まさかの通行止めからの急転白峰三山。灼熱の太陽を浴びながら地獄の大門沢を登りつめ、鐘を鳴らして「さあ!これからだ!」といった段階で白に支配される魅惑の稜線。真っ白な農鳥岳-間ノ岳を堪能して何度も心を折られそうになるが、彼は「諦めたらそこで試合終了だ!」と、最後の北岳に夢をつないでその足を進めるのであった。

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第3章:夢を信じて!北岳編

間ノ岳を制覇し、北岳山荘を目指して再び精神と時の部屋をさまよい歩く。

綺麗な風景を撮るためにわざわざ重たい一眼レフ担いできたが、正直iPhoneでも、いや、写ルンですでもよかったんじゃないのか?

一体私はなんのためにこの過酷な道を歩き続けてるのだろうか?

すれ違うすべての登山者に、「こんにちは」ではなく思わず「ごめんなさい」と言いそうになってしまう厳しい時間帯。

私のような本厄悪天候男とたまたま同じ山に来てしまったばかりに、一般の方々をこんなホワイトに巻き込んでしまったと猛反省。

やがてそんなホワイトの中に、うっすら浮かぶ北岳山荘。

今日はここでテン泊し、明日の北岳に全てを賭ける。

さすがは明日が山の日の祝日とあってか、13時の段階ですでにテン場はいっぱい。

きっとモクモクさんがいなかったら絶景のテン場なんだろう。

とりあえずテントを張り終えたら、あとで一軒一軒テントを回って土下座でもしてこよう。

 

で、結局トイレの脇の高台しかテントを張る場所がなく、常時上昇気流に乗ってうんこのかほりが楽しめるという特等席に。

挙句この後玄関が向かい合わせになる形で目の前に中国人の方が豪快にテントを張るというまさか。

そしてその人がいつも「ズビビビッ、ズビビビッ」と大きな音で鼻をすするので気になってしょうがない。

で、寝ようと思うと突然「バッショーイッ」と爆音のようなくしゃみをするから、その度に僕はびっくりして飛び起きるの繰り返し。

耳栓をして再び寝るが、それでもその人のいびきが地の底の方から「ズゴゴゴゴゴ」と聞こえてくる始末。

結局気になりすぎて全然眠れなかった…。

 

翌朝。

中華ナイトフィーバーを乗り越えた私は、日が昇る前には出発。

実はまだ懲りもせず、私にとって幻の現象である「ご来光」を諦めてはいなかった。

なぜなら昨日見た天気予報では、霧が出るとはいえ朝は晴れるという予報になっていたからだ。

早朝が勝負だ。

もう何年もご来光なんて見てないし、白峰三山からの景色を一度も見ずに下山するなんてありえない。

私は絶好のご来光スポットを目指し、猛スピードで進んで行った。

やがて、見事ご来光の時間にビュースポットに到達!

わー、すごーい、ご来光だー。まぶしー。

所詮ご来光なんて都市伝説だ。

アルプスでそんなもんが見えるわけがない。

世の中のご来光写真は全部CGだ。

 

そろそろ大声をあげて泣きたくなって来た。

しかしここで泣いたら安西先生に怒られる。

諦めたらそこで試合終了だ。

 

私は歯を食いしばり、目を潤ませながら北岳に向けた最後の急登を駆け上がって行った。

そしてついに奇跡が起こる。

この白にまみれた白峰三山。

絶対に景色なんて見れないと思われた最後の北岳。

そう、

ついに私は「白峰三山ホワイト一気通貫」の偉業を達成したのである!

空前絶後の超絶孤高の悪天候男!

白を愛し、白に愛された男!

そう、全てを白で歩き通したこの俺は!

 

ノン・サンシャイーン

ユー!ボコォ!コーン!

 

イエェェェェェ〜〜イ!!

 

ジーザス!!

本当に、本当に楽しみだった白峰三山の縦走。

これじゃ「白峰三山」じゃなくて、ただの「白しかねぇ散々」じゃねえか…。

結局晴れてたのは景色もない樹林帯の中だけ…。

通行止めから始まり、俺ぁこの3日間一体何をしているんだ…。

安西先生…俺ぁ最後まで諦めなかったけど…どうやら試合は最初っから終了してたみたいでさぁ…。

 

泣いた。

私は声の限りに泣いた。

とうの昔に枯れ果てたと思っていた私の涙が、黒部ダムの観光放水のようにとめどなく溢れて来る。

しかし今日は「山の日」。

これから北岳に登ってくるであろう沢山の人達にご迷惑をかけてはならない。

さあ、涙を拭いて、私のような迷惑本厄男はいち早く下山して差し上げなくては。

私は逃げるように猛スピードで北岳を下山して行った。

途中で富山在住のキトキトTさんと意気投合し、養子の日々のストレスの悩みを聞いてもらいながらさっさと広河原へ。

キトキトTさんはジャストタイミングで北沢峠行きの乗合タクシーへ。

僕もいいタイミングで奈良田行きのバスに乗れたから急いで飛び乗った。

しかしである。

奈良田行きだと思ったバスが実は「甲府駅行きのバス」で、それに気づいて「スイマセーン!乗るバス間違えました!降ろしてくださーい!」と懇願して途中で降ろされるという羞恥プレイ。

そして再び元来た道を広河原目指してトボトボと歩いて戻っていくという謎の延長戦ハイクへ。

薄々感じていたことだが、やはり私はアホなのか?

しかもなぜ今になって燦々と太陽が降り注いでいるのか?

本当に私は一体何をしにここに来たんだ?

なんだかもうメガネが曇っちゃってまともに前が見えやしねえ。

 

広河原に戻ると、奈良田行きの便は出たばかりで次に来るのは「1時間半後」というまさか。

あんなに猛スピードで下山して来たのに、この待ちぼうけは一体なんなんだ。

テントも速効で乾いてしまうほどに天気がいい。

今頃入れ違いで北岳を登って行った人たちは、素晴らしい絶景を見ることができたことだろう。

これでいい。

これでいいんだ…。







 

エピローグ:悲しみの果てに

こうして見事に「白峰三山ベストホワイティスト賞」を受賞した男。

テントは乾いても彼の目から流れ出るものはいつまでたっても乾くことはなかったという。

 

綿密に計画した聖パックトランピングが通行止めで現場にすらたどり着けず、意図せずに突入した彼の白峰三山。

絶対に晴れた日じゃないと行かないと心に決め、ずっと楽しみに楽しみに取っておいた白峰三山。

灼熱の快晴を樹林帯ハイクアップに捧げ、天下の縦走路を全て白で通し、中華ナイトフィーバーを経て下山後はバスを間違えての待ちぼうけ。

これが本厄の力。

 

その後彼は、見事にお盆の帰省ラッシュに飲み込まれ、高速道路で大渋滞に巻き込まれることになる。

しかも名古屋に入った途端、猛烈なゲリラ豪雨に。

彼は「もう、なんだっていいや。どんなにワイパーをMAXにしても目ん玉がずぶ濡れでどうせ何も見えやしねえんだ。」と呟くばかり。

 

いつの日か、彼がアルプスの稜線の景色やご来光を見れる日は来るのだろうか?

というか普通に計画通りに物事を進められる日は来るのだろうか?

それは誰にもわからない。

 

BBGでは晴れ男、晴れ女、もしくは強烈な厄祓い師の方を募集しています。

どうか彼に一般の皆様が見ているであろうアルプスの景色を見せてあげてください。

よろしくお願いいたします。

 

それではまたお会いしましょう。

ノンサンシャインカワイでした。

 

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