初秋!釣り師達の季節もひと段落して川に静寂が戻る頃、いよいよ「パックラフト」のセカンドシーズンが到来だ!今回はBBGの読者のために「秋のパックラフトはこんなにも素敵な世界なんだよ」と知ってもらいたいがため、本厄男ユーコンカワイが向かったのはとっておきの清流「神崎川」。しかし彼はそこでもいつものような「大凡ミス」をぶちかまし、パックラフトの素敵さどころか余計な新種のマゾプレイをご紹介して行ってしまうのである。
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神崎川パックボディイングの軌跡
初秋の大バカ野郎
私は大いに浮かれていた。
台風が去り、水も落ち着いて来て、天気も大快晴予報。
台風で洗い流された川が美しいことは知っているし、快晴無風の川が信じられないほど楽しいことも私は知っている。
そう、この日はまさに「パックラフト日和」。
BBGの読者さんに一体どんな素敵な旅をお見せできてしまうのか、考えただけでワクワクが止まらない。
ゴール地点に自転車をデポし、見上げれば雲ひとつない見事なる青空。
そして川を覗いてみれば、台風が去ってまだ3日しか経ってないとは思えないほどの大清流。
これでも少々濁っている状態だってんだから、おそるべし神崎川。
スタート地点に移動し、はやる気持ちを抑えながら久しぶりのフルドライスーツに身を通す。
しかしである。
首元のガスケット(ゴム部分)を交換したばかりで、事前にペットボトルとか詰めて伸ばす行為を忘れていたため猛烈な締め付けが。
この場で一人もがき苦しみ、窒息の恐怖と戦いながらのゴム伸ばし作業30分。
すでにスーツ内はダクダクの汗ビッチャ&全然ゴム伸びなくて息もできずに顔も真っ青。
「このままでは駐車場の時点で死んでしまう」と判断した私は、泣く泣くガスケットを1/3ほどハサミでカットして九死に一生を得た。
事前準備の怠りを現地でたっぷり味わうのが、ユーコンカワイ流のウォーミングマゾアップだ。
さあ、ロンリー首絞めプレイをしっかり満喫した後は、いざ、愛する清流神崎川へ。
この場所はパックラフト広げるには狭いから、対岸への渡渉にチャレンジすることに。
これが全ての「始まり」だった。
車から川原までがわずか2分なので、私は完全に油断してバックパックにくくりつけていたパドルの固定をしっかりとしていなかった。
5秒前の出来事すら速攻で忘れてしまう僕は、そんなことをすっかり忘れて腰まで浸かって渡渉開始。
未だ台風の余波で増水気味の川は勢いが強かったが、なんとか渡渉成功。
そしてさあ!パックラフトを膨らますぞってな段階で、ふと我が4分割のパドルを見ると…
おや?1本足りないじゃない…。
「まさか」「いやそんなバカな」「いやでもまさか」「いやいや私はそんな大バカかい?」という自問自答。
事実を認めるまで少々時間がかかったが、どうやら我がパドルはあの激しい流れに乗って下流へと流されて行ってしまったようだ。
まだ何も始まってもいないのにだ。
「きっと近くのどっかに引っかかっているに違いない」と、私はパドルの捜索活動を開始した。
しかし行けども行けどもそれらしきものは見当たらない。
それでもそんな簡単に「3万円」もしたパドルを諦められるわけがない。
しかしだいぶ歩き下ったところについに流されたパドルのポール部分を発見。
目の前は激流だが、なんとかここを乗り越えて救出しなければいけない。
あれはポールではなく「3名の諭吉さん」。
これはまさに人命救助だ!
激しい水流に負けないよう、根性で諭吉の元に迫る救助隊員。
そして必死の思いで諭吉ポールを救出!
