人生という長い旅には「笑いあり涙あり」そして鬼ころし行く所には「山あり酒あり」。車ひとつ身ひとつ、行き当たりばったりの車中泊で挑む、みちのく女ひとり旅。前回の九州に続いて今回はその舞台を東北地方へと移し、絶景と美酒に酔いしれる。まだ見ぬ景色を求めて名古屋を飛び出した1週間の旅の前半を “人の生涯一度きり、やらぬ後悔よりやる後悔” がモットーの鬼ころしSがお送りします。

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プロローグ

山を愛するがあまり、三十路の私が思い切って会社へ辞表を提出したのはもう半年前。

ドロップアウトと同時に車へ飛び乗り、一人向かった先は九州だった。

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2週間、全2600kmの工程を終えて「普通の女の子に戻ります」とピッケルを置いた当時の私。

お父さんお母さん、家族友人心配かけたなぁ。皆さんありがとう。

「ビールと結婚する」だなんて夢みたいなこと言ってないで真面目に婚活するね、平成ももうすぐ終わりだもの。

帰ってからは仕事にも真面目に取り組み、社会への復帰を目指していました。

こうして平和な日常を取り戻した私は、ふと自分の走ってきたルートを見返すべく日本地図を広げて思った。

ん?待てよ・・・。

日本って東にも長いのか。

まだ栃木県より東へ行ったことのない私は、ずっと憧れを抱いていた“東北地方”の地図に折り目を付けてみた。

一度きりの人生だもの、やりたい事をやらないで後悔なんてしたくないわ。

お父さんごめんね。

やっぱり娘の社会復帰とウエディングドレス姿はもう少し先になりそうです。

またもや狭い軽自動車にありったけの道具を積み込んで、私は家を飛び出し東へと向かった。

第1章 始まりの会津駒ヶ岳

まずは福島県にある尾瀬国立公園の一部、百名山「会津駒ヶ岳(2,132m)」の麓へとやって来た。

初めての福島、初めての東北。オラわくわくすっぞ。

ちょうどこの日は会津駒ヶ岳の山開きの日。

存じませんでしたがナイスなタイミングでの山選び。

天気も良好、まさに登山日和。こうしている間にも続々と登山者の皆様の車が駐車場へと上がって行きます。

お手洗いは国道から村道への入り口付近にあり、登山口にはありませんので手前で済ませて行きましょう。

パッと見は普通の公衆トイレですが、二重扉で虫もおらず鏡や電気も設置されておりとっても綺麗。

上まで来ると案の定、開山祭の賑わいで日本アルプスよろしくな縦列パレードの駐車場。

まだ見ぬ東北の山々の景色との出会いを期待しつつ、ここ「滝沢登山口」から登山スタートします。

本日はスカッと晴れて登山日和。

まるで半年間のニート生活で、社会のしがらみや仕事のストレスから切り離された私の心のように晴れ渡った青空。

全行程は往復13kmほどの道のり。登りごたえも抜群なルートですが、高度を上げるにつれて太陽もぐんぐん上昇。

ざわ・・・ざわ・・・

朝というのにすでに福本伸行作品ばりのビチャビチャ具合。

開山祭という事で、登山を楽しまれている方たちに話を聞いてみるとほぼ全員が地元東北の方である。

ご近所だというトレランスタイルのオヂサマにはあっという間に爆抜きされ、姿も見えなくなってしまった。

これまた地元にお住まいのワンコ、名前は「レンくん」。

可愛いレンくんにもあっという間に置いて行かれてしまった。

小さくてもやはり犬は犬だ、まったく付いていけやしない。

樹林帯を抜けると綺麗な木道が続き、その先には小屋の屋根が見える。

まるで絵本のような景色にうっとり。

辺りがなんだか尾瀬っぽい景色になって来ましたが、向こうに見えるのは至仏山と並んで尾瀬を代表する山「燧ケ岳(ひうちがたけ/2,356m)」

尾瀬、いい所ですよね。

尾瀬、いこおぜ!なんちゃって。

さすがは東北一高い山、非常に存在感のあるお姿です。

昔からフワフワした物にめっぽう弱い私、大好きなワタスゲを見つけてテンションアップ。

耳かきの反対側のフワフワや、シュラフからたまに飛び出すダウンの根元のフワフワには今だに興奮が抑えられません。

駒の小屋に到着しました。小屋前もたくさんの人で賑わってます。

雪解けが進むと小屋の目の前に現れる大きな池。

今日は風もなく、池に空が映り込むほど穏やかな登山日和。

