日帰りで行ける100名山の中で最もサディスティックだと言われる修行の山がある。信州戸隠連峰最高峰の「高妻山(2,353m)」だ。そこはクソ長いルートにもかかわらず山小屋もビバークスペースも存在せず、正確には「日帰りで行ける100名山」ではなく「日帰りで行かざるを得ないサド名山」。そんなお仕置き修行のような高妻山に今、快楽を求めて2匹のマゾが挑戦しようとしているである。
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初秋の爽やかサド名山「高妻山」へ!
第1章 低血圧Mちゃん登場
男性読者率が驚異の8割越えを記録しているBBG。
ビジネス的にも女性を大切にして行かなきゃいけないこのご時世に、あえてキン肉マンや男塾などのネタ満載で独自路線を突き進みすぎてしまった結果だ。
そこで「そろそろ山ガールさんを登場させて爽やかな紀行文をお送りしていこう」ということになり、白羽の矢が立ったのがチーム・マサカズ(ご存知ない人はこちらを参考に)の「低血圧Mちゃん」だ。
BBGでは初登場となるが、往年のチーム・マサカズファンの人は「ああ、あのすげえ低血圧の人で、ニヤリとしながら急登登るマゾな人で、すぐ霧を発生させて景色をホワイトにさせちゃう悪天候ガールの人ですよね。」と思い出すことだろう。
で、早朝の高妻山駐車場で、まだスタート前なのに爽やかに“ぐったり”しているのがその低血圧Mちゃんである。
彼女は開口一番「今にも吐きそうです…」と早くもグロッキー宣言。
実は彼女は元々体調を崩し気味なところに、ここまでのクネクネ山道で完全に車酔いし、数時間前には「ユーコンさん…ゲロ袋を…」と顔を真っ青にして唸っていたほどの仕込みっぷり。
挙句この駐車場でヘロヘロになって仮眠を取ってる最中に、勢いで我が車の防犯ブザーを大音量でかき鳴らす行為に及んで周囲の車中泊者に大迷惑をかけている。
山ガールを採用して爽やかな紀行文を書くはずが、結局「ゲロ袋要求」からの「大音量迷惑ブザー」といういつも通りのスタートに。
実に彼女らしい華々しいBBG初登場だ。
本来の山ガールであれば「ごめんなさい…体調悪いんで今回はやめときます」と言うところだが、彼女は天性のマゾガールなので陽気に「じゃ、行きますか」とこのスマイル。
僕もそうだが、事前に吐き気などのマゾ仕込みをしておくことでよりその山行をハードに「マゾり楽しむ」ことができるのだ。
さすがはMのなんたるかを知る女。今日の彼女は「ベストコンディション」だ。
そんな低血圧Mちゃんの事前代償のおかげで、悪天候兄妹と言われるこの二人なのになんと「朝日」が。
天気予報も晴れだし、空も見事なる大快晴。
こんな爽やかな牧場からのスタートだし、何気に今日はノンマゾな平和登山になりそうだ。
第2章 吐き気との戦い
と、思った矢先から荒れに荒れ放題の登山道。
思わず「あれ?今日って沢登りしに来たんだっけ?」って思ってしまうような沢筋のハードな道のり。
歩きにくいわ、急登だわ、吐き気が止まんないわで、後方から来る低血圧Mちゃんからも「う…うう…ううう」と冬彦さんばりの唸り声が。
でも、帽子のツバで表情は確認できないが、きっと「ニヤリ」としていることは間違い無いだろう。
その後何度も渡渉を繰り返しながらひいひいと沢筋を詰めて行くと、「滑滝」に到達。
そこからは鎖のオンパレード。
グヘグヘ言いながら滑滝を乗り越えると、
続いては「帯岩」の登場。
さすがは修験道の山。
結局ガールを連れて来てランドネ風の紀行文を書こうとしても、結果的に宮下あきら風「男塾修行風景」になってしまう。
低血圧Mちゃんも「うう…気持ち悪い」とうめきながらも、「見さらせ!これがマゾガールの根性じゃぃぃ!」と必死で胃からの遡上物を押し戻す根性ハイクアップ。
さすがは山が好きすぎて松本に移住してしまっただけあって、山の中での根性はピカイチだ。
と言うか、彼女はユーコンカワイから「なんか高妻山っていう100名山があるみたいだから行ってみよう。日帰りで行ける山みたいだし、100名山なんだからお気楽チャッピーで楽しもうぜ!」と誘われてこの修行の山に連行されて来ている。
まさかこの山が100名山の登山ルート「グレードD」(甲斐駒黒戸尾根と一緒。一番やばい大キレットでグレードE。)を獲得している男塾とは知らずに登らされている。
実は高妻山は日帰り100名山の中では、難易度・体力度共にトップの山だったりするのだ。
