とかく「蒸らさない」ってことが絶対至上主義と言われるアウトドアウェア業界。特に末端の冷えに悩む人々は皆こぞって高級なグローブやソックスを導入し、ひたすら蒸らさないことに躍起になっている時代だ。そんな中、今回はそんな悩める末端冷え性野郎どもに対して「蒸れたくないだと?ノンノン。そこはあえてムレムレで行こうぜ!」というご乱心的な提案をしてみたい。ちょっとした小ネタとして眉に唾つけながら読むといい!

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ムレムレムンムンVBLシステム

VBLシステムとの出会い

僕は極度の冷え性だ。

そりゃあもうOLさんレベルと言ってもいいほどの冷え性だ。

オフィスで働いている時なんて、ダウンジャケット+ダウンパンツ+テントシューズを履いた上で、さらに湯たんぽ入りのシュラフにくるまりながら仕事をしているほど。

そんな男が厳冬期の3,000m級の雪山に行くとどうなるか?

そりゃあもう、かなり早い段階で指先が凍傷寸前に追い込まれて悲惨な目に遭いましたよ。

指先の感覚が完全になくなって泣きそうでした。

この時は、とにかく蒸らさないようにとゴアテックスのグローブを使用したのに全然ダメだった(安物だったけどね)。

結局外に排出されなかった汗がムレてグローブを濡らし、それが冷却の元になってしまったのだ。

一度冷えてしまうと、平熱が35度台という低体温野郎の僕ではもはや自力復活は望めない。

 

この時の凍傷未遂以来、僕は「いかにして汗を残さないか?」「どうしたら蒸らさずに済むのか?」を模索し続けた。

しかし透湿性が優れてて保温力の高い高級グローブなんて、万年低収入の僕にはとても手が出ない。

 

でも雪山行きたい!でも金がねえ!でも凍傷は嫌だ!

何か方法はないか….。

低体温、低血圧、低収入の僕でも凍傷にならないいい方法は…。

そんな時である!

 

とある情報筋(白馬のラオウと呼ばれる男)から、「ぬうううん!!この極寒の世紀末!!もはや蒸らさない時代は終わった!これからはムレムレな奴こそ勝者である!!」という画期的な情報を得たのである。

誰もが蒸らさないように躍起になってるこの時代に、「あえて蒸らす」というアウトローさ。

まさに「習うより蒸れろ」「虎穴に入らずんばマゾを得ず」といった男塾魂。

そのムレムレシステムの名は「VBL」というものだった。

 

VBLとは「Vapor Barrier Liner」の略で、アラスカなど極地で採用されているという防寒システムだ。

その理論によると、「人間の皮膚は100%湿度が飽和して蒸れている状態ではそれ以上汗をかくことがない。だからムレムレマックスの状態こそが最も体温低下を抑えることになるのだ!」っていうもの。

要するに「汗をかきたくねえだと!だったら汗をかけ!」と言うとんちのような状態こそが、最も暖かさをキープする秘訣だと言うのである。

 

最初これを聞いた時は「ラオウが俺を殺しにかかってきた」と思った。

そんな見え透いた罠に引っかかって凍傷になってしまった日には目も当てられない。

しかし一方でそれは「男とはなんぞや?お前の男度を我に示して見せよ。」と言われているようで、男塾の塾生としては黙っているわけにはいかなかった。

「よし!だったらこの男塾一号生田沢慎一郎!命がけでテストしてみようぞ!」となり、まずはVBLのグローブからテストすることになったのである。

それが今からおよそ4年前の話である。

 

VBLグローブ

VBLシステムは自作可能なんだが、当時僕は「ラボラトリズムVBLグローブver.2」というものを購入(当時6,300円)。

山岳スキーヤーの故新井裕己さんがゴム会社との共同開発で作ったグローブである。

こいつでVBLシステムの仕様を解説していこう。

まずアウターは完全防水のゴム素材(-60度でも硬化しない素材)。

保温層であるミッドレイヤーはフリースグローブ。

そしてキモとなるインナー部分が、なんと「薄手のゴム手袋」と言うまさか。

ペラッペラで保温力ゼロ。当たり前だけど透湿性ゼロ!

