「ピークハントなんてどうでもいい!ただただ素敵な“平ら”に泊まりたいんだ!」と息巻く男がいる。彼の名は「タイラガハラハンター・ユーコンカワイ」。全国の山に数多ある「◯◯平」や「◯◯ヶ原」で野宿することを生き甲斐とする平たい顔族の男である。今回はそんな男の「平ら」を中心とした山から川にかけての物語。最近また悪天候男に戻りつつある彼の、運試しも兼ねた素敵な2DAYSをお送りしていくのである。(文・ユーコンカワイ)

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桧塚奥峰(明神平)1泊2日〜櫛田川

第1章 平にあらずんば人にあらず

平清盛の時代、栄華を極めた平家の者どもはこう言った。

「平(たいら)にあらずんば人にあらず」と。

一方世界に目を向けてみると、かの有名な登山家ジョージ・マロリーも記者から「あなたは何故山に登るのか?」と問われた時に「そこに平らがあるからさ」と言ったのは有名な話だ。

それほど人類とは、古の時代より「平ら」というものに底知れぬ憧れを抱いていたのである。

 

そんな「〇〇平」もしくは「〇〇ヶ原」に猛烈に魅了されている男がいる。

そう、それが今まさに「明神平」というところに泊まりに行くだけという目的で登山口に立つこの男。

自称“タイラガハラハンター”のユーコンカワイ氏である。

今回ハントする「明神平」は、奈良と三重の県境に位置する珠玉の平らとの呼び声高き場所。

ちなみにタイラガハラハンターたちは初めて挑む平らのことを「初平(はつたいら)」と呼び、その素晴らしさを3,000点満点で採点する。

かつて彼が「初平さんに3,000点!」と唸ったのは、もちろん日本No.1平らと呼ばれる北アルプス「雲ノ平」だけである。

雲ノ平に何故かパックラフトを運び上げたという史上初の快挙を達成した時の一コマ。

次点は同じく北アの「五色ヶ原」の2800点、そして九州の「坊ガツル」の2700点である(「ツル」は水流で川のある平らな土地の意なので立派なタイラガハラ)

果たして今回の初平である明神平は何点獲得するだろうか?

素晴らしすぎて思わず「篠崎教授に全部!」と叫んでしまうのか?

ちなみに彼が突然タイラガハラハンターを名乗り出したのは、実は「太りすぎてハードな山頂まで行くのがしんどくなってきたから」という噂があるがその真相のほどは定かではない。

 

そして今回は「平らハント」以外にも、

  • マスオ、快晴運だめし
  • マスオ、眺めのいい場所で大人コーヒーブレイク
  • マスオ、下山後に櫛田川パックラフトでのんびり川下り

の、3本もお送りする予定。

お楽しみにね! んっがっくっく

 

特にこの男、開運パンツを手にしてから奇跡の3連続快晴を決めてきたが、前回の「近江八幡ウキウキお花見水郷めぐり」から再び雲行きが怪しくなっている。

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今回は「本当に自分は晴れ男になったのか?まだ開運は続いてるのか?」という運だめし。

今回の天気もバッチリ晴れ予報だ。

時々曇りになるようだが、ユーコンは「なあに、今の俺なら雲一つない快晴だぜ!」と息巻いて現地入り。

すると登山開始するなり「YOKOSO!明神平へ!」とばかりに目の前でモクモクがボカーン!と爆発した。

思わず「西部警察のロケでもしてんのか?」と目を疑う快晴男。

しかしすぐに「なあに、明神平に着く頃にはどピーカンよ。そう、今の俺ならな。」と意に介さず進んで行く。

こうしてタイラガハラハンターの「平らハント」「快晴運だめし」「大人コーヒーブレイク」「櫛田川パックラフト」への挑戦が始まった。

見さらせ、これが余裕のある大人の1泊2日の生き様だ。

 

第2章 デク・マスオの憂鬱

美しい薔薇に棘があるように、美しい平らにも茨の道が存在する。

秘境への道のりはハードなのである。

何が一番ハードかというと、もちろん全部「己撮り」だからこういう場所を何度も行き来しなくてはならないということ。

カメラをセットし、セルフタイマーで立ち位置まで移動し、再びカメラに戻る。

納得した絵が取れない場合はTAKE2、TAKE3に及ぶことも。

ってことでなかなか進んでいかないし体力も無駄に消耗する。

良い平らに出会うということは、まず「己に勝つ」ことから始めなくてはならないのだ。

そして腹回りには、脂肪という名の、絶好調時より11キロも余分に抱え込んだ腹枷(はらかせ)つき。

もはや鉛の道着を羽織った孫悟空気分だが、この試練に耐えればきっともっとスピーディーに動けるようになるはずだ(ただ残念ながらこの道着はすぐに脱ぐことができない)