そのまま反転して、フンガフンガと元の川原へ泳ぎ戻る。
そして岸に着いた救助隊員は叫んだ。
「これ、ほうきじゃねえか!」
命がけてほうきを救出し、がっくりとうなだれる隊員。
ことここにきて事態の深刻さに気づき、特に金欠の今3人の諭吉を救出できないのは悲惨すぎる。
というか「BBGのみんなにパックラフトの素敵さを」なんて言っていたのに、結果的に「BBGの皆さんにユーコンカワイの愚かさ」をお伝えすることになってしまった。
結果、パックラフトを膨らますことすらできず、「スタートできない」というまさかをかましてしまったのである。
もちろん、こんな時に限って空は燦々と晴れ渡っている。
開眼!パックボディイング
しかし物は考えようだ。
並の人間ならここで肩を落として大人しく帰路につくのだろう。
しかし私はこれをチャンスと捉え「これは“あえて”流したパドルを自ら探し出す高度なアクティビティ、ロストパドリングである!」と無理やり自分を奮い立たせる。
再びスタート地点に戻って荷物を全て背負い、いざパドルを求めての川下りが始まった。
途中でパドルを回収し、そっからはパックラフトで下り切るという新スタイル。
「本当に見つかるのか」という不安、そして「見つかったらどれほどの達成感があるだろう」という期待。
このように遊びを「創造」することが真のアウトドアマンの真髄(ただの凡ミス)なのである!
そして「パックラフトなんて必要ねえ、この俺自身がパックラフトだ!」と、そのまま身一つで川を下っていく。
そう、これが己の身だけで川を下っていく新種目「パックボディイング」。
ただ流されるだけでなく、背中に出番のないパックラフト一式を無駄に背負っているというのがミソだ。
人は「もうパドル諦めて帰りなよ」とか言うのだろう。
確かにもうパドルはないのかもしれない。
しかし私が本当に探しているのはロマンだ!ほっといていただきたい!
と言うことでただでさえ湧水が流れ込むキリリと冷えた神崎川を、秋も始まろうかって時にボディのみで下る戦いが始まった。
フルドライを着ているとはいえ、当たり前だがみるみる体は凍えてくる。
しかし今回はロストパドリングという競技でもあるので、あくまでも「パドルの気持ちになって流されること」が重要だ。
長年連れ添った相棒パドル、「あいつならこの流れをこうキャッチするんじゃないか?」「いや、強気なあいつは中央突破だ!」「そしてきっとあのあたりにいるに違いない!」などと推測しながら、パドルを探し続ける動画がこちらである。
本来はパッラフトで楽しく下るはずが、なんだかただ川に流された人のドライブレコーダー的な様相を呈している。
喫水の浅いパックラフトなら平気な箇所も、ボディイングの場合は体が沈み込むのでケツにダイレクトに岩が当たって切れ痔に拍車がかかる。
それでも所々でパドルを探しながらの、一つも楽しくない川下りは続いていく。
パックラフトなら天国のようなこの清流区間も、
流れがない場合はひたすらクロールで進まなければならず、四十肩の身には拷問以外の何物でもない。
そして何が大変かというと、仕事柄この一部始終を己撮りしなくてはならず、「一回漕ぎ下ってからカメラセットしてまた上流戻って流される」という時間と体力だけが大消耗する無駄な行為が展開されるのだ。
世間の皆様が一生懸命働いている平日の天気のいい日に、私は一体何をやっているのか?
社長のアツシオガワにも「パックラフトで最高の旅を記録してくるぜ」と息巻いてきた手前、会社に帰ってからどう言い逃れをしたらいいのだろうか?
そもそもまだ一度もパックラフトを写真に撮っていない…。
強制休憩とパドルの発見!
やがて精魂疲れ果て、体も寒さでガタガタ震えてきて、いよいよ途方に暮れる孤高のボディラフター。
こうしてる間にもどんどん諭吉が下流に流されてると思うと居ても立っても居られないが、一応今回は「川原で素敵なひと時を過ごしてる姿もお伝えしよう」というのもコンセプト。
正直疲れすぎて気持ちもブルーで腹も減ってないからめんどくさいんだが、一応「撮れ高」のために気が気じゃないけど薪集め。
またこういう時は相変わらず天気はよろしくて、普通にパックラフトで来てたらどれほど絵になったことだろう。
思えば以前にもこの川に来た時、天気は良かったんだがライター忘れてラーメンをそのまま食ったり(コーテツ麺と呼んでいる)、後半に沈の連続でボロボロになった悲惨な旅だったのを思い出す。(参考記事:天国情事と地獄事情〜浮かれた男の失楽園〜)
今日はその時の負の記憶を払拭する意味もあったんだが、なぜ私は過去の傷口に塩を塗り込んでいるのだろうか?