キッズ達も「分身の術!」とエキサイト中。

少年よ、おばちゃんナルトはあんまり詳しくないんだ。ごめんね。

駒の小屋の小屋番さんは若いご夫婦でした。

奥様の字なのかな?可愛い看板が沢山あったりと、女子心もバッチリ掴んできます。

駒の小屋オリジナル手ぬぐい

「金もいらなきゃ出世もいらぬ 山さえ登れりゃご満悦」

手ぬぐいに人生を肯定してもらえるなんて、夢にも思わなかったよ・・・。

駒の小屋から山頂まではおよそ20分。整備された木道を気持ちよく登って行きます。

会津駒ヶ岳山頂に到着!記念すべき東北での1座目、お天気にも恵まれて幸先良いスタート。

山頂に居合わせた地元のマダム達とお話をしていると、別れ際にお菓子やバームクーヘンを沢山頂く。

名古屋から来たことを伝えると、東北の山には毒性の強いブヨがいるので虫除けスプレーは必須だと教えてくれました。

「くちびるオバケになっちゃうわよ〜ウフフ〜」と言われたので明日買いに行こう。

突然、見たことないくらいBIGなナメクジ登場

そして”くちびるオバケ”がイマイチ分からなかった私、ググってみたらこんなナメクジのようなクチビル写真がズラッと出て来てきてちょっと食欲減退しました・・・。

次に”くちびるオバケ”を検索するのはダイエット中にしよう胸に刻みつつ、毎回飲み会のたびに「ダイエットは明日から」と言ってしまうクセを思い出し反省。

しかしせっかくの旅先、酒を減らすのではない、身体を動かすのだ。

なかなかの頻度で現れる巨大ナメクジやミミズをメメタァしないようにマリオジャンプでかいくぐり、次の目的地へと山を駆け下りた。

第2章 岳温泉の夜

こうして下山した私には、もう1つの使命が待っていた。

「山は登る」「酒も飲む」「両方」やらなくちゃあならないってのが「鬼ころし」のつらいところだな・・・

東北と言えば日本酒

Google先生に「酒屋」と訪ねた結果、思った以上に立派なお店に着いてしまった。

覚悟はいいか?

オレは出来てる!

店内へGOだッ!!

温度管理された地下室には会津若松の地酒がズラリ。

会津若松で有名なお酒といえば「飛露喜(ひろき)」に「寫楽(しゃらく)」私もこの銘柄の限定酒を頂きたかったのですが、残念ながらどちらも売り切れ。

というわけでお店の奥様にオススメをお聞きし、寫楽と同じ蔵で作られたというこちらの『宮泉(みやいずみ)』を頂くことに。

決め手は、たまたま居合わせたお店の常連さんがこのお酒の一升瓶を「これは切らしたくないんだよね〜」と指名買いしていたからでした。

酒だろうとギアだろうと、クチコミほど信頼出来るものはないですからねぇ。

私も新しいギアを購入するときはBBGのレビューやクチコミを参考にしています。押忍!

目的のブツをゲットした後は、明日登る予定の安達太良山の麓へ。

磐梯山(ばんだいさん)サービスエリアからはその名の通り『磐梯山(1,816m)』がドーン。

立派なその山容、眺めていると登りたくなるけれど今回はお預け。

ちょっとその前に、おつかいを済ませます。

名古屋からはるばる運んできたこの大きな歯ブラシのようなギア、実は岩やホールドを磨くクライミング用のブラシ。

福島の友人が愛知に置いて行った忘れ物、名前が書いてある持ち主に返しに行きましょう。

というわけでやって来た『スカイピアあだたらアクティブパーク』はクライミング、スケートボード、スラックラインなどエクストリームスポーツが体験できる大型施設。

今日はもうヨレヨレなので壁は登れませんが、ここでスタッフとして働いている持ち主の「たぁち」に会いに来ました。

往復約1,200kmを旅したブラシとの再会

クライミングジムのお仕事で知り合った、クライミングの国体選手。

そんな彼の元に無事ブラシが戻りました。

私もそこそこ前腕には自信ありますが、国体レベルの上腕二頭筋には敵わないよ・・・。

アクティブパークから車で10分ほど、二本松市の標高600mに栄える『岳(だけ)温泉』。

安達太良山(あだたらやま)の麓に栄えていて、安達太良山の登山口もこのすぐ奥にあるとのこと。

アクティブパークでこちらの温泉街の無料駐車場を教えてもらったので、今夜はこちらで車中泊します。

駐車場に車を停め、温泉街をしばし散策。

先ほどたまたま仲良くなったアクティブパークのスタッフの男の子が、この温泉街の中の居酒屋「よろずや」さんの息子さんだという事だったので、こちらで晩ご飯をお世話になることに。

