだ、知る由もなかった。
第1章 未踏の絶景へ
朝日岳へ行くには蓮華温泉、栂海新道、北又、白馬岳からとさまざまなコースがありますが、今回我々は北アルプスの新潟県側の玄関口である蓮華温泉から山頂を目指します。
三連休の最終日とはいえ、ここ数日好天予報が続いたこともあり駐車場はほぼ満車状態。
朝5時、身支度を整えて出発。後ろに見えるのは駐車場のトイレですが、ここのトイレは世にも珍しいほど綺麗!
年頃のレディーにとっては真っ暗闇のヤバいトイレで行うお花摘みほど恐ろしい儀式はないので、「トイレが綺麗」というのは小さいけれど車中泊には大事なポイント。
初日は朝日岳を登頂し朝日小屋でテントを張り、2日目に雪倉岳を経由し白馬岳へ。最終日には白馬大池を経て蓮華温泉へと戻って来る周回ルートです。
駐車場からほどなくして ”秘境の名湯” ”絶景の野天風呂”と知られる蓮華温泉ロッジに到着。こちらで前泊されている方などで早朝から賑わっていました。
ロッジの脇から整備された自然歩道を歩いて行きます。まずは1時間ほど掛けて、標高差300mを下って行く。
えっ、早速くだり?となりますが、30分も歩けばこのお花畑!
朝の光を受けて輝く高山植物の数々。
朝露がキラキラと反射してとっても綺麗。
花より団子、花見でも花よりビールの私ですが思わず長いことこの花畑に滞在してしまった。
筋肉痛がヤバすぎるので、開始30分ですが私はもう8割がた満足です。もう帰りたい・・・笑
なんだかんだで沢沿いまで下りてきたら、もう後には引き返せない。なぜなら進んでも戻っても登り返しが待っているのだ、いよいよ腹をくくります。
避暑地の白馬ですらも35度を記録する酷暑となったこの数日、うだるような暑さが足の重たい我々の体力をさらに奪う。もう汗で目も開けてられません笑
しかしあまり馴染みのない山域な上に2人とも初めてのルートという事もあり、出会う景色はどれも新鮮。
苔むす森の風景はまるでジブリの世界観。
「大丈夫。ほら、こわくない。」とクワガタとコミュニケーションを図るナウシカオガワ。
私が感動したのはこの景色・・・でなくこの木道。
えっ、そこ?って思いますよね笑
私、ここの木道のある事に気づきました。
整備された木道ってちょっと高すぎる段差や広すぎる歩幅が多い中で、ここ朝日岳の木道はまるで人間工学に基づいたかのようなメチャクチャ気持ちいい高さと歩幅で出来ている。
一見普通の木道だけれど、登山道の整備に関わった方々の努力が伺えるとっても歩きやすい木道。ロケーションも相まって、その気持ち良さと言ったら私のこれまでの登山人生におけるベストオブ木道。
この気持ちよさ、ぜひ皆様にも一度歩いてみていただきたいものです。
第2章 奇跡の代償は
カンカン照りの気持ちいい木道を、引き続き朝日岳へ向かって登る。
そんな天国への道の脇には、見頃を迎えたニッコウキスゲが可愛くお出迎え。
これには「歩荷鬼六」「南米マフィア」「マウンテンゴリラ」と怖がられがちなコワモテのCEOもルンルンです。
しかし暑さと筋肉痛でペースが全く上がらない私、「景色に夢中で前に進めません〜」といまさら通用しない言い訳を続けては休憩をやたら勧めてみる作戦でしのぎます笑
そこへ救いの雪渓!吹き上げる風は冷たく、とにかく直射日光による暑さが和らぐだけでも復活。
朝日岳まではいくつかの雪渓を越えていく。10本爪を持ってきていたけれど傾斜は緩いので、我々はツボ足でした。
広い雪渓はこのベンガラの目印に沿って登ります。
初めて見たときは「火サス!?」と慌てた事もありました・・・
そして季節限定?の雪解け水がすごい勢いで足元を流れて行く。
水場の水もキンキンで気持ちいい!特にここ栂海新道分岐手前の水場は味も最高で、お腹の弱い私がガブガブ飲んでも大丈夫でした。
周りにはお花の名前に詳しい紳士淑女の皆さまがいらっしゃるので、知識ゼロの我々にも親切に教えてくださりました。
ワスレナグサにそっくりというミヤマムラサキ。
日本のエーデルワイス、ミネウスユキソウ。
知ってるぞ!イワギキョウ!と思ったら、毛がふさふさしているのはチシマギキョウなんですって。
こうしてお花ばかりに見とれていると・・・
このように帽子を飛ばされてしまうので気をつけましょう。
ムキーッ!買ったばっかの帽子が突風で飛ばされたぁぁ!!!