そう、このゴム手袋でひたすら手をムレムレにしてやろうという、一見自殺行為とも思えるシステムがVBLだ。

しかし理論上は、この中がムレムレマックスになった時、もう手から汗をかく事がなくなって体温が低下しないっていう寸法のはず。

言ってみれば全身が濡れて初めて保温力がキープされるウェットスーツと原理は一緒?なのだ。

 

で、実際それを使ってみた。

僕のファーストインプレッションは「あ…あああ…あったけえじゃねえか!」というものだった。

手の中は当たり前のように汗びっちょなんだが、全然冷たくならない。

むしろ手の中だけちょっとしたサウナ状態というか、暖かさが常時キープされるのだ。

小屋帰ってグローブを脱いだ時なんて、ぼふわぁっと湯気が出てくるくらいなのである。

わかりにくいけど、手からオーラのように湯気がモワモワ。

アウターもゴム素材なんで雪が付着しないから、雪の作業やラッセル時でも快適そのもの。

最初のうちは怖くて予備グローブとして持っていっていたんだが、次第にこいつが厳冬期稜線アタック時のメイングローブに昇格していったのである。

でももちろんメリットばかりではない。

このVBLシステムは「一度はめたら外さない事」が大切。

一旦外しちゃうと、ムレムレに溜まった水分が一気に冷やされて、せっかくの保温飽和状態が振り出しに戻ってしまうからだ。

スマホ操作しようとゴム手だけになったら猛烈に冷えてった。

なので僕はハイクアップ時は通常グローブで、絶対にグローブを外さないっていうアタック時にVBLグローブを使用。

あと、アイスクライミング時のビレイ時とか、停滞時間が長くなるとやっぱり冷えてくる。

基本的に動き続けた上で「体温上がる→ムレムレがあったかくなる→体温上がる→ムレムレがあったかくなる」のサイクルを繰り返すものなので、停滞時間が長くなるとどうしても冷えて行ってしまう。

 

とは言え、このVBLシステムは末端冷え性の僕に一筋の希望を与えてくれた。

そこでムレムレ依存症になった僕は、次に足先のムレムレ化に打って出たのである。







 

アルパインクライマーソックス

足も蒸発した汗がブーツを濡らし、それが冷えてしまうのが冷え冷えの原因。

VBLグローブで味をしめた僕は、「だったら足も蒸らして汗を閉じ込めちゃえばいいじゃないか!」と思い立つ。

そんなタイミングで、当時ノースフェイスとアルパインクライマーの馬目弘仁さん・佐藤裕介さんが共同開発して発売したのが「アルパインクライマーソックス」だった。

こいつは3mm厚のネオプレン製ソックスで、保温性を保ちながら汗をソックスの外側に逃がさないという、まさにソックス版VBLシステム。

コンセプトが「マイナス20℃以下の厳冬期長期縦走用」として作られてるため、その効果には期待大。

足がムレムレなんてどう考えても靴擦れしまくりそうだったが、そこはロマンを追い求める男塾塾生として試さないわけにはいかなかった。

 

で、これもがっつり雪山で何度も使用。

するとこれまた「あ…あああ…あったけえじゃねえか!」ということに。

しかも意外と靴擦れもなく、不快感も違和感もないというまさか。

もちろんこれも停滞時間が長くなる状況だと冷えては来るんだが、全然アリアリな保温性。

これも一旦履いたらもう脱いではいけないわけで、基本何泊しようと履きっぱなしでい続ける事が大切だ(テント内では足先にカイロ貼ってそのままテントシューズ履けばもうヌックヌクよ)。

故に欠点としては、数日間履きっぱなしなので下山してから脱いだ時のオイニーが超絶パネえことになっているってこと。

しかもお風呂に入りすぎたおじいちゃんみたいに足がシワシワになるのだ。

ソックスを履いてた部分だけ肌の色も真っ白になるんで、そのまま温泉に入って行くと「おい!あいつハイソックス履いたまま入って来てるぞ!」と言われそうでちょっと恥ずかしい。

 

ちなみにこいつは何気に沢登りの時とか山釣りの時とか川下りの時とかでも重宝するんで、オールシーズン大活躍。

正直最初は冗談半分で買ったんだが、今では我がソックス投手陣の中では一年中無くては困るエースへと成長した。

 

これで僕は「VBLグローブ&アルパインクライマーソックス」によって、上も下もゴム人間になってムレムレで雪山を冒険するようになった。

気分はもはやモンキー・D・ルフィのギアセカンド状態なのである。

 

VBLシステムを作ってみよう!