そんな鉛の道着に同調してか、空もやたら鉛色になってきた。

暗雲が立ち込め始める吉野の山。

一応おさらいしておくと今日は「晴れ時々曇り」だが、スタートから一貫して曇っているのは気のせいか。

それでも負けじと突き進むマスオさん。

彼は養子という立場の男で、嫁のご両親と完全同居という肩身の狭い男。

普段から義父に「そこの醤油取ってください」すらも言えず、ひどい時はトイレに行くフリをして帰りざまに醤油を取るというストレスの中に日々身を置いている。

なのでこの程度のどんよりした雰囲気なんて、家にいるよりははるかに落ち着くのだ。

そう自分に言い聞かせ、誰もいない暗くジメジメした登山道を進むマスオさん。

やがてそんな養子たちの一筋の涙のような明神滝を越え、

アスレチックランドのようなコースで沢筋の道を抜けると、

突然平坦で気持ちの良いトレイルに到達。

これはトレランで走ったら実に気持ち良さそうだ。 まあ、走れんけどね。

で、疲れた時にはやっぱりコレ。

この段階で「賞味期限が二ヶ月以上切れてるじゃない!」と気づいてしまったアミノバイタルね。

アミノバイタルを通り越してもはや「アミバ」になってねえか?と思ってしまう危険さ。

しかしアミバは言う。

「2ヶ月程度なら大丈夫だ。時代が医学より暴力を必要としているだけのこと。お前はいい締まりをしている。フム・・・活きもいい・・。どうやらきさまは最高の木人形(デク)のようだ!!」と。

こうしてユーコンはこのアミババイタルを飲み干すことに。

これがのちに大惨事への引き金になってしまうのだが、この時の彼はそれを知る由も無い。

 

アミババイタルで栄養補給に成功したデク・マスオは、その後も明神平までの優雅なトレッキングを楽しんだ。

水が豊富なこの山は、美味しい水場も豊富。

このようなパイプがガンガンに突き出してきており、まるでおじいちゃんの放尿をし瓶で受け止めるかのような汲みやすさだ。

おじいちゃんがおじいちゃんの清水を受け止めおじいちゃんボトルへ詰め込む。

このステッカーのおかげで気分はもはや南アルプス。

さあ、美味しい水も補給した。

快晴の明神平はすぐそこだ!

 

第3章 明神平到達

今晩のための水を補給してしばらく進むと、明神平の目印である「あしび山荘」の屋根が見えてきた。

本来であれば一気にテンションが上がる局面だが、山荘の屋根よりも天上を覆うグレイッシュな屋根の方が気になって気分が上がらない。

やがてそのあしび山荘に到達。

ここは天王寺高校所有の小屋なので中には入れないが、この可愛い小屋があるおかげでアルプスの少女ハイジ的な爽やかな雰囲気が…

どうもどんより天気のせいでパッとしない。

雪原の冬、新緑の夏というベストシーズンの合間に来てしまったことで木も芝生も中途半端だ。

しかしタイラガハラハンターにとって、やはり優良な平さんとの初邂逅は毎度感動的。

これが今夜の寝床「明神平」である!