要するに低血圧Mちゃんは、ユーコンカワイのズサンプランに巻き込まれた被害者なのである。
で、今彼女は絶妙な吐き気と戦いながら、ユーコン曰く「チャッピーな登山道」をぐえぐえ言いながら登ってるわけである。
そしてそんな高妻山は、沢沢ガレガレ大急登の連続で二人をハードにおもてなし。
のちに低血圧Mちゃんが「ここが一番リアルに吐きそうでした」と振り返る、稜線までの厳しい時間が延々と続いた。
第3章 フォグ女 vs 下痢男
そしてそれを乗り越えるとやっとの事で「一不動避難小屋」に到達し、
ここから稜線上に出ると、素晴らしい青空とともに、
黒姫山方面の素晴らしき眺望が展開。
普段は霧の中で山を彷徨う低血圧Mちゃんも「うああ、景色だ!空に色がついている!」と膝をガクガク言わせながら感動している。
僕はそれを見て「やめろ!浮かれるな!フォグが発生してしまう!」と慌てて制止する。
しかし時すでに遅し。
さっきまで雲ひとつない青空だったのに、彼女の浮かれによって「モクモクさん」が高妻山山頂付近に突然大発生。
これはまずいぞ。
ただでさえ「白に愛された男」として名を馳せる僕に、「フォグを操る女」が合流して浮かれた日には大惨事だ。
しかもこのタイミングで彼女は、「えへへ。なんだか吐き気も治まって来ました。」と言ってしまった。
これによって抑え込まれていた彼女の能力が一気に開花し、周辺はみるみるフォグにまみれて行き、
快晴予報だった高妻山は白の炎に包まれた。
いつものように景色の見れない樹林帯を大快晴で泳がされ、稜線に出て「さあ!これから景色を堪能だ!」と行った矢先の悲報。
まさにアタック25で一面青色だったパネルが、白のパネラーの「25番!」の一言で一気に全部白になっていくあの感覚だ。
「あああ…さっきまで大快晴だったのに…まただ…またホワイトだぁ…」とワナワナ震える僕に対し、
見事なフォグを発生させた低血圧Mちゃんは、してやったりの「ニヤリ」。
変な100名山に連れてこられた恨みを100倍のフォグで返す高等リベンジが炸裂。
慌てて僕は「急に謎の腹痛に襲われて下痢になる」という代償技で応戦(かなりリアルにやばいやつ系)。
これで少し青のパネラーが持ち直すが、
すかさずフォグガールが「この辺紅葉が綺麗ですねー」と浮かれてしまうと、
稜線の左右から目も当てられないほどのモクモクが大流入。
味方同士による高妻山山頂に向けての激しい攻防戦。
僕は「もういっそのこと“漏らす”しか勝ち目はないのか…」とハードな決断に迫られた。
しかし「いかん!今回は女性読者を増やすための爽やか紀行文だったはず!漏らしたらそこで試合終了だ!」となんとか踏みとどまる。
山頂に到着すればさすがに晴れるだろうと、お腹をさすりながらの我慢のマゾハイクがスタートだ(なんせこの山、キジを打ちに行くスペースすらない)。
そこからはひたすら長い長いアップダウンを繰り返させられ、
どかーんっとグハグハ大急登コーナーが幕をあける。
そんでもって、この長い大急登コーナーの果てには、「倍率ドン、さらに倍」な超急登コーナーの始まりだ。
這うように登り続け、ロープ多発の胸突き八百丁なロングロング超急登パラダイス。
相変わらず帽子のツバで顔は見えないが、もはやニヤリを通り越して爆笑していることは間違いない。
なんて喜ばせ上手な山なのか。
別に車に酔ってないのに、なんだか僕も吐きそうだ。
第4章 白と餅のおもてなし
低血圧Mちゃんは「アヒーアヒー」と必死で急坂と戦い続け、僕も「あっあっあ」と登ってはケツをキュッとさせて内容物の出撃に待ったをかけ続ける厳しい時間が続いた。
やがて難関急登を突破し、いかにも男塾っぽいオブジェを通り過ぎて行くと、
「眩しいほどの青空」をバックに、ついに高妻山登頂だ!
さすがは地図に「展望良い」と書いてあるだけのことはある。
僕は「ほら、ごらんよ!後立山連峰の眺めが見事だよ!」と感動に打ち震え、
低血圧Mちゃんも「わああ♡ほんとだー!白馬三山がよく見えるー!」とパシャパシャ写真を撮る。
「あれー、白飛び写真ばっかだー、なんでだろー」と言う彼女の肩をポンと叩き、僕は「もういい…もう、いいんだ…」と優しく言ってやった。
彼女もスッとカメラを下げると「あれ…なんでだろ…泣かないって決めてたのに…」と肩を震わせる。
二人は視線を合わせて静かに頷き合うと、「とりあえず今山頂にいる皆さんに謝ろうか。」と白に背を向けた。
あれほどの大快晴予報&吐き気事前代償を払ったにもかかわらず、この惨事は一体どういうことなのか?