せっかくなので二本松の地酒を冷酒で。こちらは「奥の松」口当たりが良くて非常に飲みやすい。

おじさま達にカウンターからテーブルへとお招きいただき、賑やかな雰囲気の中で「千功成(せんこうなり)」をご馳走になりました。

こちらはすっきり辛口で食事にピッタリ。

しかし地元のおじさま達のお酒の強いこと、次々に空瓶がテーブルにずらずら並んでいく。

まだ半分以上入ってるうちからお代わり頼んでくださるので、飲んでも飲んでも一切減らないグラスの中身。

嬉しいけど明日の朝ちゃんと起きられるかメチャクチャ心配だよ・・・







第3章 出会いの安達太良山

翌朝、重い体に鞭打ってなんとか安達太良山の奥岳登山口までたどり着きました。

なぜなら今日、私にはどうしても確かめねばならない事がある。

それはまた後ほど。

しかし案の定二日酔い。

ロープウェイを利用すれば1時間の短縮だけど、せっかくなのでここは麓から登ってみよう。

ちょっと頭痛いし顔色悪いけれど頑張って出発します。

私は男のロマンを求めに行くのだ。

探りましょうとも。

安達太良山が別名「乳首山」と言われるその理由を!(キリッ)

乳首への登山道はロープウェイの下をくぐって、樹林帯を進んで行く。

危険そうな羽音の虫が周りをまとわりついて来るけれど、私には昨夜ゲットした虫よけがあるから大丈夫。

くちびるオバケ予防策

ここで東北博士のルマンドフジタさんより連絡があり「東北の山では虫よけと熊鈴は必須ですよ〜」と教えてくれました。

虫除けは今ここにある。けれど熊・・・鈴・・・?

なんと名古屋に忘れて来てしまいました。

周りを見渡すと急に不安になり、準備不足を激しく後悔。

熊出没情報に、誰もいない登山道をビクビクしながら進む。

平日という事もあって人が少ないのは仕方ない。世間の皆様が労働で汗を流す中、乳首で汗を流す私。

しかし完全に二日酔い

何と言っても今日の麓の最高気温は35度、暑いし曇ってきたし顔色も優れず、それになんだか気持ち悪くなってきました。

アツシオガワ

こら、足を閉じなさい。

ロープウェイ駅手前の薬師岳にある有名な「智恵子抄」の一節

智恵子は安達太良山の上に毎日出ている青い空が本当の空だと言ったそうだ。

私も本当の空を見てみたかったけど、今日はあいにくのどんより模様。

近くに居合わせたベテランご夫婦も残念がっていたので、せめてお二人の記念撮影しましょう!と申し出ると私まで撮っていただけました。

ロープウェイ駅からは山頂までゆるやかな木道が続きます。

乳首へと続く木道の脇を飾るのはさまざまな高山植物たち。

「今年はハクサンシャクナゲの当たり年だよ!」とカメラを手にした山の大先輩たちが思い思いの場所で撮影を楽しんでおられます。

♪ある日森の中 熊さんに出会った 花咲く森の道 熊さんに出会った〜♪

私はここで花咲く森の道の木陰からひょっこり現れた「熊ちゃん」こと熊田さんに出会いました。

地元福島で生まれ育った熊ちゃんは現在65歳で、安達太良山で四季折々の景色を写真に撮るのが大好きなのだそう。

熊ちゃんと話しながら山頂直下までやって来た。

今のところ凸とか丸いとか可愛い色だとか、乳首らしい要素は見当たりませんが。

山頂まではそんなに難しくない岩場なので、二人で慎重に登って行きます。

山頂までやって来る頃には青空が見え始めたので記念撮影。

まさかこの祠が。

これが求めていた乳首なのでしょうか?