心のフィルターを「快晴新緑モード」にして見れば、相当ナイスな平らだ。

東屋もあるし、あしび山荘以外にもかもしか山荘(右のやつ。天理大所有)があって、とても山の中とは思えない。

ところどころには焚き火跡もあり、皆思い思いにここでテン泊しているようだ。

やがて気持ち良さそうな平らにおニューテントを設置し、

せめてテントくらいはスカイブルー!ZEROGRAMの「El Chalten1.5P」。近々レビュー書きます。

お手製ドライ野菜とドライサーモンをぶち込んだユーコン名物「具沢山にもほどがあるぜカレー」を食ってのんびりランチ。

さあ、こいつで腹が満たされたらお次は食後のコーヒーだ。

おっと、まだここでは飲まないぜ。

あえてこっから1時間半くらいかかる見晴らしの良い場所まで移動してから「食後のコーヒー」を嗜むのが余裕のある大人の過ごし方。

コーヒーセットをザックに突っ込んで、しばし明神平とはお別れ。

今回食後のコーヒースポットに選んだ場所は「桧塚奥峰(ひのきづかおくみね)」という、いかにも吉野の山って感じのネーミングの場所。

そこから吉野の山々を眺めながら珠玉の一杯を飲む。

デキるタイラガハラハンターたる者、素敵な平らをベースにしてどこまで己に酔えるかが勝負なのである。







第4章 ゴルゴダの奇跡

桧塚奥峰に行くには、明神岳を越えて破線ルートを進んで行く行程だ。

たった一杯のコーヒーのために往復3時間、まさに余裕のある大人の遊びである。

この付近の山は全体的に起伏が少なくて「山全体がタイラガハラ」って感じで平ら好きにはたまらない場所だ。

もうどこにテント張っても素敵なワンナイトタイラブが楽しめそうで、悶々が止まらない。

人によっては「なんもないじゃない」って言うかもしれないが、タイラガハラハンターにとってここは吉原の遊郭にでも迷い込んでしまったような気分なのである。

明神平や明神岳は冬季に人気があるらしいが、確かにここ一面が雪原となって樹氷まみれともなればそれも頷ける。

トレランで来ても最高の場所だろう。 まあ、走れんけどね。

 

そんな太った男が痩せた尾根を進んで行くと、

墓標のような明神岳に到達。

木もうねりにうねりって、墓場の鬼太郎に登場する冴えないサラリーマンのようなユーコンカワイの勇姿。

ここからは景色も冴えないので、やはりまだまだ奥の奥へ進んで桧塚奥峰を目指す。

食後のコーヒーを飲むのも楽じゃないのである。

 

やがて「稲中前野のバッチこいポーズ」をしてる妖艶な木を横目に進んで行くと、

地図には載ってなかった「判官平」なるニュー平らが出現。

出会い頭の平らほど感動するものはない。

ここも魅惑のテン泊スペースがあり、明神平もいいけどこっちの小さい平らも思わず判官贔屓してしまうのである。

その判官平を抜けてしばらく行くと徐々に景色が開けていき、ついに空に青空が登場!

やはりまだ開運状態なのか。

しかしその代償とばかりに猛烈な寒風が吹き荒れて、慌ててシェルに身を包むユーコン。

前回の近江八幡もそうだったが、この日に再び4月とは思えない寒波が襲来。

この時点で気温は6度で、風も吹いて体感温度は0度なみ。

それでも歯を食いしばって、美味しい食後のコーヒーのために寒さに耐えて突き進む。

この調子なら今までみたいに「山頂ついた途端にホワイティ」なんて事にはなりそうにない。

ちゃんと景色を見ながらコーヒー飲めそうだ。

やがてゴルゴダの丘の上の磔台のような山頂標識が見えて来た。

寒風の中、ついに桧塚奥峰に到達。

そしてここからの眺めがパーフェクト!

どこまでも広がる台高の山々。

やはり白い絶景で絶望に暮れていたあの頃の自分ではない。

私はこの運試しに勝ったのだ!

 

ホクホク気分のユーコンカワイ。

早速この絶景を見ながらの勝利のコーヒータイムへ。

ザックを下ろし、中からコーヒーセットを出したその時、

空の青さに反し、彼の表情がみるみる曇って行く。

そして彼は叫んだ。

「テントに水置いて来てるじゃねえか!」と。

コーヒーはある。

お湯を沸かす道具もある。

しかし肝心の「水」がないと言うまさか。

素敵な眺望を愛でながらコーヒーを飲むという、この勝利の一杯のためだけに1時間半かけて来たのに。

そしてそれを合図にするかのように、空がパアアアっと晴れはじめ、

ゴルゴダの丘に舞い降りたスポンジ聖者にこの日一番の陽光が降り注ぐ。

これがのちに「ゴルゴダの奇跡」と呼ばれる、ユーコンカワイが提案するニュータイプの絶望の楽しみ方。

開運しようがしまいが、元が元だけに待ち受ける結果は絶望のみ。

しかし彼はまだ折れない。

かろうじて行動水としてポカリスエットを持って来ている。

そして彼は「意地でも食後のコーヒーを!」と叫び、ポカリを沸騰させる道を選び、

あろうことかそれにコーヒーの粉を投入。

もしかしたら「新しい美味しさの発見」があるかもしれないと挑んだ賭けだった。

しかしである。

その結果はこの表情から察していただければ良いだろう。

圧倒的なまずさで襲いかかるコーヒースエット。

酸味と甘みと苦味が奏でる絶望的なハーモニー。

彼は「カフェインとイオンが同時補給できてお得だぜ。」と粋がっているが、その表情は明らかに後悔の色が濃い。

せめて持って来てるのがお茶ならまだ救いはあったろうに…。

余談だが、この時彼は熱せられたカップの取っ手で結構な火傷を負っていたりもする。

 

なんとか頑張って食後のコーヒースエットを飲みきったユーコンカワイ。

失意の中で「さあ、明神平に帰ろうか」と立ち上がると、ここで謎の膝裏激痛が炸裂。

クソ痛いのにカメラセットして己撮りするプロ根性。

山頂で次々と繰り出される奇跡の数々。

こういう時だけやたら晴れてて天気が良いのはなぜなのだろうか?