まあいい、とりあえずサクッと火を熾して、
お気に入りの川原ランチセット(炊飯+いなばのカレー缶+ノンアルビール)を頬張って、今後の捜索のために英気を養う。
飯食い終わったら本来は珠玉のお昼寝タイムの予定だったが、もちろん寝てる場合じゃないんで巻きで次の作業へ。
ほんとは優雅なひと時を演出するコーヒータイムなんだが、今は正直さっさと終わらせて捜索に飛び出したい気持ちでいっぱいだ。
コーヒーミルをゴリゴリしながらも「3万かあ…。今無理だよなあ…。またヤフオクで大量に売るかな…。」などと少しも優雅じゃない沈痛コーヒータイム。
で、休憩もソコソコに、再びパックボディイングへ突入。
激しい揺れ&石に突き上げられた衝撃で、思わず口からいなばのカレーが出撃しそうになる厳しい時間帯。
というか全然パドルが見つからない。
さすが我がパドル、難所をすり抜けて、見事なコース取りで下流まで最短コースを行っているに違いない。
しかしついにその時が!
何かを発見する救助隊員。
大急ぎで救出に向かう!
木でした。
なんだかもう、3日前の台風のせいで各地に「ポールもどき」が散在。
捜索は困難を極め、ここまでのパックボディイングによる疲労も重なってなんだか泣いてしまいそうだ。
それでも負けずに流れていくパックボディーヤー。
するとついに!
今度は間違いなく木じゃないやつが淀みに突き刺さっているではないか。
色といい太さといい、間違いなくあれは我がポール!
捜索開始から実に4時間。
しかし目の前の流れが強すぎてすぐに押し流されてしまう。
そこで救助隊員は、このはるか上流まで移動し、そっから流されて一気に回収する作戦にでたのである。
ただのパイプだった。
なんて紛らわしい罠なのか?
残った体力を振り絞り、全力でパイプを握りにいくというわけわからん行為になってしまった。
そっからはもう歩く気力も失せ、ただただ変死体のように流されていくのみ。
これがユーコンカワイ流、パックラフトを使った秋の清流の楽しみ方なのである。
ここからはパックラフトで下ってたらさぞや気持ちよかったであろう、美しい区間が続く。
せっかく綺麗なブルーだが、間違いなく我が心の方がはるかにブルーだ。
やがて最後の希望だった堰堤にパドルが引っかかってないことを確認すると、
とうとうゴール地点に到達!
ついにやった!
俺は一度もパックラフトを出すことなく、この川を下りきったぞ!
過酷なアクティビティ「パックボディイング」をやりきった男に祝福の陽光シャワーが降り注ぐ。
なんという充実感なんだ….
って、チクショアッ!
諭吉…俺の諭吉達よう…。
また無駄な出費が…。
というか、そもそも俺ぁパックラフトがしたかっただけだったのに…。
これは全ては自分が招いた結果。
本厄野郎が油断したら、このようなスペクタクルマゾに突入させられるといういい見本である。
その後も諦めきれない彼は、自転車で帰りながらも未練たらしくなんども川をチラ見。
車に帰ってからも、もう一度喪失現場付近の捜索延長30分。
もちろんそこにはパドルのパの字も存在しなかった。
やがて彼の3諭吉の捜索は打ち切られた。
一つも楽しくない1日だった。
今日を生きた意味が全く見つからない。
果たしてこれで「BBGの読者にパックラフトの素敵さを伝える」という目的は果たせたんだろうか?
絶対果たせてないだろう。
しかし中には「俺もパドルロスティングからのパックボディイングがしてえ!」なんて物好きが一人くらい現れるかもしれない。
やがてここが原点となり、この新競技が将来的にオリンピックの人気種目にならないとも限らない。
パイオニアはいつだって孤独だ。
「あんた一体今日一日何やってきたんだ?」と言われたって気にしない。
今日の不毛プレイが評価されるのは、きっと100年200年先のことだろう。
いよいよ始まったパックラフトセカンドシーズン。
開始3分でパドルをなくした彼は、一体今後どうしたらいいのだろうか?
とりあえず、これから紅葉川下り含めて素敵なシーズンが始まりますよ。
諸事情により彼はしばらくの間川に現れないでしょうが、皆さんはどんどん楽しんで行きましょう!
それでは私はしばし金策に走ります。
少し先にまた川でお会いしましょう。
大バカ野郎カワイでした。