尺サイズのイワナ嬢との出会いを求め、地図の情報だけを頼りに突き進む「Road to 桃源郷シリーズ」第二弾。今回BBGの二人が目をつけたのは、現場に着くまでやたらと時間がかかる山奥の谷。そこではかつて40cmオーバーのイワナが入れ食いだったというまことしやかなる伝説が存在していた。そんな谷に今、BBGの二人が伝説の証人となるべく再びマゾヒスティックに挑むのである!

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いざベッピン谷へ

「尺イワナ」

それは30cmオーバーのイワナのことを言い、源流釣り師にとって尺イワナを釣ることは最大の快感なのである。

もちろんまだ山釣りを始めたばかりのBBGの二人は「尺イワナ童貞」だ。

前回の鈴鹿最深部ファストパッキング時では「俺が先に童貞を喪失してみせる!」という強い意気込みが空回りし、散々苦労して現場に着いた途端に「釣る前に竿を踏んで折る」という画期的なスタイルを見せつけてしまった事は記憶に新しい。

「さあ!やっと釣り開始だ!」って段階でユーコンカワイに竿を折られたアツシオガワ。

童貞ほど焦ってこのように本番前から自滅していくもの。

結果20cm近辺の小ぶりなイワナ嬢数匹に遊んでもらっただけで、尺イワナ嬢のご指名にまでいたる事はできなかったのである。

苦労して辿り着いた割には、桃源郷どころかただの場末のスナックだったのだ。

 

そこで今回は「とにかく簡単には人が入れない奥の奥の方のお店(谷)を探そう」って事で、ひたすら国土地理院の地図とにらめっこして一つの谷を見つけ出した。

それが霊峰白山の南部にそびえる別山から流れ出る「別山谷(べっさんだに)」。

別名ベッピン谷(勝手に命名)と呼ばれるその谷は、最近尺どころか40cmオーバーのデラベッピンさんが釣れたというのだ。

その真意を確かめるべく、期待でテンカラ竿をギンギンにした童貞たちが今立ち上がる。

男たちはホットドックプレスで得た情報だけを頼りに、デラベッピンさんとの逢瀬を求めて鼻息荒くその谷に突入して行ったのである。

終わらないケツ破壊林道

今回は我々としては珍しく自転車を利用してのアクセスを試みる。

なんせ入川ポイントまでは、約20キロの林道を越えていかねばならないという非常にマゾい道のりだからである。

頭の中は数時間後に繰り広げられるであろう尺イワナ嬢とのニャンニャンな想像でいっぱいだ。

いざ!ご入店である!

ファストパッキングスタイルとはいえ、一泊分の荷物の重さによるケツへの負担はなかなかのもの。

痔持ティーの僕としては、目的地到達前に流血リタイヤも視野に入れての慎重なスタートだ。

そして熊もバンバン出る場所なので、熊鈴&ホイッスルで騒々しく林道を駆け抜ける。

今回は釣る前に竿を折るのではなく、現場到着前にアツシオガワが熊に腕を折られるというオチの方が華々しいんだが、さすがにそこまでやると記事に書けないから万全を期した。

 