帽子、携帯、コンパス、ゴープロ・・・私が見る限りこのお方は毎度何かしら大事なものを紛失されてらっしゃいますね。
いつもは未遂だったけれど、今回ばかりは必死の捜索も空しく「お気に入りだったのに・・・」と本当に落ち込んでいる様子。
「ほら、見てください。帽子と引き換えにこの青空が拝めるなら安いですよ。」と精一杯の励ましの言葉(?)を掛けることしか出来ませんでした。
気を取り直して進みます。山頂直下の長い雪渓を昇りつめれば、本日の最高地点。
2,418m、朝日岳に到着!塩まみれなのがお恥ずかしいですが、本当に終始汗だくの初日でした。
景色は半分ほど雲の中。ここからは本日の幕営地、朝日小屋に向かって下っていきます。
コースタイムだと40分ほどの下りがハムストリングの痛みにより恐ろしく長いものに感じるけれど、そんな時は必死にビールのことを思い浮かべると不思議と元気になれます。
好きな人と一緒にいると、元気になったりドキドキしたりするのはアドレナリンによる効果です。
私にとってはそんな存在なんです。
第3章 最北の特等席
必死に恋人のことを考えているうちに朝日小屋に到着。
山は初日だけど足は3日目、体が重すぎて気付けば登山口から9時間半も経っていたなんて・・・
テントの受付を済ませたら、必死に考え続けたあのお方とのご対面。
ここは朝日岳、私は念願の「朝日でアサヒ」を頂くことができて大満足。
しかもラッキーな越冬ビールということで半額の400円!
お好きな方はもちろん、キリン一番搾りもお選びいただけますよ。
ビールといえば美味しいアテが・・・お腹もペコペコの我々。
こちら朝日小屋では、手作りの美味しいお食事が有名。食事だけでも予約が可能とのことだったので、テント泊の我々も小屋のお客さまと夕食をご一緒させていただきました。
メニューは地元の名物を中心に、品数豊富でとっても豪華。なんと食前酒のワインとデザートまで!
管理人の清水ゆかりさんの音頭で、皆さん揃って乾杯!
周りの方々ともグッと距離が近くなるので、お話しやすい雰囲気のなか美味しくて楽しいひと時を過ごせました。
朝日小屋では私のお友達、かなこちゃんが働いています。
初めての出会いは冬の西穂高岳、可愛らしい外見とは裏腹に「友達2人とも来れなくなっちゃって〜」と1人で3人用テントを担ぐギャップには驚かされたもんです。そんなタフなかなこちゃん、ぜひ声をかけてみて下さいね。
管理人の清水さんはお食事の予約のメールにも丁寧に対応してくださり、当日も優しく迎えてくださいました。
「朝日小屋はどのルートから来ても遠い場所ですが、その分魅力は沢山ありますよ。」と
こんな嬉しいお気遣いも女性ならでは。疲れた時の糖分は生き返る〜。お言葉に甘えてひと粒頂きます。
売店には飲食物やTシャツ、手ぬぐいなどのオリジナルグッズがずらり。
こちらは談話室。運動不足の人はまずここには居ないとは思いますが、トレーニング機器も色々揃ってます。
大部屋は天井が高く、大きな窓があって明るく解放的。のんびり過ごせそうです。
最後に、私が朝日小屋に来てお食事と同じくらい印象に残った事を紹介します。
またトイレかよ!って言われそうですが、言わせてください今日だけは・・・!
これまで山の上で座ったトイレの中でもトップクラスに一番綺麗なトイレはここ、朝日小屋だと思います。
特に「ウォシュレット」というお尻への待遇の良さはもう感動に値します。いつでもサラサラヒップがキープ出来るなんて、山じゃあり得ないですよね?
こんなに綺麗にお手入れされて、トイレの神様も大喜びなはず。
さて、食事後は小屋の周辺を少し散策。18時を過ぎてようやく日が傾いて来ました。
山から海が見えるなんてなんだか不思議な気分ですが、それも北アルプスの最北端の山ならでは。
水面に反射して出来るきまぐれオレンジロードがとっても綺麗。
さらに金曜ロードショーを彷彿とさせる海辺の夕焼け。
指定席はございませんので、皆さんが思い思いの特等席でこのロードショーを楽しんでいます。
そしてお引越しをしなくても向こうから絶景がやって来てしまったラッキーなマイホーム。
初日にしてすでに縦走3日目のような足の重さで辛かったけれど、そんな疲れも忘れさせてくれる絶景。
きっとこれも飛んで行ってしまったお気に入りの帽子と引き換えに得た代償・・・どことなく切ない背中に感謝しながら心ゆくまで堪能しました。
夜、テントから顔を出すと空には天の川が!
さらに流れ星祭りで、かなこちゃんと一緒に時間も忘れて小屋の前で星を撮りました。
帽子の代償・・・
明日も良い1日になるといいなぁ。
後編へ続く。