そっからは来た道をビッコ引きながらの痛々しい下山。

もちろんトレッキングポールはテン場に置いてきている。

浮かれた時がマゾり時。

右足をズリズリと引きながら、敗残兵のように必死の下山。

最近持病のように突然この膝裏痛に襲われるユーコンカワイ。

しかしその理由は明快。

単純に太り過ぎなのである。

 

第5章 決死の脱出行

謎のコーヒーブレイクの末に、勢い余って膝までブレイクさせてしまったユーコンカワイ。

なんとかヘロヘロになりながら明神平に戻ってきた。

あとはもうひたすらここでグダグダと過ごすのみ。

普段時間がなくてなかなか本を読めないので、ここぞとばかりに難しい山岳文学なぞをがっつり読むのである。

とりあえず読んだだけで痩せた気になったので、あとはひたすらツマミ食いながらルービー&スキウイー補給で堕落生活。

おそらく今後も彼は膝裏の痛みに悩まされ続けることだろう。

やがて夜になり、気温はさらに急降下。

こんなに寒くなるなんて想像もしてなかったから、持ってきてるのは超ULシュラフ。

何度も寒さで目が覚めるという、長く辛い夜が更けて行ったのである。

 

 

翌朝。

外に出ると、朝っぱらから天が「もう絶対に今日は晴れる気はないぜ!」とばかりに真っ白けっけ。

しかも昨日に輪をかけてとてつもなく寒いのである。

寒すぎて頭まで伸びてしまっている。

のんびりと明神平の朝を楽しみたかったが、あまりに寒いんで早々にテント撤収。

4月の低山とは思えない寒冷爽やかモーニングの中、重い雲と一緒に記念撮影して希望いっぱいの出発だ。

顔がデカすぎてジッパーが閉まらない。

なんだか天候が酷かったが、今回の明神平は「初平さんに1800点!」といったところか。

新緑の季節ならもっと高得点、冬季に来れば倍率ドン!さらに倍!といった素敵な平らであった。

 

さあ、あとはチャチャっと降って櫛田川でパックラフトだ。

昨日痛めた膝裏も歩ける感じには回復していたので、鼻歌交じりで軽快に下って行った。

しかしである。

いつの間にか「あれ?こんなとこ通ったっけ?」と言った情景に。

写真ではさっぱり分からないが、鋭い斜度のトラバースが続いて足を滑らせたら結構な距離を滑落して行く状況。

おまけに足場はかなり脆く、気付いた時には来た道を戻れないような状態に。

そう、彼はここに来て得意の道迷い遭難に陥ってしまったのである。

 

ズルズルと滑って、気を抜けばすぐに「男塾万歳!」と叫んで滑落するレベル。

元来た道がどうシュミレーションしても100%落ちると判断されたため、高巻いて戻る事に。

一歩一歩進むたびに足で足場を掘り、確実な3点確保を維持しながらのちょっとづつの高巻き。

しかし掴んだ木が腐ってる可能性もある中、いつ「ハズレ」を引いてスーパー滑落を巻き起こすか分からないという恐怖が襲いかかる。

去年沢で鉄砲水食らって決死の高巻きを決めた時以来の恐ろしさ。

1箇所、どうしてもジャンプして2mくらい先の木に掴まらなきゃいけなかった時は決死の覚悟だった。

あの木が腐ってたとしたら、間違いなく今頃は真っ逆さまに落ちてディザイヤだ。

 