あんなにキツく長いルートの果てにこれはあんまりじゃないか。
しかし「山頂は景色を楽しむところではなくて瞑想をする場所だ」とちゃんとわきまえてる二人は、目の前の飯作りに没頭。
僕はまず挨拶がわりに、大量の熱湯を自分の足にこぼして軽やけどを負うという前菜マゾを披露し、
「山専ボトルの熱湯だけで、スープ+春雨+しゃぶしゃぶ餅料理はできるのか?」という実験開始。
結果、しゃぶしゃぶ餅が全然柔らかくならず、自分登山史上最高にマズい昼飯になってしまった。
僕は静かに「ほほう、これが世に聞く踏んだり蹴ったりってやつか」と言いながら、やけどの跡をかばい白い景色見ながら硬い餅を頬張る。
しかも今回僕はカッコつけて「昼飯は俺に任せろ!」と言って来てるから、必然的に低血圧Mちゃんもこの「バリカタ餅鍋」の被害者になった。
このままでは「今最も女性へのおもてなしが下手な男」というレッテルを貼られてしまう。
女性読者拡大のためにも、そこからはコーヒーミルで豆を挽いて名誉挽回のおしゃれコーヒータイムへ。
しかしさっき大量に足にお湯をこぼしてしまったが故に、全然お湯が足りなかったというまさか。
結果、ショットグラス程度の量のスーパー苦いコーヒーが出来上がった。
しかもおもてなしスイーツを豪快に地面にぶちまけてしまう「おもてなしが下手な男」。
さすがは過去4人の女性から「女心のわからない奴」「デリカシー無し男」「だからあなたは…」などと共通の罵声を浴びたことのある男。
私は男塾の塾生なので、はっきり言って女性のもてなし方がわからない。
しかし相手が信州屈指のマゾガールだったことにより、なんとか5人目の罵倒は免れた。
むしろ彼女は「車酔い」→「吐き気」→「聞いてないグレードD」→「白まみれ」→「バリカタ餅鍋」→「おもてなしできない男」という数々の試練にもめげず、色々一周回ってなんだか楽しそうだ。
サディスティックな仕打ちの数々が、彼女をもう一段階上のマゾっ子に昇華させたようだ。
第5章 ロングロングロング下山
こっからの超絶に長い下山においても、彼女はマゾの勢いを緩めようとはしない。
もはや「3歩歩けば2歩滑る」ってくらいの滑りっぷりで、画期的な生まれたて子鹿スタイルでの下山を披露。
というのも彼女は山に行きすぎるあまり、靴のソールがつるんつるんでF1のタイヤ状態になってるからだ。
このような頼んでもいない仕込みマゾの用意の良さは、先輩マゾの僕からしても賛嘆に値する。
そのせいで、何時間もかかるこのクソ長い下山をほぼ滑りながら下るというロングマゾに突入。
「ヒー」「うおお」とか言いながらも、表情はいつだってニヤリとして楽しそうだ。
おまけに昨日の雨で道は下痢道の嵐。
そんな下痢道を前にしてもなぜか妙に嬉しそうな低血圧Mちゃん。さすがである。
そんな調子で、長い長い長い長い下山が続いていく。
下山のくせにアップダウンは多いし、途中で道をロストしてしまうわでどんどんボロボロになっていく二人。
もう朝スタートしてから、かれこれ「10時間」という時間が経過している。
さすがは暗くなる前に帰ってこれない登山者が続出するグレードDの山。
はっきり言ってもう飽きて来たぜ。
出発前に「最近トレッキングポールいらなくなって来たんだよねー。」なんて言っていたこの男も、今では落ちてた枝をポールがわりにして膝の延命処置に必死だ。
本気で疲れ果てた…。
なんか日帰りとは思えないほど体から獣臭がしてるし…。
あまりのエネルギー消費量に、もう二人とも行動食も食い果たしてヘロヘロに。
なんてサディスティックな山なんだろうか?
そして登山開始11時間半。
やっっっっっっっと下山完了である。
恐ろしい山だった、高妻山。
もう二度とあなたには登らないことでしょう。
牧場に戻ると、「美味しいから」という理由ではなく「生きるため」に必死で甘いソフトクリームに食いついて生をつなぎとめる二人。
その後は、一番楽しみにしていた「戸隠そば」の店が全店ことごとく閉店していたのを確認すると、
再び嘔吐と戦うクネクネ山道の試練2時間コースの末、低血圧Mちゃんと別れてから+5時間半のロングロングドライブへ。
そして朦朧とした意識のまま帰宅したのは午前2時。
結局朝4時に低血圧Mちゃんの爆音警告ブザーで叩き起こされてから、ほぼ22時間ぶっ通しで戦い続けて来たことになる。
なんともマゾい一日だった…。
こうして高妻山のチャッピー登山が終了した。
「女性の読者層を増やそう!」「爽やかな紀行文を書こう!」から始まった今回の企画。
完全に企画倒れになってしまった感が否めない。
むしろいつも通りの男塾で、女性を巻き込んだある種のマゾハラ登山になってしまった。
全ての敗因は我が山のチョイスミスだった気がしてならない。
ランドネを読まずに、宮下あきら作品ばかり読んで来たつけが今来ているのだ。
それでも我こそはというマゾガールの皆さんがいれば、BBGはいつだってあなたの挑戦を受け付けているよ!
BBGとしっしょに爽やかに直進行軍して、いい汗といい血ヘドを吐きましょう!
それではまた山でお会いしましょう。
田沢慎一郎でした。
押忍!!