スタートこそ陽気に喋りながら漕ぎ進んでいたが、やがて自転車用の筋肉がついてない男たちはたちまちアップアップ状態に。

激しいパンプアップの連続に、二人とも「クッ!グハッ!アッアッアッアァ〜ッ!」と終盤の加藤鷹状態に。

山中にこだまする男たちの野太い喘ぎ声。

ひたすら長く長く続く、心臓破りでは収まらない五臓六腑破りの坂道の数々。

あまりの長さと辛さに、自分たちの目的が釣りに来たのかマゾりに来たのかもわからない状態に。

漕げども漕げども、押せども押せども全く進んでいかない林道地獄絵図。

「あれ?梅雨って明けたんだっけ?」ってほどの暑さが襲い掛かり、滝のような汗も止まらない。

沢に遭遇すれば餓鬼のように命をつなぎ、「俺たちの目的ってなんだっけ?今ってアドベンチャーレースに出場してるんだっけ?」と本来の目的を見失いそうになる。

それでも愚直に突き進むが、やがて腰が破壊されて腰痛持ちのユーコンカワイは「アーアー」嗚咽を漏らしながらジジイのようにヨボヨボと徘徊。

慣れない筋肉を使ったせいで腿の筋肉もビクンビクンして、生まれたての子泣き爺状態。

さらに行程が長すぎて、二人のケツはサドルに座ることもできないほど破壊されて座るとケツの骨に激痛が。

なので漕げる区間は常に「立ち漕ぎ」を強いられるという常時筋トレ状態に。

さすがは桃源郷候補ベッピン谷。

こうまでしないと辿り着けない場所だからこそ、尺れたデラベッピンさんがいるはずだ。

この世に報われない苦労なんてない。

それだけを信じ、胃酸の逆流を楽しみつつなんとか2時間半後に「やっと入口」に到達だ。

まだこれからなんだが、なんだかもう燃え尽きてしまった。

正直もうここでビバークしてしまいたい気持ちで一杯だったが、尺イワナ嬢たちが我々との逢瀬を今か今かと楽しみに待っていてくれている。

ここで行かねば男がすたるのだ。

VIPルームに向けて

別にこの入川ポイントからもう釣り上がっても良い。

しかしここではまだ日帰りの釣り人が侵入可能なポイントなので、さらに奥へ奥へと侵入していくのだ。

源流泊しないと釣り上がれないところにこそ、我々の童貞喪失にふさわしいVIPルームが存在すると信じてやまないのである。

散々林道で足腰がヘコヘコになっている所に追い打ち渡渉の嵐。

水流に負けずに踏ん張ったり、ゴロゴロとした川原の遡行はバランスを取らねばならんのでさらに疲労度の加速度が止まらない。

しかしわりかし開けた渓相で、それなりに心地いい沢登りタイムではある。

でもそんな気分に浸れたのは最初のうちで、林道で体力を持って行かれすぎてて、延々と続くゴロゴロ川原歩きと渡渉パーティーの連続に「もう…いいぜ…」とうんざり感を隠せない二人。

桃源郷への道のりは長く過酷なのである。

やがて本来のビバーク予定地よりはるか前の地点だったが、限界に達して我慢できずに野営設営タイムに突入。

ユーコンカワイはタープ設営、アツシオガワは薪集めと休むいとまもなく働き続ける。

いつまで経っても釣りができないし、移動とマゾと下働きだらけで気分は強制労働者だ。

しかし生半可な努力で尺童貞を捨てられるわけがない。

さあ、いよいよやることはやって準備は整った。

あとはひたすら桃源郷での豪遊のお時間の始まりなのだ!

必殺!報復リール落とし

それは開始わずか数分だった。

早くもユーコンカワイの竿がしなり、およそ23cmほどの可愛らしいイワナ嬢が釣れたのだ。

そして時を置かずして、アツシオガワの竿にも同サイズのイワナが食いつく。

この完璧なスタートダッシュに対し、「さすがは桃源郷!こりゃ尺童貞卒業は時間の問題だ!」と完全に浮き足立った。

そして「こんな小物には用はない!」とリリースし、「尺どころか40cmオーバーの大女優相手に我が童貞を捧げてみせる!」と目の色を変えて釣り上がった。

今考えたらこの時のイワナをちゃんとキープしておけばよかったのだ。

 

いきなりのナンパ成功に対して「俺たちはイワナたちを満足させられる」と勘違いした童貞二人は、変な自信を胸にどんどん遡上していった。

しかしそこから先、二人の「ねぇねぇ〜、ちょっと俺らと遊ばなーい?」という軽い誘いには一切乗ってこないイワナ嬢たち。

急に激渋になったベッピン谷は、ただただ二人に不毛な時間だけをご提供なのである。

昨日のまとまった雨のせいでどうにも水量も水流も激しく、たまにある淵も大きくて毛針を落とし込むポイントが少ない。

しかしこんな時のために、ユーコンカワイはテンカラ竿以外にルアーも持って来ていたのだ。

実は前回の鈴鹿で彼がアツシオガワのルアー竿を折って弁償した分、その折れた竿を修理して自分のものとして、リールも新たに買って今回初めて持って来たのだ。

ただユーコンはルアー釣りをしたことがないので、自分のルアーとリールを経験者のアツシオガワに渡して講義を受けた。

彼は「いいですか。ここをこうしてこう投げるわけですよ。あれ?なんかリールが変ですね。ちょっと分解して見てみます。ははあ、なるほど、ここがこうなってこうなってるから….あッ!」