BBGメンバーの為にもまだまだ、追求しがいがありそうです。

「良かったらちょっと休憩して行きませんか。」と保冷袋から冷たい飲み物とクレープを取り出し勧める熊ちゃん。

きっと自分で食べるはずだった物に違いないのでお断りしたけれど、「たくさん持って来てますから」と渡してくれました。

昨日から地元の方々には施しを受けてばかり。

嬉しいスイーツ補給で元気になった所で、隣の鉄山への縦走路も見えて来たので一緒に行くことに。

65歳とは思えない軽い足取りで歩いて行く熊ちゃん、話を聞いていると若い頃は仲間と日本アルプスへ来てよく登ったとのこと。

「昔は妻と尾瀬や磐梯山を一緒に登っていました。震災の後に脳出血で倒れて、今は家で寝たきりなんです」

なので今は遠出はせず、奥様が待つ家に帰るのだそう。

笑顔でそう話す熊ちゃんの胸中を思うと、色々な感情が押し寄せます。熊ちゃん・・・。

明治に噴火した安達太良山、火山ならではの非常にダイナミックな景色を楽しめる稜線歩き。

ここだけ見たら日本の山じゃないみたい。

いよいよ背景はステキな青空になると、熊ちゃんはここで撮りましょう、あそこで撮りましょう、と自分のカメラで私の写真を沢山撮ってくれました。

熊ちゃんのカメラは古いキャノン、何故かストラップはニコン

「一番身近にいいモデルさんがいたんですよね」と言うと、奥様の写真はまさに山ほどあるのだそう。

私の将来の夢の1つには 「夫婦登山」がありますが、登山と晩酌に付き合ってくれるステキな旦那さまを見つけなければ・・・

後ろにちょうど安達太良の山頂が見えるとのことで、振り返ってみる。

神々しい乳首様のお姿

なんと完璧なまでに凸っている。

この姿が安達太良山が乳首と言われる由縁、探し求めたロマンだったのだ。

さっきまであそこに立っていたのだと思うと、より一層感慨深い。

安達太良山登山の拠点、くろがね小屋にやって来ました。

ここは1年中営業していて、源泉掛け流しの温泉に入れることで有名な山小屋。

入り口には、馬車道を上がってくるトレードマークの古いジムニー。

くろがね小屋のご主人と熊ちゃんは古い友人だそうで、共通の知人の話で盛り上がったりしている。

私はお風呂へ・・・とお代金を払おうとすると、「お土産にどうぞ」と熊ちゃんが入浴代と一緒に手ぬぐいまで買ってくれました。

「ありがたいのですが私、お返しできるものが何もありません。受け取れないです。」と言うと、楽しい時間のお礼ですから、と言って私に渡してくれました。

優しい熊ちゃんに感謝しつつ温泉へ。

平日の真っ昼間ということもあって、女湯は貸切!!

懐古的な気分に浸れる「ケロリン」

気持ちEーーーーーーー!!!

不要なショットでしたね。

ここくろがね小屋の源泉は、昨日泊まった岳温泉と同じとのこと。

しかし麓の温泉街とは違い、岩の間から流れる源泉そのままという評判の泉質は乳白色で柔らかく、とってもお肌に良さそう。

サハラ砂漠のように乾ききった三十路の肌にも染み渡る天然温泉。ここはまさに山のオアシス。

今まで浸かった温泉の中でも、最高の泉質でした!

汗を流してサッパリしたあと、ご主人にお話を聞くことが出来ました。

「歴史があって、素敵な佇まいの小屋ですね」と話したところ、なんと建て替えを予定していて来年度から休業してしまうとのこと。

こんなに立派なのに建て替えだなんて勿体ないと言うと、「こう見えても、見えない所で老朽化が進んでいてね〜」と話すご主人。

木のぬくもりを感じる壁やカウンター、人の集まる開放的な食堂、吹き抜けや年齢を重ねて深い色に染まった梁。

趣のある、現状のくろがね小屋の姿を楽しみたい方は、ぜひ今年度中に訪れてみてはいかがでしょうか。

熊ちゃんいわく、花のシーズンと同じくらい雪景色の安達太良山もおすすめとのことです!

熊ちゃんからのお土産の手ぬぐい

売店で販売されている手ぬぐいには智恵子抄の一節と、山あいに建てられたくろがね小屋の絵が書かれています。

小さくなっていく小屋を振り返って、この手ぬぐいに描かれている絵はまさにこの景色だ!と大興奮。

下山後、別れ際に「この先も気を付けて、東北の山を楽しんで行ってください。また遊びに来てくださいね。」と熊鈴を持っていない私に熊ちゃんが鈴をくれました。

熊ちゃんの熊鈴・・・

なんか面白いなぁ、と笑おうとしたけれど、これでお別れだと思うと思わず涙がポロリ。

東北の人はみんな本当にあったかいな〜。

くろがね小屋が新しくなった頃、また絶対安達太良に帰ってくるね。

後編に続く。