そんなマゾ卍をたっぷりと楽しんだ末、ようやく元の登山道に復帰。

改めて見るとこの道をまっすぐ行っちゃったようなんだが、本来の道はここで鋭角に左下に降りてく道があったのだ。

こんな危険度の少ない低山ですら毎度こんなセルフSMプレイをする事になってしまう。

安全地帯に着いた時には、もう1週間ほどアルプスを縦走してる人みたいに気力・体力がボロボロである。

しかし彼の九死に一生スペシャルはまだ終わらない。

そう。

ここに来て昨日の「アミババイタル」が腸内で変な秘孔を突きやがって、たちまち激しい「ゲリラゲリ」に見舞われたのである。

アミバは「その下痢を治す秘孔はこれだ。ん!? まちがったかな・・・。んん~~~??と言ってとぼけている。

ユーコンは「あ!もうダメ!出る出る!えひゃい…!」と叫びながら、激しい内股で必死の下山。

なんとか駐車場に着いて辛うじて記念写真は撮ったが、もはや目は虚ろ。

靴を脱ぐこともなくそのまま車に飛び乗ってトイレを目指す。

もう天気も悪いし、さっきのマゾ卍で体力使い果たしたからパックラフトなんてどうでもいい。

そうだ!来る時近くに温泉があったぞ。

もう今日はそこのトイレでうんこして、そのまま温泉入ってお腹あっためて帰ろう。

 

そう思い、彼はアクセルベタ踏みで温泉を目指す。

そして温泉に到着し、内股小走りで入り口に向かうと、

今はやめてぇぇぇッッ!

 

ここに来て久々の温泉休館日ッッ!

ダメだ!少しも開運してねえじゃねえか!

もう出す気満々だったから、すっかり内容物がケツから「こんにちは」状態。

もうワンパンチで間違いなく彼は人間の尊厳とともにマットに沈んでしまうだろう。

 

しかし諦めたらそこで試合どころか人生終了だ。

彼は顔色をデスラー総統のように真っ青にしながら再び車に飛び乗る。

するとまだ天は彼を見放していなかった。

なんと「さあ!思いっきり我が胸に飛び込んで来るがいい!」と言わんばかりの公衆トイレが出現!

彼は「ありがてえ!」と、転がるようにこのトイレの中に突入。

そしてここで見事にアミバを大放出し、九死に一生を得たのである。

 

…かに思われた。

しかしその後そこで待ち受けていたのは、この旅「最大級の絶望」だったのである。

神に見放され、紙にも見放された男。

九死に一生を得てホッとした後に、突然後頭部を鈍器のようなもので殴打された気分。

余力もなく苦労して倒したと思ったドラクエのラスボスが、再び巨大化して現れてしまった時のようなこの絶望感。

トイレ内に巻き起こるしばしの静寂と、もはや「にげる」すら唱えられずにプルプル震える勇者の姿。

 

結局彼は数分間ここで悩んだ挙句、出来るだけケツを乾かしたあと、意を決してこれでもかとケツをキュッとさせ、ズボンを上げて急いで車に直行。

そしてバックパックの中からトイレットペーパーを取り出し、それを持ってデューク更家のような歩き方で再びトイレイン。

ようやく無事に拭く事ができて、まさに十死に一生スペシャルを生き抜いたのである。

 

するとどうだろう。

絶望視されていた空が、再びパアアアっと晴れてきたではないか。

どうせ温泉も入ってないし、これなら櫛田川をパックラフトで下れると判断。

ここから1時間、大急ぎで車を走らせて櫛田川に到着すると…

バシャ降りである。

この段階でついに「雨」に見舞われる自称開運晴れ男。

一瞬の晴れに浮かれ、わざわざ別ルートで遠回りさせられた挙句にパックラフトを諦めるという無駄な流れ。

そしてその別ルートで来てしまったことにより、帰路は猛烈な大渋滞に巻き込まれて行ったのである。

こうして彼の旅は終わった。

これが彼が目指した「余裕のある大人の1泊2日の生き様」の全てだ。

タイラガハラハンター。

それは常に死と隣り合わせの過酷なお仕事なのである。

 

今回の検証によって、彼の開運パンツの効果は「快晴3回まで」という事が実証できた。

旧ユーコンの厄も野伏ヶ岳の雪原に埋めて来たはずだったが、雪解けとともに封印が解けてしまったんだろう。

 

「どんより空・寒波・コーヒースエット・遭難・ゲリ・温泉休館・雨」

おかえりなさい、ユーコンカワイ。

ちなみに翌日からは快晴のポカポカ陽気となり、一気に平和な春がやって来ました。

 

さあ、次にこのタイラガハラハンターが現れるのはどこの平らなのか?

最高のテン場を求めて今後も彼は戦い続ける。

ゆけ!タイラガハラハンター!

負けるな!タイラガハラハンター!

 

皆さんも「こんな最高のタイラガハラがあるぜ!」ってな情報があれば教えてください。

代わりに僕の方からも有益な情報を二つ。

賞味期限切れの行動食にはくれぐれも気をつけてください。

あと、コーヒーは「お湯」で入れると美味しいらしいですよ。

 

それではまた、どこぞのタイラガハラでお会いしましょう。

アミバカワイがお送りしました。

うわらば!