次の瞬間。

彼は買ったばかりのユーコンカワイのリールの部品を「滝壺の中に落とした」のである。

そして彼は「えへへ、スミマセン。やっちゃいました。」と確信犯的な笑みをたたえながらその使い物にならなくなったルアーをプルプル震えているユーコンに返却した。

これぞアツシオガワ奥義「報復リール落とし」。

目には目を、歯には歯を、竿折られにはリール落としを。

もちろんユーコンカワイがどんなに滝壺を覗こうとも、そこから普通のリールと金のリールを持った神様は現れず絶望的な轟音だけが響き渡る。

結局彼は、はるばる持って来た新調したルアーをほぼ使用することはなかった。

 

そんな童貞二人のバタバタ劇が谷中のイワナたちにバレたのか、以降全くアタリが無くなった。

そう、ここは二人にとって桃源郷でもなんでも無かく、またしても苦労に見合わない場末の奥の奥のスナックだったのである。

珠玉のディナー

野営地に帰還した変態が一人。

別に彼はイワナたちに相手にされなかったからやけになって露出狂に走ったわけではないし、急にジョイナーになりたくなったわけでもない。

実は彼は思いっきり岩で足を滑らせて猛烈に臀部を強打し、その青あざの確認をお願いしている所なのである。

本人曰く「ラオウにタイキックされたくらいの衝撃」だったらしく、これ以降ずっと右臀部の痛みと戦い続けることになる。

 

しかも悲しい事に彼は「桃源郷でイワナ爆釣のはずだから、俺はあえてコメしか持って行かねえ!おかずは全てイワナだ!」と豪語して来たため、今日の晩御飯は白米のみなのである。

さらに悪いことは続き、珍しく時間配分を間違えてしまって、その肝心の米はこれでもかとばかりに焦げ焦げに。

もはや「おこげ」のレベルをはるかに超越し、食ったらそのまま癌になりそうなレベル。

それでもそれしか食うもんがないから、それに塩振ってガリガリと頬張るユーコンカワイ。

「やっぱり大人の沢飯はビター米に限るぜ」と必死で強がっているが、まともに食える部分が少なくて早くも食糧危機に。

つまみ用に持って来ていたししゃもを大事大事に一本づつ食べる彼の姿は、もはや「どっかの公園に住んでる人」といった様相を呈してきた。

これが桃源郷でのディナーなのか…こんなことなら最初のイワナをキープしておくんだった…。と、後悔が止まらない。

あまりに腹が減った彼は、「ちょっくらツマミ釣ってくるわ」とカッコつけて再出撃。

するとである!

あまりのみすぼらしさに同情したのか、冗談で振っただけの彼の毛針にイワナがヒット。

「釣れた!」っていう感覚より「食料だ!」っていう感じの、ラッキーな配給にありついた公園の人の喜び顔に。

数時間前まで「こんな小物に用はねえ!」とリリースしていたのに、今では取り出したばかりの赤ちゃんを抱える助産師のように大事大事にそのイワナを扱うユーコンカワイ。

もちろんその虎の子の1匹はじっくり慎重に焼かれて彼の胃の中に収まっていった。

まさに「命を繋がせてもらった」珠玉のディナー。

この時の最高に美味しかったイワナの味は生涯忘れることはないだろう。







追い打ちハニートラップ

翌朝。

昨日のことは忘れて、本当の意味での勝負の一日が始まる。

まずは最も釣れる「朝まずめ」の時間帯での再チャレンジだ。

まだ尺の夢を捨てていない童貞ズの二人は、黙々とその朝のフィーバータイムに毛針を振り込む。

しかし本日もウンともスンとも言わないベッピン谷。

挙句ユーコンが再集合時間を1時間間違えていた事により、アツシオガワは「ユーコンが遭難した」と焦ってその大事な時間のほとんどを相棒の捜索に費やしたという。

鈴鹿の竿折りといい、リールのボッシュートといい、二人の足の引っ張り合いが凄まじい。

 

結局「ダメダコリャ!別の谷に移動しよう!」と再び大移動開始。

はるばる苦労してこんな奥地まで来たのに、結局チェリーボーイのままベッピン谷を後にするこの徒労感。

もちろん容赦ない林道自転車移動が律儀に二人を待っている。

やがて「ここならどうだ!」という沢に侵入。

すると、なんと開始わずか5分!