ってことで多少VBLシステムに興味湧いたでしょうか?

こればっかりは実際に自分でやってみないとわかんない世界ですね。

VBLグローブは自作可能ですが、一応まだラボラトリズムのグローブも少しだけ売ってるようです。

アイテム画像
アイテム名 ラボラトリズム VBLグローブ
メーカー価格 6,300円+税
BUY NOW

※画像クリックでメーカーサイトへ

アルパインクライマーソックスに関しては、ノースフェイスの販売サイトから出ておりますよ。

アイテム画像
アイテム名 アルパインクライマーソックス
素材 両面トリコット・ネオプレーン3.0mm厚
機能 アルパインクライマー:馬目弘仁氏共同開発/アルパインクライミング向け/高伸縮性/VBLシステムによる発汗抑制作用/速乾性(着脱後)/簡易防水性(簡易テントシューズにおすすめ)/立体縫製(肌面にあたりが出ないすくい縫い)/保温性
サイズ 25、26、27、28
カラー (TR)TNFレッド
メーカー価格 3,500円+税
BUY NOW

※画像クリックでメーカーサイトへ

ソックスは自作は厳しいけど、沢登りや渓流釣り用のネオプレンソックスで代用可能。

でもこのアルパインクライマーソックスは、縫い目が肌面に出ないすくい縫いを施していたり、足にフィットするように立体裁断されてたりするんでやっぱりオススメです。

 

で、一応グローブは自作できるって言ったけど、トライアル的に現時点で一番安く試せる方法を考察してみた。

最近僕は安くてお気軽な防寒テムレスもよく使ってるんだが、こないだふと「こいつも-60度対応のゴム手袋だな。VBL化できるんじゃないか?」と思い立ってしまったのである。

せっかく「手が蒸れないからテムレス」という商品名なのに、そこをあえて「蒸れないテムレスを蒸らしてしまう」という超アウトローな実験に打って出たのである。

 

用意したのはこちら。

大きめサイズ(LL)の防寒テムレス、100均のフリース手袋、同じく100円のゴム手袋。

早速こいつをガシーンっと合体!

これで「防寒テムレル」の完成だ!

 

なんだろう、このメーカーの意図に真っ向から背いてしまったこのいけない気持ち。

濡れ場NGの清純派女優にベッドシーンを強要してしまうかのようなこの背徳感。

最高だぁ…。

 

で、早速現場テスト。

実際には、テムレスがLLサイズでもやっぱ中はキツキツになっちゃったんで、中間のフリースはやめた。

キツキツすぎると血流を止めてしまって逆に冷えの原因になっちゃうから。

でもテムレスは内側にボアの起毛がついてるんで、実際には薄手のゴム手+テムレスで十分暖かかった。

というかハイクアップ中は逆に暑すぎるほど。

もうグローブの中がムレムレのムンムンよ。

やっぱハイクアップ中は体温調節とか細かい作業とかもあったりするから、VBLじゃなくって普通のインナーグローブのが便利ね。

で、絶対グローブを脱がない稜線アタック前にインナーをゴム手に替えてVBL化するのが賢い使い方かもしれない。

 

とりあえず、この「防寒テムレル」はちゃんとVBLとして機能することは判明した。

まず一回VBLってもんを試してみてえって人は、一度体験してみてもいいかもよ。

もちろんそん時は(その時に限らず)、必ず予備のグローブ持って行ってね。

アイテム名 防寒テムレス
アイテム画像
メーカー価格 約1,600円+税
BUY NOW

出典:SHOWA ※画像クリックでメーカーサイトへ

 

今回はそんな「VBL」っていう方法があるよ!という小ネタでございました。

誰にでもオススメするかと言ったらなんとも言えないが、一つの方法論として頭に入れといてもいいでしょう。

 

本当にあったかいのか?アリなのか?

信じるか信じないかはあなた次第なのである。

 

それではまたお会いしましょう。

何もしてなくても常時股間がムレムレなVBL男。

ユーコンカワイの小話でした。