ついにユーコンカワイがビッグヒット!

なんと「ミツバチに刺された」のである!

見事にハニートラップに引っかかった不運な男。

実は今回レビュー用に防虫素材のスコーロンを使ったウェアを着て来ていた。

しかし残念ながらスコーロンは蚊やダニには効果があるが、蜂には効果がないのだ。

それを実証するために、たまたま服に止まったミツバチを撮影したんだが、それが「何勝手に撮っとるんじゃ!」と蜂の逆鱗に触れた模様。

こうしてユーコンカワイ渾身の現場テストレビュー「スコーロンは蜂には通用しない」が炸裂。

彼は去年もスズメバチに刺されており、2年連続での「ベストハニーリスト」受賞となったのである。

イワナは釣れなくても、蜂を釣らしたら彼の右に出る者はいない。

そして彼ほど「ポイズンリムーバー」を使い込んでて、慣れた手つきで扱える者もそうはいない。

こうして今年もしっかり左腕に第三の乳輪を出現させる。

このように事前代償を払った時の彼は急に運気が上がる。

再び現場復帰した彼は、

コンスタントに20cm前後のイワナたちを釣り上げたのだ。

尺童貞喪失には遠く及ばないが、もはや「とりあえず釣れればいいや」という穏やかな心になっているため十分に満足だ。

一方、今回やる事なす事うまくいかない男アツシオガワは、この渾身の一日において釣果はゼロ。

何時間も辛い林道を漕ぎ抜け、歩きに歩いて別の沢まで来たのに神々しいまでのボウズ。

結果的に彼は必死な思いをしてはるばる桃源郷まで来て、イワナを釣らずにリールだけ破壊しに来ただけというトリッキーなラストを迎えてしまったようだ。

余談だが、彼はこの後自販機で買ったコーラが開けた瞬間大爆発してコーラまみれになっていた。

とにかく何をしてもダメな日だったのである。

こうして二人はよく分からない源流釣行を終え、再び部活動のようなクソ長い林道を帰っていった。

そしてゴールについた瞬間、満身創痍を物語るようにユーコンカワイの自転車が見事にパンク。

まるでボロボロになりながらも、ご主人をゴールまで導いたゴーイングメリー号のような最期だった。

こうして気力と体力ともにボロボロにし、その上で尺童貞を守り抜いてしまった二人の戦いは幕を閉じた。

そう簡単に尺が釣れるわけがない。

きっと天が「もっともっと苦労した者にしか尺イワナは与えない」と言っているのだ。

そう言い聞かせて我々は帰路についた。

 

ちなみにこの時携帯が圏内に入ったので、何気なくアツシオガワがFacebookをチェックした。

そしてそこにはこんな投稿が載っていた。

我々が「塾長」と崇める、南アこもれび山荘のご主人の投稿である。

きゅ…休憩時間にサクッと…って…。

我々男塾一号生の松尾と田沢が丸二日間ハードな移動と遡行を重ねても釣れなかったのに、休憩時間にサクって…。

しかもどう見ても尺を超えてらっしゃいませんか?

この時ほどマーク・ザッカーバーグに対して「そりゃないぜ!」ボタンの設置を懇願しようと思ったことはない。

 

とりあえず今回の旅で、桃源郷は普通にバスに乗って北沢峠のこもれび山荘に行けばいいってことだけがわかった。

苦労した甲斐があったというものだ。

次回はぜひ塾長に、休憩時間にサクッと我々の筆おろしを手伝って欲しいところである。

 

さあ、BBGの二人の「どっちが早く尺童貞を卒業できるか対決」はもうしばらく続きそうだ。

しかしそこにロマンと夢がある限り、我々は愚直に彼女たちに挑み続ける。

いつか源流のプレイボーイと呼ばれるその日まで。

 

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